第15話 水の魔法訓練
前日、彼らと別れ、次に会う日はいつになるだろうか……と、もの思いにふけったが、彼らはあっさりと次の日に僕の暮す勇者の間へとやって来た。
僕はと言うと、今日は休みだろうと勝手に思い込み、彼らが置いて行った本を読み、長椅子のソファの上で、夢の中に居た。
だから彼らのドアをノック音は、夢の中の僕には聞こえず、彼らの気配に気づき起きた頃には、ドアの外に立っているはずだった兵士のシルスさん達と、ぬいぬいとオリエラは、目覚めぬ僕のソファの横で大騒ぎしている頃だった。
「ハヤト大丈夫? どこか調子悪いの?」オリエラが心配そうに言った。
「熱もなく、脈絡も正常だったが、調子が悪いようなら医者を呼ぶが?」
「あ……少しばかり常日頃から、寝起きが悪いだけなので……大丈夫です……」
「寝起きが悪い……のか?……なんにせよ、疲れが出て来た頃だろう……」
みんなは僕との体調について尚も疑い、気にかけてくれる。『安心しました。では、これで』と言って去って行った兵達の視線の中には、僕の健康を心配する気配はまだあった。
「何にせよ。今日の授業の内容を説明するが、喜べ、兵士の練習場が使える事になった。レンが前もって手をまわしておいてくれた様だ。練習場は、この国一番の練習施設だ。防御魔法が張ってあり、山と変わらず自由に魔法が打てる。そして何より近い!」
「ありがとうございます」
「礼は、レンに言うといい彼女が、議会に申請してくれておいたおかげだからな」
「でも、どうしてこんなに急に、許可が通ったんでしょうね」
「う……んそれはだな、前回、紙一重の事態をレンがおおげさに会議で物申し、宰相さいしょうのダイジスに無理やり通したらしい……。これで借りは、1つ返したとレンは言ってたが、まぁいつもの事だから気にするな」
「私も初めてだからワクワクするよ」
オリエラは、目を輝かせて喜んでいる。
僕は、レンさんとダイジスさんの関係に身震いした。
「では、城の兵士練習場へと行くか!」
「出発!」
そう言って僕の師匠と姉弟子は、さっさと行動に移してしまう。僕は慌てて鍵を持ち、準備をする。
そしてさぁ――出発と言う時に、扉を開け外へ出たぬいぬいが「ちょっと待ってろ」と言って門の、横に立つシルスさんに話しかける。
「彼に魔法の訓練を、手伝って貰う」
シルスさんと門からやって来た、ぬいぬいはそう告げた。
シルスさんはその横で、人の良さそうな顔で笑っているだけだった。……親戚のお兄さんに無理言って、遊びに連れて行って貰う姉の子どもって雰囲気も無くはない……。
「「シルスさん、ありがとうございます。よろしくおねがいします」」
「勇者様達の為なら喜んで」
彼は敬礼をしてにっこり笑った。
「では、行くぞ」
城全体の構図から見ると向かって左翼側、勇者の間を出て、城への入口へ通じると城門の交差する噴水を通り抜け、向かって城の右翼側にある建物へと入った。その建物は勇者の間よりも何倍も大きく、コロシアムとバッティングセンターを2つを合わせた様な造りになっている。コロシアム側からも道はありだから実際はもっと大きいのかもしれないが、練習場側の様にオープンな造りではないので、入り口から推し量る事が出来ない。僕はそっちの方には、お風呂を借りた時しか入った事がない。
「魔法学校の練習場より造りがおおきーい」
オリエラは、天井を見上げながら手を広げて、ゆっくりくるりとまわった。
「兵士ともなるとこれくらいは必要だからな、しかしこの広さでも壁をぶち破る、新人も10年に1人は出る」
「ハヤト、その事に気兼ねする必要は無い。壊れても直せる。オリエラもハヤトの魔法に安定性が出れば、二人で並び練習するのもいいだろう頑張れよ」
「師匠、今ではまだ足りない?」
オリエラが、慌てるがぬいぬいは涼しい顔で――。
「ハヤトがギルドクエストに、行く様になれば同行者として足りものが、おのずと見えてくるだろう」
「もう、そんな話になるのか……、それにしても、もうギルドクエストの話しが出てくるのはさすがに、魔法学校在校生としては複雑だよ、」
「オリエラとはパーティを組むことは確定なのですか?」
僕は二人に聞く。
「まぁな」とぬいぬいは答えるが、オリエラは「そうらしいです」と肩を落とす。
「勇者のパーティーの候補者は、もう何代も前の勇者パーティから決められた一族がいる。王族に、アルトの一族、そして教会で選定される聖女、もしくは、日いずる国の巫女だな」
「あの僕が勇者であるかもしれませんが、今の魔王を攻撃する事は考えていません。僕の最初の目標は、魔界に行く時なので、仲間は募りますが、オリエラの望む様にしていいと思います。僕が断った事にしますよ」
「いや、とかではなくて……まぁいろいろあるんです。学校とか、追い越される悲しみとかいろいろ」
「学校、あ……なるほど。それはわかる。だから、やっぱり無理はしないで」
「二人ともとりあえず、初歩からだ。旅の話はまだ早い」
僕達は、バッティングセンターの様な造りの施設に入り辺りを見回すと、サークルは作られてはいたが、真ん中には炎の絵が描かれているものだった。
「……サークルの炎は……使えないよな? やっぱり」
「そうですね。我々は魔法も使いますが、その前に兵士なので、サークルは作ってありますが、義式はどうしても省略してしまいます。まぁ、魔法以外は極力、火気厳禁ですしね」
「魔法で使うならあまり火気厳禁の意味はない気がするんですが……」
ぬいぬいとシルスさんの間に入って、僕も質問をする。
「まぁ、風紀的な物がいろいろあるんだろ。では、サークルに到着したわけだが、かっこいい詠唱の呪文について考えて来たか? 俺は、前回ので一カ月以上は済ますつもりだから省略するぞ」
「無いならうちの魔法剣の教室で、流行っている『焼肉定食!』」
そう言ってオリエラは、剣を掲げる。やはり武器は、突然あらわれる。
「意味は、火力強めでお前を料理してやるぞって事。先生には、概おおむね好評だよ」
「エスメラルダ?」
「うん、エスメラルダ先生」
「エスメラルダは、魔法剣の威力が上がれなんでもありだからな……。時々、それ最後の言葉になるかもしれないけどいいの? って聞いてくるらしいが……」
「でも、魔力単純に上がるからしかたないよね……」
「だな……」
そんなお姫様とそのお師匠の話しを、少し唖然として聞いている、兵士シルスさん。軍ってそう言うのには、厳しいそうだから仕方ないか……。
そして儀式も終わり、今回の僕の魔法訓練は、ぬいぬいとシルスさんの二人が僕のサポートに付き、後方にオリエラがサークルの木で作られた椅子に座って見守って居る。
「今回は、水の魔法をやってみるか」
「ハヤトは、どんな魔法を撃てばいいと思うんだ?」
「まずは、水鉄砲、水圧は高めで、銃……、えっと……弓矢の様に、相手を射抜く感じの魔法ににしたいですね。ですが、まず最初は調整せず、魔法を使う事からやって行きます」
「じゃーやれ」ぬいぬいからのゴーサインに合わせイメージを始める。
心臓のマナを水で満たす、すると自然に水は溢れるイメージとなって腕へと向かう。手のひらから溢あふれた水がこぼれ落ちる。ジョボジョボ……。
僕の発動させた水は、水道水のよう重量に逆らえず、下へと落ちる。それを3人が見つめている……。
「オホン」
僕は嘘くさい咳を1つしたのちに、試しに魔法を一度止め、手を鉄砲の形に魔法を発動させた。まっすぐに勢いよく前へ飛ぶ水。
「おぉ」「やった――!」とシルスとオリエラから歓声が挙がる。これからどうイメージを強化し、もっと殺傷能力のある魔法にして行くか……。
そんな事を考えでいた僕に、ぬいぬいがどこから出したのか、杖を持ちだし僕の横腹をつつく。
「えっ?」
「今、お前はここを攻撃されたらどうする?」
僕は、魔法を止めて考える。
「今の僕に標的を素早く、仲間を攻撃せずに、魔法で攻撃するのは難しいです。手やひじで相手の武器……剣ならこちらが不利。足は逆にすくわれダウンさせられそうですよね……」
僕がそう言うと、ぬいぬいは頭をコクン、コクンとして相槌をうつ。
「まぁ、魔法使いが、前衛に剣を向けられている事、自体大変不利なので、奇抜な方法。ここでは魔法を使い、状況を乗り切ってくれ」
「じゃーやはり基本に戻って魔法を凝縮させたのち、山でみんなが張った防御壁や攻撃魔法を相手にぶつけた方が無難ですか?」
「まぁそうだ、それが基本だからな。だが、さっきのやり方もお前の選択しだいでは、悪くないものへと変わる。魔法は、自由度が高く難しいが、その動きを洗練させればさせるほど、深まる。」
「練習のやり込みが重要って事ですね」
「そして一般的に言われる事だが、実際の戦闘経験もだ。じゃあハヤト、マナの中の魔力が尽きるか、夕ご飯の時間になるまで水魔法の基礎を撃って貰おうか」
そう言って彼は、にゃりと笑う。
「ハヤト、頑張って! やってればすぐ身体が慣れるから」
と、僕達の動きが止まったからなのか、オリエラは近くに来ていてそう言う。シルスさんは、うんうんと、僕をあたたかい笑顔で見つめるのだった。
続く
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