第14話 小瓶の中の大精霊

 執事のシャルルさんに入れて貰った紅茶で、しばしの休憩を終えふたたび僕らは、魔法の授業が再開する。


 しかしぬいぬいの予定していた、精霊の小瓶との交流は、続行不可能。


 しかしこれから山へ修行に行くには、僕という人物がこの国で、王族及び教会での信用を得られていない事から難しい。たぶん八方塞がりなのではないだろうか?


「精霊の小瓶が、使え無くはなったがそれについては便利な道具が使え無くはなっただけに過ぎない。世界を構成する5つの属性『空』を除く。『地』『水』『風』『火』、それ以外にも氷や雪、雷など魔法に使いやすい属性は多くある。昔の魔法使いは小瓶なんてもの無に、精霊の属性それぞれを認知出来たのだから問題はないだろう。これから野山を歩き精霊を感知しろ」


「その前に城から勝手に出られないです」


「あっ……、お前の暮らしは不自由すぎるな……」


「それについては同感です。でも、この世界の魔法の在り方は、自然の中で暮していれば、初心者から魔法を使えるなんて凄く浪漫があってなんか凄いですね」


「それについてはいろいろ難しくはある。自然の中の暮らしは、初期魔法を覚えるに長けているが、生活に密着したもの魔法だけになる。それだけなら最近発達して来た、科学なるもので代用出来てしまう部分もあり、そんな初期魔法を使える事は、今では少し便利程度になってきてしまった。残念ながら。だから俺の里の者の中で、秀でた魔力がある者は、より技術を求めここの魔法学校へ入学する。しかし、そんな優秀な我が里の者でも、お前の様にすべての魔法の属性を同等に扱えるわけもくなく、普通ならまず自分が得意とする属性を探す事に費やす事になる。」


 ぬいぬいは、脚を少し広げてそこに、結んだ両手を置き話す。そして時折り、手の動作を交え僕へと説明する。僕はそんな先生の話を、ただ聞く事のみに専念していた。


「だから……何と言うか、この国がお前の事を恐れる事を、悪く思わないでくれ。やはり私達にはお前を受け入れるのに時間がいる。……んだと思う。だから今後しばらくはギルドを通しての許可を得て、山への訓練に行く事になると思う。この城の兵士練習場での練習が、出来る様にもレンに取り計らって貰うがな……、お前から何か希望はあるか?」


「うん……、実は、剣術なども習ってみたいのですが……」


「杖での攻撃なら教えてやれるが……、オリエラ、お前教えられるか?」


「無理言わないでよ、師匠。私ではハヤトの全ての、悪い癖は見抜けないよ、絶対ちゃんとした師匠についた方がいいよ。私が教えた勇者ですけど、後はお願いしますなんて私は、絶対言えないし、したくない」


「だそうた。レンもそっちついては考えているだろうが、通す筋があり過ぎて動けないってところだろう。そっちはしばらく待ってくれ。他に希望がないようなら、今日はここまでにして帰るから、水の小瓶を寄越せ」


「希望は他にないですね。小瓶ありがとうごいました」


 そう言って僕は胸ポケットを探り、手を差し出すぬいぬいに渡そうとしたのだが、僕は、「あっ」と声を出し、それをリビングテーブルの上へと置いた。


「どうした?」ぬいぬいが怪訝な顔をして見ている。


「人型の精霊が、また来てしまった様です。彼女の青色の瞳が見えました」


「まぁあれだけ事をやれば、ウンディーネも来るわな」


「師匠凄くない? ウンディーネだよ? 見たい、でも……見れない怖い! どうしょう――」


 先程まで僕の授業を邪魔しない様にしていたオリエラが、ぬいぬいの隣に座り直し、ソファーに座りながら足をバタっかせた。


「お前は、どうもするな」


 ぬいぬいがそう言うと同時に、僕達の座って居るソファーは少し浮かび上がり、机から離される。


「ウンディーネなどの大精霊とは、とりあえず神聖な場所で契約結ぶ事になる。か、要は彼らの気分しだい。彼らの好むやり方ならそれでいいだろう。逆に言うとそれだけ大精霊は気難しく、時に人をさらう事もあるし、あやめる事もある」


「ハヤト……お前は精霊に好かれている分、囚われやすいだからまだ彼らには触れるな」


「はい」


「でも、この瓶の中に、連れて行かれてしまうのですか?」


「いろいろだ、自から近くの川の水の中に入ってしまう者いる。そいつらについては、大精霊が関わっているのでは? と、推測でしかわからん」


「俺はお前の力を得た、他の大精霊やウンディーネと戦うのは、まっぴらごめんだからな? 魔法に傾倒けいとうするあまり、囚われてくれるなよ」


「師匠、私は?」


「お前は、ウンディーネに好かれるかどうかを考えるより、まだまだちゃんと基礎をやってくださいよっと」


 ぬいぬいは立ち上がり、僕の居た机の前まで近づくと、瓶の中を覗きこむ。

「うむ……まだ、居るなぁ――」


「うん……最近よく来るんですよね」


「師匠は、大丈夫なの?」


「俺? 俺には契約してるウンディーネは、もういるからなぁ――」


「そいつと敵対してるのでなければ、なかなか手はだされん、だから……こいつも、嫌な顔をして帰って行った」

 そう言うと、ぬいぬいは小瓶をひょいっと、摘まみ上げて胸元にいれた。


「次回は、なんの進展もなければ、山へふたたびピクニックだ。帰りに申請だけして、帰る事にする。」


 ぬいぬいは大きな鞄を漁ると次々巻き物や、本を机の上に積み上げる。赤ん坊用のおもちゃまで、机の上に散乱した。


「うん? ないなぁ」


「師匠、図書館の本なら、私に預けたでしょう」


「あぁ――そうだった」


「はい、ハヤト」

 オリエラは一冊の本を、鞄から出して差し出した。


「この本は、結構難しいから、眠る時読むと眠れるよ」


「魔法学校の初等科の教科書だと、結構簡単に魔法が理解出来るんだが……。それでイメージして大爆破されても困るから、イメージ作りがうまく定着するまでこれだ」

 ぬいぬいはふたたび、不吉な前振りをした。そして本の表紙には、『魔法の属性』と書かれていた。


「この本は、読むのが難解過ぎてイメージがしづらいから、お前のふわふわした状態にピッタリ」


 ぬいぬいがニカッと笑う。まぁ違うんだが、子どもらしい良い笑いだ。


「あ……ありがとうございます」


「なんなら、枕になるしな……」


「ね――」


 ――この二人の師弟は、こういう思考はそっくりだ……。


「じゃあ帰るとするか、オリエラ」


「そうだね。やはり昨日の今日だから、初めての魔法を使った疲れもあるだろうし、今日はもう帰った方がいいよね」


「またね――」 「じゃな、ハヤト。自然に目を向ける事を忘れるなよ」


 そうして彼らはふたたび、麦わら帽子をかぶり帰って行った。


「あっ!」


 僕がそう声をあげたのは、二人が帰った後に、机から離されたままのソファーがあったからだ。


 一人用のソファは、一人で動かせはしたが、長椅子の方はとてもじゃないが動かせそうに無く、 少し途方にくれたのだった。


     続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る