第11話 爆破の中の爆破

 城を出た後の幌馬車ほろばしゃの中から僕は、馬車が過ぎ去った後の風景をみんなと話しながら、サンドイッチを食べながら、そして束の間眠り入る、師匠とその弟子の横で見ていた。


 石畳の道、古き良き時代のヨーロッパを思わせる繁華街の風景、花咲誇る人々の住む住宅街、塀に囲まれた謎の建物、そして城下街からでた自然豊かたな土地の、剥むきき出しの地面の道をガタゴトと幌馬車ともに揺れていた。


 小さな橋を渡り終えた時、僕と同く起きて、幌馬車の壁にもたれながら、ただ外の風景を眺めていたレンさんが僕に話しかけてきた。


「ハヤト、君から見てこの国の風景はどうかな?」


「僕の居た国では無いのですが、ある国が通って来た歴史の中の風景に似ている様に思います。しかし実際には、僕はその国へ行ってはいないので、全ては僕の想像でしかないのですが、好きか嫌いかと言われると、好きで憧れた風景がここにあると思います」


「君にそう思って貰えて、私は素直に嬉しいよ。ギルドに所属する冒険者になるしても、お金や名声で上を目指すのも間違ってない。歓迎する。でも、勇者様にはそれにプラス国や人々を愛して欲しい。少人数の君の仲間に世界の全てを押し付けながら、私はそれでもそう望んでしまうんだ。人間は欲深くていやになるよね」


 彼女は、自分の足先を見てそう言った。だから、僕に対し、そうあれと言うのでは無く。ある程度の権利を持った、彼女からの懺悔みたいなものかもしれない。


「僕もそう思いますよ。ただしそれは僕が勇者では無かった場合ですが」


「だよね」

 彼女こっちをやっと見て、皮肉ぽくも見える笑い顔を浮かべ、僕に共感した。


 それからは二人とも無口なり、風景を眺めた。幾つかの川の上を通った後、僕達は、目的地の山に着いた。


 しかし山と言っても、登り坂をいくらか上がったのちの、小さな山の中腹ちゅうふくって感じの場所にただ広い空き地があるだけと、いった場所だった。


 幌馬車は、簡易的な馬車小屋に留まる。


 馬車を操る御者ぎしゃを残し僕達は、幌馬車から降りた。


 目の前には、丸太をただ横たえただけのサークルがあった。ぱっと見は、適当に作った相撲の土俵の真ん中に消し炭が残されたもの様に思えた。


 その奥、サークルを野球の選手の居るボックスとすると、バッターボックス位の場所に今度は、丸太だろうものが横にしるし程度の役割で埋め込まれている。


 それ以外、凄くだだっ広い空地で、その向こうに山の斜面まで少しの雑草や、荒らされた地面が広がっていた。


「こっちだ」


 僕達はもちろんただ一つの意味ありげな、建造物のサークルへ行き、丸太へと座った。


 ぬいぬいは城から持って来て、ここの馬車小屋に置いてきた残りの薪を、無造作に中央の消し炭の上へと投げ置くと、彼は手をかざしすぐ、ボォッという音ともに赤い炎を見る事が出来た。それは薪の上で踊るように燃え広がる。


「中央に炎を灯し、その周り魔法使い達が集う。これは、魔法使いのあり方であり、廃れてしまった歴史でもある。ただ馬鹿みたいにそれを真似、魔法使いごっこに浸ひたっている。我々は愚かな魔法使いの末裔まつえい。それ故、我々は彼らより技術を積んで、初代を貶おとしめるべくその技術を磨く…………では、初めるか」


「えっとぬいぬい、その台詞は毎回言うのですか?」


「言う。出来るだけ魔法使いぽい事を言えばいい。ある日、その台詞まんまパクられて、詠唱えいしょうに使われても気にしない。我々魔法使いであり、詩人ではないからだ。ひらたく言うと、詠唱する練習と使える語句発表会だな」


「僕も言うんですか?」


「言霊ことだまは、制御の難しい大精霊を呼び出す時に、使うので言って損がないが、オリエラの様に魔法剣の剣士を志こころざすのだと早さが命なので『炎の舞』とか、叫ぶのみだからなぁ……、今は聞いて覚えるだけでもいいが、まぁ任せる」


 ――なるほど、中二病を極めし、我に遅れはない!


「魔法の使い方なんだが、まず右手を挙げてくれ」


 僕達は右手を挙げた。


「では、魔法の基礎知識と右手の関係なんだが、今まで使って来た右手使うのはたやすい。しかし心があると言われる心臓近くに魔法の貯蔵庫マナはある。これは絶対であり決して変わらない。そして我々は腕を通し手に集中させる。午前やった事と逆の事をやって貰う。右手を挙げると考えて行うのは容易たやすい。魔法も魔法を使うと考え、時には全てを焦土にする熱さや絶対零度でもいい、そうであれとイ・メ・ー・ジ・が・必・要・だ。考え、そしてイメージするそれが、右手を上げる時には強く意識してする必要ない。まぁ比較として言ってみた」


「呪文を唱えるだけでは、駄目なんですか?」


「呪文も一部では使っているが、我々魔法使いは、あまりにも個人主義の魔法系統の深みに入りこんでしまっている。料理で例えるとみな自分好みのドレッシングを作る事に熱意を燃やし、誰が作っても美味しいシーザーサラダのドレッシングのレ・シ・ピ・を誰も作って来なかった。だが、個人の各属性の魔力がバラバラなので、少ない材料で今更、多くの魔法使いが作れる至高のドレッシングレ・シ・ピ・を作るのは面倒。覚えるのも面倒。って考えが大部分だ」


「魔法使いって自由過ぎませんか?」


「俺は、そういうところが、気に入っているから不自由はしないが……」


 ぬいぬいは綺麗な目で、そう言った。国のお抱え魔法使いになり損ねてはいたが、ぬいぬいはやはり生粋の魔法使いであり、自由人の様だ。


「とりあえずあの丸太まで行くぞ」


 僕が丸太まで行くと、ぬいぬいとレンさんがついて来た。レンさんが僕達に、魔法をかける。オリエラはサークルの場所に残る様だが、自分で魔法かけている。


「これは強化魔法、自爆してもいい様に魔法を掛けているよ」


 レンさんの怖い前振りを聞いたところで、ぬいぬいが言う。


「心臓、腕、そして手だ。手の中で魔法を練り上げるイメージをし向こうの斜面に放つ。今日は、特別にお前がイメージし易い魔法でいい。しかし太陽とか活火山とかは、やめておけ自爆するのがおちだからな」


「じゃーやれ」「気楽にね」


 僕は二人の声援を受け、目をつぶり魔法のイメージする。


 ――まず心臓に炎を灯す。過去、身近にあったガスコンロの炎、青い炎の下に幾重に赤や黄色を織り交ぜたあの炎を心臓に。


 その炎は、幾つもの炎を1つ、1つ灯しては、隣の炎へ移ていく。両手は、へその前に揃えて手のひらを上に置く。そこへとイメージの中の炎を集めて行く。


「そろそろゆっくり目を開けろ。炎が拡散するぞ」


「自然の炎じゃない、ぬいぬいどうする?」

 レンさんの言葉が僕の耳に、不吉な要素として入って来た。


「もう、ハヤトの魔法を抑えこんでいるが……未知数の炎に上手く対応ができん」


 ぬいぬいの言葉に、不吉さが確信へと変わった。


 そして僕自身も先程から魔法の力を抑えようとしていたが、それなのに僕の手の中の炎はわたあめの様に何かを絡め取り勢いをましていってしまうのだ。


「重い、勝手に力が漏れ出して行く様で、維持出来ません!?」


「少しでも、前に飛ばせるか?」


「今ならなんとか……」


「では、数を数える、0になったらお前は魔法を前に飛ばせ」

 目の端に、レンさんが、手を振って何やら合図を送っているのがわかった。


「3」 「えっ?! 大丈夫ハヤト?!」とオリエラの慌てる声がした。

「2」

「1」

「0」青い炎を僕の全力で前に飛ばすと、次の瞬間に僕は、ぬいぬいとレンさんに脇を持ち上げられ後方へ運ばれていた。


「オリエラ!防御壁だ! 防御壁をはれ!」


「はい! 師匠!」


 手を前にかざす彼女の右横をすり抜け、僕をおろす。


 僕を運ぶ仕事を終えた、レンとぬいぬいが前方手をかざすと、少し後に僕の魔法による爆風と爆炎がうずまきなが僕らを追って迫ってくる。


 それを僕は、ただ座り込みながら、目を見開いて見つめる事しか出来なかった。


 爆風の波が僕らの目前で止まり花火の様にその断面をあらわにした事で、彼らの使った魔法が、なんらかの防御壁をはっていたものという事がわかった。


 ほんの数分、いや数秒かもしれない、そのあいだに多くの爆破が繰り返される。


 その時、防御壁と僕らの距離が少し近くなった事に気づいた。


 防御壁が爆発によって破られたのだ。


 僕と赤く燃え盛る炎の近さが全部で2回、近くなったのちに爆発はなんとか収まりを見せた。


 助かった事に安堵している中、ぬいぬいが言う。


「上出来、上出来」


 と、彼はそう言い残っているだろう防御壁を叩くが、彼の手が何かに当たった様子を残し、手をそのまま通ってしまった。


 一同無言に、なったが……。


「大切なのは結果だよ、師匠もっと褒めていいよ。私は褒められれば伸びるタイプだし」


 オリエラがそう言うと――。


「そうだな、お前さんは本当によくやったよ」


 と、再び褒めるので、オリエラは少し驚いた顔をし、レンさんはそんな二人の様子を見て、口に手をやり少しだけ笑ってた。


 そんな中で、僕は僕の魔力が、やった事の大きさにただ一人立ち直れずにいた。


「ハヤト、魔力は十分だが、安定性がないのはもちろんなんだが……お前は、世界と繋つながってない」


 そう彼は、謎の言葉を言うのだった。


 続く

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