第6話 僕と彼女と魔王の水族館

 鳥と魔王が、育ての親の彼女。


 それなのになんて素敵に彼女は育ったのか! もしかして魔王の養女になったのは、最近なのか? 育成成功魔法があるのか?


 そんな素敵な彼女が僕の手を握って立っている。


 僕がおにぎりを食べ終えた時――。


「そろそろか……」


「そろそろ?」


 そうすると、また空間に点が現れた。すると魔王は言った。


「お前はそこから動くな」


「えっ?」


 僕は、机と椅子に手をかけ腰を浮かしているところだった。


「この魔法は、実に繊細で危険なのだ。途中で魔法が遮断されてみろ、腕などすぐに持って行かれるわ」


 だから僕は待つしかなかった、彼女の姿が現れるのを。


 そして現れた。とてもクリクリした黒いおめめが?


「まだか? フィーナ、俺がどんな男かだけ見極めてやる」


「よしのさん、そういうのいいですから、後ろに下がって危ないですから!?」


「いや、だめだ。魔王は結構、気に入れば基準が激アマになる、俺が見極めなければ、俺が――!!」


「わぁ――何でこんな所に入れるんだ!! 鳥権侵害だぞ!!」


「おみあげ買ってきますから、待っててくださいね。ふふふ」


 青い鳥が度アップで現れ、フィーナとバタバタやって、最終的に植物のツタによって連れ去られて行った。


 僕は魔王を見た。魔王は画面を見つめ、微塵も動じていなかった……さすが魔王……。


 そして彼女は、現れた長い皺加工のスカート、カットソーの上に白い上着を羽織っている。そしてそれによく似合う帽子もかぶっていた。


 彼女は靴を脱いで、人差し指を差し出し不思議な画面を、通れる事を確認すると彼女は手か少しずつ入ってくる。


 僕は、魔王を見た。彼はうなづいたので、椅子を静かに引いて立ち上がり不思議な画面の前まで行くと、左手で、彼女の手を取った。


 そしてやわらかい彼女の指が僕の手を握る。こんな幸せあるのだろうか? と言う気持ちと、彼女を抱きしめたい気持ちをゆっくり抑え込み……彼女をを迎え入れた。


「魔王、彼女は何故?」


「直に会わねば、我の問いにも答えられぬ。そうだろ」


「確かに……」


 もう、答えは出ているのだが、この機会を逃すわけにはいかなかった。


「では、お茶を……」


「いや、出掛けよう……。魚は、好きか? 多くの魚が見られる」


「ハヤトと好きだといいのですけど、魔王様に行くって言われて私は、あまり眠れませんでした」


 彼女は、きらきらした目で僕達を見た。彼女の左手は僕とつないだままで、僕はそんな彼女と魔王の顔を見つめる。


 そして魔王は、僕達のつないだ、手を不快な感じでちらちらと見ていたが、僕は気付かなかった……事にしていた。


「だから、ハヤト、いつまでもパジャマなど来ておらんで早く着替えてきなさい」


「あっ……」と言っ僕は、自分自身を見て顔を上げると、魔王はスーツ姿になっていた。金の髪は緩く三つ編みに編まれていた。まぁ、言っちゃなんだが……マフィアの若頭だった。


 僕は服を着替えるべく、寝室に足を運ぼうとすると……。


「いい加減、その手を離せ」


 そう言われて気付いたが僕の手は、彼女の右手を握っていた。


「行って来ます」


 僕は名残おしく寝室の引き戸からギリギリまで顔を出しながらそう言った。


                   ☆★


 日曜日の人ではどこもいっぱいで、行く先々で笑顔が溢れていた。


 僕は、移動における数々のフィーナさん席の横を懸けて魔王と戦い五分五分の成績を収めて、高層ビル内の水族館へと来て居た。


「人が多い、迷子になったら、出口に集まる様に」


 魔王は、そう言って携帯を提示して、僕らは受付を通過した。


「待って下さい?!」

 僕は、人が居ないところで魔王を止めた。


「webチケット代なら、我が誘ったのだから気にせずとも良い、手に入れた宝石をこちらで売って手に入れた金だ」


「なるほど……ありがとうございますって、携帯の名義とかどうしたんですか?」


 僕は植木の隣でひそひそ声で話すが、魔王は目立つ容姿と出立ちで普通の声で話し結構人目を引くが、彼を見て驚く様な者はいない様だった。


「我は一度記憶を失い、この日本で新たな戸籍を得た。フィーナは実の娘になっておる。人は、魔物とは違い目と目を見て話せばわかりあえる様だ……。だが、このままAIなどが進出すれば、我の眼力の効果も効かぬ様になってしまうだろう……」


 魔王は、哀しげに自分の犯罪の告白をした。洗脳や催眠効果で、人を操ったという事だろう、たぶん。けれども生活する上で仕方ない事なのか? 判断がつきかねた僕は、静かに……。


「大変ですよね……」


 と言って、気分を切り替えフィーナさんとの、お義父さん同伴デートを楽しむ事にした。


 室内の中にペンギンが、飼育員さんと勝手に歩いていた。


「わぁ……可愛いですね」


 彼女は、初めて本当を見ただろうペンギンにはしゃいでいた。ペンギンは、数匹いるペンギンコーナーの推しドアを、力いっぱいにはたきペンギンコーナーへ入って行く。


 その後についたお姉さんが、ペンギンコーナーの壁をノックすると魚が出て来る様で、ペンギンがお姉さんの周りに集まりし、彼れらはお姉さんから魚を一匹ずつ貰っている様だった。


「お魚、美味しそうですね」彼女は、指先を差しながら僕らを振り返り言う。


「あっそう言えば、おにぎりいただきました。ご馳走様です」と彼女に一歩近づき言うと――。


「おにぎりと卵焼きは、私も魔王様も得意料理なのですが、喜んで貰えて良かったです」と、満点の笑顔で言った。


「先へ行くぞ」


 そう言って魔王が歩き出した後を、二人で歩いた。


 水の中の風景、魚の鱗がライトの光でキラキラと光る。すいーっと群れとは違う向かい泳ぐ魚、それを追いかけて魚、水族館の中の世界は、彼女が居る事で、光を増す。


 彼女は、クラゲの水槽で足を止めた。暗い水の中で彼らはゆっくり動く。独特の動き、独特の姿。

 毒をもって、身を守る。儚い姿をもって、地味に狂気を孕んでいるようで、不思議な生き物。

 高い上空のこの場に、僕、彼女、魔王、水中の生き物くらげ、不思議な組み合わせが一斉に揃った。


 その時、僕らの前、フィーナの後をパンク姿の若い男性が通った。赤い髪、多くのピアスを付けたその男は、不意に魔王を見る。


 ガラの悪い何かの抗争が、始まるかと思われたが、魔王が視線を外し、彼はクスッと笑いその場を去って行った。


 高層ビルの抗争はまぬがれ、フィーナさんがこちらにやってくる。


「魔王様、そう言えばよしのさんの、お土産見ておきませんか?」


「わかった、では、今から私があやつの分のお土産を買ってくる。フィーナは、最上階の展望台でのお土産を選んでくれ」


「はい、わかりました」


 そう言って魔王は行ってしまい、彼女は僕を見て笑った。


 僕らは、暗い室内の中、碧い海底の様子を見ながら座っている。僕達の顔色もなんだか碧く染まっている。


「魔界の狐は、運命の相手がわかるのですよ……不思議ですね。つれあいの居る狐は、愛しい相手が死んでしまうと死んじゃうですって、凄く怖いなぁ……って子供の頃、思ってました。実際、従兄弟のお母様は、夫の私の叔父を病気で亡くすと、従兄弟の為に生きてはいたけれど辛そうで見てられませんでした……」


「フィーナさん……」


「フィーナです。ハヤト」


 僕は、彼女の手を握っている。彼女が、また、何処に行ってしまわないように……。


「フィーナ、あの花は、僕に吸収されてしまたらしい、もしそれが失敗でも、君の隣にいたい、いや、いる。君が怖くない様に長生きもする。おにぎりも作る。本当の運命の相手が出て来ても絶対負けない」


 僕たち二人は、ベンチに座り、手を繋いで、顔を近づけて話ている。とても原始的で、海底の魚達と変わらない行為。僕達がもっと原始的になれば、もっともっと先に進めて、わかり合えるはす。


「私達、狐は愛する相手を間違えません……。違う、違う、私が本当に思うのは、私がハヤトが好きで、ハヤトが私を好きならそれで十分です。でも、もっと自然に会えるといいですね」


 彼女は、髪を振り乱して首をふり、僕に噛み付かんばかりに好きっと言った。まるで純粋な気持ち探し出している様に、心を研磨する様に。


「じゃ、僕と一緒にこっちで、暮らそう……」


「……はい」


 彼女は、戸惑いの気持ちを最初浮かべたが、心を決めた様に『はい』っと僕の目を見て答えた。彼女の答えはわかっていたでも、彼女の負担になっても、この言葉だけは勝手だが言って貰いたかった。


 僕の不安な気持ちを彼女は後押ししてくれた。


 そして僕達の海に、大きな影が出来る魔王だ。魔王はビニール袋を差しだす。


「チンアナゴのぬいぐるみを買って来た。あやつは、よく鏡に、鳥の姿の自分の姿をうつしだし、羽をバサ、バサやって格好つけているので、かわいい物が好きなのだろう」


「チンアナゴ可愛いですね、よしのさん一緒に寝たりしますかね?」


 ――さっきの鳥にそんな可愛い要素があるんだろうか……。僕はそう思ったが胸の内に秘めた。


「では、展望台へ行こう」


 展望台へはエレベーターで行く。エレベーターから蒼い空が見える。何処まで広がる空。その下はそびえたつ、人の繁栄の証、その中の1つに僕の暮らしがあった。


 フィーナが、買い物に行くと、今度は魔王そして僕の隣に、あの赤い髪の男が座った。耳には、ピアスがいっぱい。


「もう、いいかい君? 彼女との思い出は十分出来た?」

 彼は、そう言った。


「異世界に、この男なら連れて行ける。しかしこの男の言葉は聞いてはいけない。誘惑にのるなどはもってのほかだ。だが、この方法しか居ない。お前達、勇者達が導かれて行く、召喚の間に連れて行けるのは私の知る限り、この男だけなのだ」


 魔王は、前を見ながら言う。


「僕は行きます」

 僕も同じく前を見ていう。何気ない日常の会話みたいに……。


「勇者だからか? フィーナの為か? それとも我を倒し人間界の城の王座に座るのか? 英雄譚に語られたいか?」


「魔王、珍しい凄く僕に聞きますね……。でも、フィーナの為ってより僕の為です。彼女の里の事も気になるし、何より……彼女に言わせてしまったので、その言葉を力に、僕が異世界に行こうと思っています。彼女の住みやすい場所を見つけたい」


 僕は、魔王の方を見て話した。もちろんだが、その間もちろん謎の男の事は、僕には見えない。


「君達は、二日しか時を過ごしてないのに、凄く仲が良いね。この子が魔王君をらくにしてくれる約束の勇者で、この子の剣によって今の苦しみだけだった今生こんじょうを終える。そんな筋書きってどうだい?」


「我の人生は我が決めるし、こんな色恋にかまけている勇者に負けるとは思わん」


「勇者が、義理の父を殺す話って、英雄譚的にするにも、ちんぷだと思います」


 謎の男が、ため息をつく。

「勇者はともかく、魔王は変わったよね……。私の話を何でも信じて健気に頑張っていた魔王は、もう居ないのか……」


 僕は、とんでもないストーカーに、子供の頃からつきまとまとわれた魔王に、同情の目を向ける。


「いいから、アポストロフィ、この男を異世界に送ってやってくれ、これ以上貴方が喋ると、我の威厳まで損なう」


 僕の視線に気づいた魔王が大慌てで、アポストロフィなる人物に移転を促す。しかし僕も大慌てで携帯を出す。


「あのこの中に昨日、こんな時の為に家族に送るメールとフィーナに対する手紙を書いたんです。時間が無かったら、未送信の草薙当ての3通の送信と無記名のメールを彼女に」


 そう言って僕が魔王へと差し出し携帯は、すぐさまアポストロフィにはたき落とされ、立ち上がった彼の靴によって見事粉砕されたのだった。


「「あ――!!」」


「地獄の蓋はもう開かれているよ。早く落ちなよ」


 彼は僕の額を、トントンと人差し指でつつくと、今度は力任せで僕の胸を押しすので、僕は暗闇の中に落ちていく。


「帰って来た君の娘は、あの子が自分に会いに異世界へ行ったと聞いたらどんな顔をするだろう……」


 最後にアポストロフィの声が聞こえた。


 続く


 

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