第3話 正体不明の来訪者

僕は朝が弱い。


 それは大学入学、そして一人暮らしと生活環境を変えても変わらなかった。


 だからだろう……、朝起きると僕の前に、額に第三の目をもつ、黒のローブを着た年齢不詳の男性が、僕のベッドの横で立って居る事に対し、僕はとても無頓着だった。


 彼は僕がなかなか起きなかっ事に対し、苛立っていたが、それとともにやっと僕が起きた事にに安堵したようだった。


「やっと起きたか、お前は本当にしょうのない奴だ」


 ――そこまで言う事はないでしょう。

 と、思いはしたが、正体不明の人外の人物を怒らせることはさすがにしたくなかった。


「お待たせしたみたいで、なんか申し訳ありませんでした。ここではなんですので、あちらでお茶でも」と、言うと……。


「それはありがたい」と断りもせず、謎の人物は受け入れた。


 正直、お茶を飲まずに、この謎の人物は立ち去るかと思っていた、僕の期待はあっさりと破れてしまったのである。


          ☆★


 僕の住むアパートは、結構古い。


 部屋は、寝室とキッチンに分かれており、まだ家具や食器などは最低限しか置かれてない。


 僕が今、手に持つトレーの上には、コーヒーカップ2つとインスタントのコーヒーの瓶、その隣のひらたい皿には、お茶のティーパック、ミルクの小さなパックとステック砂糖がそれぞれ1つずつ置かれている。


 どれも実家の母が、家にあった予備をこれでもか、って具合に僕の引っ越し用の段ボールに詰めて、僕の為に用意した物だ。


 僕は、それについて中身を知らないまま「ありがとう」と、言って受け取るしか無かった。


 トレーを金髪で、金の瞳を3つ持つ謎の人物が、威風堂々たる感じに座っている僕の家の、僕のダイニングテーブルの上へと置いた。


「お茶とコーヒーどちらも出来ますが、どちらにします?」


 ふたたびキッチンへ行き、持って来た電気式のケトルを机の上に置き僕は聞いた。


「うむ、我はお茶にする」と言って、ティーパックのお茶を手に取ると慣れた手つきで、ケトルのお湯をコーヒーカップの中に入れるところまでやすやすと彼は辿り着いてしまった。


「お前は、何も飲まぬのか?」


 そう言われるまで、僕は彼の挙動をただ見つめていた。そして慌ててコーヒーを作る事になった。


 その間に、彼は残った砂糖ステックを皿の上からどかすと、使い終わったティーパックを置き、コーヒーを作り終えた僕を見つめる。


 そして彼は言った。


「我はここではない、異世界の魔界を統すべる魔王ヤーグだ勇者よ……折り入って相談に来た」


「草薙ハヤトです。趣味は、ジョギングです。」


 最近何度となく言っている台詞が、口から出た。

 僕のその台詞を聞いた人は、だいたい次はこう言う。

『その髪の色、やっぱり大学入る前に染めたの? いいねその色』『ありがとう』って僕は答える。


 僕は最近、僕自身ではなく、僕の髪を少し青みのある黒に染めてくれた、美容師の腕を褒められる人になりつつあった。


「聞いているのか?」


「すみません、一度にいろいろな事が起こり過ぎて、脳がしばし活動を停止していた様です。確認ですが、コスプレイヤーってわけではない……ですよね、やっぱり……」


 僕がすべてを言い切る前に、全ての目が僕をギロリと睨み言い切る前に……撤退するしかなかった。


「我は、ここではない異世界の魔王ヤーグで、ハヤトお前は異世界の勇者である。我はお前に相談を受け入れろと言っておる」


 ヤーグと名乗った魔王は、机に手を掛け立ち上がると、その長いすらっとした腕で僕を指差す。


 その腕、ローブから露出した腕から手首にかけてクラゲの電気信号の様にいろいろ色の点が浮かびあがっては消えている。


 彼はもしかして、彼の言う様に本物の魔王かもしれない。


 では、僕は本当に勇者なのだろうか? でも、何故僕が? 


 今の僕の中では、海の中の水泡の様な、あらゆる疑問が、底から浮かび上がり僕の思考の中いっぱいに広がりつつあった。


「まだ、理解出来ぬ、そう言う顔をしておるな。まあ、いいだろうそれについての質問を許す。理解する事によってお前は、我の問いに対しても有益な事を導き出す事になるだろうからな」


 魔王は左手の手のひらに、右手のひじを乗せる。


 右手の指は、彼の整った顔を親指と人差し指で挟む様に触り優しく撫で、考えを巡らせいる様にも、僕についての処分ををどうすりか、考えあぐねている様にも見えた。


「僕について勇者である思う理由と、何故貴方が見知らぬ勇者に相談をするのか聞きたいです」


 僕が魔王にそう言うと、彼のローブを気にする様に、両手を右や左へ動かすとまた椅子へどっしりと、腰をかける。


「人にはそれぞれ決められた星まわりがあり、人は必ず時間をかけてでも、その座に辿り着く。王しかり、英雄しかり……。そして勇者もだ。勇者は、光り輝く星となって私の前で跪く。お前にも星の輝きが、僅かであるが感じられる。時が来ればそれは加速する様に光を放つようになる、お前はもうその運命の輪の中に組み込まれてしまっている。その運命からは決して抗えない。そして息絶えた勇者の中で、我の秘密は永遠に守られる。と、まぁそういうわけだ。心得たか?」


「この世界でなら、誰に話しても信用されないと思いますが……異世界なら? 異世界で僕が秘密を言ってまわるとは、思わないのですか?」


「勇者なのにか? それなのに人の秘密を容易く話してしまうのか? お前もか……?」


 ――勇者に、秘密をばらされた過去があるのに、何故また挑戦してしまうのか……? もしかしてお人よし?


「では、こうしよう……。異世界で、お前が話せば聞いた者を殺すとしよう。やり方はいろいろあるが手段は選ばない。我とて異世界の人間界の人間全ては殺せん。やってみる価値はあるが、その時はお前も人間でいながら魔界の住人だ。だが、我が魔界にはお前は絶対に入れぬ。虫唾が走るからな……。だが、お前の功績は、一応讃えてやる事にする」


 ――聞いただけなのに……、最悪な人間にまで、落とされてしまった。さすが魔王……精神攻撃は、おてのものなのか……。


「わかりました。(なんか何を聞いても、面倒くさい事になりそうなので)まず、相談をお聞かせ願えないでしようか? そうして相談をするのであれば、相談相手として僕を受け入れて貰わねば困ります。そうでなければ、この相談は魔王様、貴方のせいで意味の無いものになるでしよう」


「うむ、それもそうだ。さすが勇者! 貧弱そうだがなかなかやるのう!」


 ――貧弱そうだは、いらない。そういうとこだぞ、魔王!?


「受け入れていただきありがとうございます。一応勇者と言う立場上、魔王と呼ばせていただきます。では、魔王、どうぞ相談内容をおっしゃってください」


 こうして僕は、風変わりな魔王の相談を聞く事になった。僕の答えによって、人間侵略の日が早まったらどうしよう……。


 続く

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