第21話 執事ルイスの思い描く『勇者の生活』
リビングルームで、結構な時間話している。
もうそろそろルイスも話、飽きたりしてないだろうか? そろそろお茶が飲みたくなってないだろうか?
「ここでの執事業務について、お話しても良いでしょうか?」
ルイスは、執事としてやるべき事をこなしていく。まだまだ彼は元気いっぱいの様だ……。
「お願いします」
「私はここに居る間は、この屋敷の執事にあてがわれた部屋に住むことになります」
「料理などは、今までと同じように、城の調理場から私が運んでまいります」
「そこで、問題です」
「皆さんご使用のお皿、お料理に使う分には良いのですが、お皿をみずから洗うとなりますと別です。割れたり、欠けたりしても城側も、シャルル氏も何も言われないでしょうが、何も無かったわけにはなりません。何事にもプロの基準がありますので、その事について意思疎通されないままでは、やはり問題です」
「あぁ……」
そこまで聞いて僕は声をもらした。
「軽率でした……そこまで考えていませんでした」
「食事の皿をこれからはそのままお返しする様にし、お茶の時間や軽い料理のは、これから私もおりますし……こちらで用意するようにいたしませんか? こちらにも食器はございますが、旅に持参出来る様な物を新しく購入されはいかがでしょうか?」
「ですが、まだギルドクエストもチャレンジする予定では無いし、正直、懐が厳しいです」
――世知辛い、現実だった……。
「その事についてですが、当面の仮の勇者様のための、生活費や給料に当たるお金も出ているので心配なさらず。たた……」
「ただ?」
「それを持ってハヤト様に、国外逃亡されますと困ります。ですので、私が一時、預かりいたします。おっしゃってくだされば、私も何かとお手伝い出来ると思います」
「おぉ~! ぬいぬい! なんか凄い」
「そうか、良かったな」
今まで、この屋敷と訓練の往復だったのやっと始まる本格的な異世界生活に、僕は歓喜した。
「お茶やコーヒーを買わないと!」
「コーヒーですか……最近、売り上げを伸ばしている。産地不明の飲み物ですね」
「そういう話もいいが、まず勇者として、実践を積まなければならないだろう。魔法の練習中だが、勇者のパーティーなのだからギルドで募集知ればいいものではない」
「今の所、魔法使いのオリエラと執事のルイスとまだ半人前の……魔法使いの僕……」
言葉にすると不安なパーティメンバーだった。
「オリエラは、魔法剣士だ」
ぬいぬいの声が飛ぶ。
「ぬいぬいは、旅には行かないの? 」
「おれは、まだ正式には産休中だ。目的にも決まってないのに、行くわけがない」
ぬいぬいは、クッションに背中をあずけ、頭の後ろで腕を組んでいる。
ぼくは、人差し指を3で、折り曲げたまま首をグギギギと、ロボットの様に動かしルイスの方を向く。
「ルイスのジョブは? 」
「秘密です」
ルイスは、口元に指を一本立ててにっこり言った。
「あぁ――」
僕は、頭を抱え……。
「ルイス……」
ぬいぬいは、呆れている。うちのパーティーはだめかもしれない……。
「もう、ルイスさんのジョブは執事で、高価なお皿を投げて相手と味方に大きな心理的ダメージを与えるって事にします」
思わず、うちの未来の愉快なパーティーメンバーの一員である、執事に頭を抱えたが……。僕はそう言って執事を、やり込めようと言ってみた。
しかし彼の神秘的な緑の瞳に波紋1つたたない。すべて受け入れて彼はそこに座って居る。
「では、他に僕と同行をしてくれる方について、何か情報はありますか? おとぎ話の、中の人物でも構いません」
と、僕は話を続ける。
「後、必要なのはヒーラー、教会の聖女様か、日出ずる国の巫女だな。あと、お前も木属性の魔属性が強いから、ある程度は使えるはずだ」
ぬいぬいが、僕を見ながら言い ルイスが続く。
「他のパーティーメンバについては、何も伺っておりませんが……。ヒーラーにつきましては、そのお二方の選出の可能性が高いでしょうね」
ルイスが、ぬいぬいの意見に賛同する。
「ギルドの監督のレンさんはどうですか?」
「ないな、そんな事になれば、ギルドの事務所の誰かが過労死する、そのレベルでレンが仕事を引き受け過ぎだからな」
「あぁ……ですよね」
ぼくの中でレンさんとの思い出が駆け巡る。それは彼女の働きすぎの記憶……。
本業のギルドの監督の仕事以外に、こちらの世界へ移転して来た際真っ先に現れたのは彼女だった、子ども向け精霊の小瓶の授業、山への魔法実践、僕の為の執事の手配どれだけ仕事をこなしているのか見当もつかない……。
――監督だからと言って、誰か気に掛ける人はいないのだろうか?
「でも、いくら何でも働き過ぎなのでは……この世界には、ギルドの労働組合とかはないのですか……?」
「あるにはあるが、あいつが副会長だぞ」
「えぇ……」
僕は、これ以上レンの仕事について聞くのを辞めた。そして今度、健康グッツでも差し入れしょうと心に決めた。
「ところで、ルイスの就業開始時間や終業時間などは、何時と決まっていたりしますか? 」
「特に決まってございません」
そう言ってルイスはにっこり微笑む。
「えぇ……」
僕は、ぬいぬいの様子を無意識に
「冒険者は帰るまでが、冒険だからな……」
――遠足と同レベル!?
「ルイスさん、休める時には休んでくださいね」まだ冒険者になって居ない僕に言えるのは、これが精一杯だった。
「はい、承知しました」
「では話を戻して、今度、ぬいぬい、オリエラ、ルイスが集まった時にコップなど必要最低限の旅の用具。後、予定を書くのに黒板かカレンダーなどを買いに行きましょうか。後、必要なものがあれば、その時、お教えてください」
「ほい、ほい」「かしこまりました」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
快く引き受けてくれた二人にお礼をいう。
「僕からは以上なのですが……ぬいぬい、ルイスさんからは、何かありますか?」
「そうですね……今のところわかっている予定など、ございましたら教えてください」
ルイスの質問に僕はぬいぬいの顔を見る。
「すまないが、あるるが帰って来るまで、残り2日はここへ泊めて貰って、朝から晩まで魔法の練習だ。ルイスは、しばらくはこの屋敷を把握する必要があるだろうが、それが終われば、俺が居ない時も練習に付き合ってやってくれ。後、しばらくは、コップなどは城の下働き用の物か、兵士用の物を使うように言っておいてくれ。割った時には、寝覚めが悪くなるからな。まぁ、予定はそんなところだな」
「わかりました、そのようにいたします。今のところ私も、そこまでわかれ十分です」
そういい、ルイスが立ち上がると、ぬいぬいも立ち上がるが……。
両手を広げ何か探している様だ。
「しまった、昨日、眠すぎて肝心のローブを着てくるのを忘れた」
「やはりローブに凄い効果があるんですか? 」
ゲームの様に魔法力アップ効果があるのだろうか? と、僕は思わずくいいる様に聞いてしまう。
「魔力効果の呪いをかけた糸で作ってあるので確かに、魔力アップ効果もあるが……。ローブを着ないと俺は魔法使いだって、気がしないだろう? イメージが損なうの。格闘家の筋肉みたいなものだな」
「そんなものなんですか……」
「そんなものだな」
「じゃールイス、兵士の練習場で、夕ご飯まで食べて来るからよろしく」
そう言ってもうぬいぬいは玄関に歩き出し、後ろを見ずに手を振っている。
「では、行ってきます」
慌てて、ぬいぬいの後に続く僕の背中に「いってらっしゃいませ」と言うルイスの声が届いた。
続く
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