第21話 一緒に行こうよ



 ボク達は目的地に到着した。


「旦那、一緒に行けなくて悪かったな」


「ううん、疲れて動けなかったなら仕方ないよ。それにサラも無事だったわけだし」


 大我くんはボクの横にいるサラを見て、嘆息を漏らし、


「旦那、彼女を助けたシーン、そりゃもうカッコよかったぜ。俺が女性なら惚れちまうくらいにはな。それに旦那ならきっと彼女をここに連れてくるとは思ってた。だけどさ……無理矢理はいけねぇな〜! もう彼女ちょっと涙目じゃん」


 なぜかボクに対して諭すような物言いをしている。


「えーだってあのまま1人にするのは危ないと思って。ね、サラ?」


 彼女に同意を求めるように視線を送ると、


「は、はい……。私はリュウさんに助けてもらった身。……この体を捧げる覚悟くらいできています……っ!」


 サラは何かを決心したような、そんな勇ましい表情をした。

 そして両手を大きく広げ、瞑目した彼女は

 

「はい……っ! どこからでもどうぞ!」


 震えた声でそう言った。


「どうぞ?」


 何が、なのか疑問に思い、ボクは首を傾げる。


「ほら〜。これ旦那が悪いぜ? まぁそんな天然さもアンタの魅力だ。……サラさん、一応説明するが俺達はあなたに何もする気はない。旦那がここに連れてきたのは、ただ一晩休んで明日から試験頑張ろうってだけだと思うぞ?」


 それを聞いたサラは、目をパチクリとさせて


「……へ?」


 素っ頓狂な声を出す。


「だからさ、サラさんが考えているようなことにはならないよ」


「わ、わたし何もえっちな想像なんてしてませんから〜っ!!……あっ!」


 彼女は大きな声で訴えた後、即座に自身の顔を両手で覆い隠した。

 手の隙間からチラリと見える頬は真っ赤に染まっている。


「あら〜自分で言っちゃうのなぁ〜」


 大我くんはニヤニヤと笑みを浮かべる。


 一方、ボクに関してはこの2人の会話……何が何だか、といった状態だ。


「まぁサラさん、そういうことだからゆっくりしていきなよ。な、旦那っ!」


 よく分かってないまま大我くんに話題を振られたけど、この場所でサラに休んでもらいたいという気持ちは大我くんにも彼女にも伝わったみたい。

 それが伝われば充分だ。


「うん、そうそう! 明日も試験は続くんだし、ゆっくり休んでね!」


「…………」


 サラは静かに目を瞑り、押し黙ってしまった。

 一体どうしたんだろうとボクと大我くんは目を合わせる。


 そして静かに目を開けた彼女からはスーッと一粒の涙が零れ、


「本当にありがとうございます……っ!」


 そう言ってしばらく涙を流すのであった。



 ◇



 次の日。

 ……といっても何か景色が大きく変わるわけでもない。

 ただスマホに記される日付が変わっただけ。


「コイツら最低だなっ!!」


 朝から大我くんはスマホに向かって怒声を放っている。


「どうしたの?」


「旦那、これ見てくれよっ!」


 彼に見せられたのはもちろんDチューブの画面。

 そこには数人の男性ハンター。


『おっ! あの女、マジであのミノタウロス倒したのか!』

『お前、昨日Dチューブ見てねぇの? あのシルバーってやつが助けに来てたじゃんか』

『おかげで俺らは6階層へトップで行けるってわけだ』

『ついでにアイツら死んでくれてたら試験のライバルも減ってちょうど良かったんだけどな』

『ハハッ! お前、それはひでぇって』


 映像から流れてきた音声、それは酷いものだった。

 これを彼女が見たらどう思うだろう。

 いや、考えるまでもないな。


「これ、サラさんには言わない方がいいかもな」


 ボクも大我くんの意見には賛成だ。

 そう思って、首を縦に振った。


 今ボク達はちょうど洞穴でも少し奥の方、サラは入り口側と一応男女ということで距離をとっている。

 地上の男女というのは適度な距離感が必要らしい。

 でもそのおかげで彼女にはさっきの音声が聞こえてないはず。


「私もちょうど配信見てたので大丈夫ですよ」


 気づけば彼女はすぐ傍まで来ていた。

 たしかにこの洞穴ではちょっとした音も反響している。

 今の声も聞こえちゃってたのなら、ボク達はとんでもないうっかりさんだ。


 大我くんは額に手を当て、


「サラさん、ほんとごめんな」


 謝罪の言葉を放った。


「いえ、本当に気にしなくて大丈夫ですよ。それよりもリュウさん、大我さん、昨日のお礼とお別れの挨拶をさせてくださいっ!」


「お別れ? 急にどうしたの?」


 彼女は武器とリュックを背負って、準備万端といった様子だ。

 早々に次階層へ行くつもりなのかもしれない。


「配信を見る限り、皆さんもう攻略を始めています。出遅れないよう私もそろそろ出発しないと……。リュウさん、昨日は助けて下さってありがとうございました。あの時、リュウさんの助けがなかったら今……私はここにいません。何かで恩を返しきれるとも思っていないですが、試験が終わってから改めてお礼させてください! 大我さんもこんな私をこの場に受け入れて下さってありがとうございました! では、私はこれで……」


 サラはボク達に背を向け、外へ向かおうとする。


「ちょっと待って! サラ、一緒に行こうよっ!」


 ボクの発言に彼女は目を瞬かせる。


「え、でも……私みたいなのが一緒だとお二人に迷惑をかけてしまいます……」


「それでいいんじゃない? もしかしたら次迷惑かけるのはボクかもしれないし、大我くんかもしれない。だからさ……その時はサラ、君がボク達を助けてね?」


「そうだぜ、サラさん。どうせトップ層のやつも手ぇ組んでんだ。昨日1日攻略して分かったんだが、これは1人で切り抜けられる試験じゃねぇ。だから俺達、協力しようぜっ!」


「リュウさん、大我さん……ありがとうございます……っ!」


 サラはほんのりと目に涙を浮かべている。

 しかしそれは悲しいということではない、それが一目で分かるほど眩しい頬笑みを同時にこぼしていた。



 そして、この先の試験を共にすると決めたボク達3人は次なる目的地、6階層へ足を運んだ。

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