第10話 対ダンジョン商店街




「ちょっと遅いよ〜リュウくんっ!」


 玲奈は今彼女の元へゆっくりと向かうボクに大きく手を振っている。

 遅いよ〜って待ち合わせ時間通りの10時ちょうどじゃないか。


 ここは学校の中庭。

 ボクたち以外にも多くの生徒がここで過ごしていて、みんなそれぞれ友達と話をしたり、体を動かしたりしている。


 玲奈がボクに声をかけたせいか、いつもより周りの視線が多い気がするんだけど。


「あいつシルバーだろ?」

「うちの学校の制服着てるってことはあいつも今年の入学者か?」

「玲奈と待ち合わせなんて調子に乗ってるな」


 それにみんなボクを見てコソコソ言ってる。

 この真っ白な上衣に紺のズボン、ここの制服らしいけど似合ってないんだろうか?


 そしてそんな視線をくぐり抜けて彼女の前まで到着した。


「待たせてごめんね?」


「おっ! リュウくん、見違えたねぇ〜。そのダブルジャケットもパンツもすっごく似合ってるっ! これでお揃いだよっ!」


玲奈は嬉しそうにニコニコしている。


たしかにこれで同じ服を着ていることになるけど、彼女の場合は女の子だからズボンじゃなくてスカートを穿いている。

それも裾が膝上となっていて、穿き物としてはとっても短い。

そこから見える彼女の足は色白で華奢なわりに弾力のありそうな肌で、つい触りたくなる。

ダメなのは知ってるんだけど。


 それからふと玲奈の顔を見るとさっきまで笑顔だったのに対し、今は表情をムッとさせている。

さらには近づいてきたと思えばボクを通り過ぎ、


「ちょっと皆さん、リュウくんに言いたいことがあるなら……」


 どうやら彼女はボクに向けられた冷たい目線に気づいたようで、一言物申してくれたみたい。


 一方周りはそんな玲奈の言葉に聞く耳を立てず、しれっとその場から離れていく。

 まるで初めから何も知らなかったかのように。


「はぁ……。リュウくんはとってもすごくてカッコイイ人なのに……」


「玲奈?」


「あ、ううん。なんでもない。ささっ! 行こ行こっ!」


 彼女は再びボクの前を通り過ぎて校門の方へ早足で駆けていった。


 さっき小さい声でボソボソ言ってたけど、背中越しだったからよく聞こえなかったな。

 それにボクの前を通った玲奈はまた顔が赤くなっていた気がする。

 本当に血色の良い人だ。


 それからボクもすぐ彼女の後を追っていった。



 ◇



「うわぁ……すごいなぁこの街並みっ!!」


 思わず声を出してしまったけど、ホントにすごい。

 こんなたくさんのお店が並んでいるのだから。


「ふふっ、ビックリしたでしょ? ここは対ダンジョン用の商店街なんだからっ!」


 《ダンジョン行くならその前にっ!》

 《対ダンジョン商店街の品揃えはピカイチ》


 なんて看板が立てかけられている。

 武器屋、鍛冶屋、アイテム屋などダンジョン攻略に役に立つものがたくさん売ってるそうだ。

 それに訓練所なんてのもある。


 とっても興味があるお店ばかり。

 まずはどこへ行こうかなぁ。


「オススメの武器屋があるのっ! こっちこっち!」


 考える暇もなく彼女に手を引かれていく。


 そうして連れられること数分、到着したのか玲奈は立ち止まり、お店へ体を向けた。


 そのお店は周りと比べて一回りほど大きく、店頭に掲げている看板に《橘商店》と書いてある。


「さて、入ろっか!」


「うん、そうだね」


 ボクは玲奈と共に橘商店へ入った。


 その中はボクの部屋の2倍以上はあるんじゃないかという広さで、壁には色んな武器が立てかけられている。

 それこそダンジョン『零』でハンターと名乗る男が使っていた銃や秦が使っていた長刀、それ以外見たことのない武器やらが売り物として置かれてあった。


「よぉ! 久しぶりだな、玲奈お嬢っ!」


 店の奥から声と共に現れたのは、大柄の男。

 それは縦にも横にも、という意味だ。

 彼には髪の毛がなく頭皮全体が露わになっている。

 そんな姿がとっても強くて怖そうだけど、玲奈に見せる笑顔からは人柄の良さが伝わってきた。


「孝二さん、久しぶりって春休み前に来たばっかりですけど」


「ガハハッ! そうだったっけか! で、今日は何しに? 見慣れねぇガキを連れてるみてぇだが」


 そう言った彼はボクの方へ目をやる。


「この人はガキじゃないです。今年の入学生ですよっ!」


 彼女はボクの肩をポンッと叩いた。

 これは自己紹介をしろということかな?

 玲奈に地上では名を名乗るのが当たり前だからって挨拶の仕方も教えてもらったし。


「えっと今はお昼?だから……こんにちわ? ボクはリュウ! 武器を見に来たんだ!」


「なんだ、その自信ねぇ喋り方は! ハンターになる男はもっと強気じゃねぇと!」


「強気? ボク強いから大丈夫だよ!」


 その言葉を聞いた途端、孝二はぷっと笑い出し


「そうかそうか、一丁前にお説教して悪かったよ! 店の武器好きなだけ見てってくれ。じゃあ玲奈、決まったら呼んでくれよ〜」


 そのまま店の奥の椅子に座り、くつろぎ始めた。


「リュウくん、じゃあ一緒に選ぼ〜っ!」


 彼女は棚に陳列されてある武器を見回っている。

「ほら、こっちこっち!」なんて言って嬉しそうに手招きをしている玲奈はとっても可愛い。


「うん、今そっちにいくよ〜」


 そんな彼女につい釣られてそばへと向かう。


「で、リュウくんはどんなのがいいとかある?」


 どんなの、か。

 この間、秦が使っていた長刀もカッコイイし双剣なんかも強そう。

 小型や大型など色んな大きさの銃もある。

 あれもこれもカッコイイのでとっても悩んでしまう。


「うーん……スゴい悩むけど、まずはこの長刀なんてどうかな?」

 

 そう言いながら目に入った武器を手に取ると、


 バチッ――


「痛っ!!」


 握った剣の柄から突如稲妻が走り、思わず床へ放ってしまった。

 本当に雷が流れたってわけじゃないんだけど、そう思っちゃうくらい痛い。


 それにただそういう現象が起きたっていうよりか武器自身に拒まれた、そんな感覚がこの稲妻から伝わってきた。


「なんだ!?」


「リュウくんどうしたの!?」


 二人ともびっくりした顔でボクを見てる。


「これはもしかして……」


 すると、孝二さんの言葉を遮るように店の入口が開いて


「今日も始まりました。男気バトルチャンネル!」


 何やら店内に響く大きなセリフ、そしてその周りを飛び交うAI撮影ドローン。


 昨日まで地上の勉強をしていたボクにはもうこの状況を理解することができる。

 そう、Dチューバーの男の人が何かの撮影をしているようだ。



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本日もたくさんのフォロー、☆ありがとうございます🥺

6月7日時点で掲載から1週間、現代ファンタジー43位、総合266位まで来れました✨


どうぞこれからも本作品をよろしくお願いします🙇

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