第11話 男気バトルチャンネル


 

「今日も始まりました。男気バトルチャンネル! このチャンネルはもう皆さんご存知の通り、お見かけした街のハンターさんと武器屋さんの武器を使って親善試合を行いま〜すっ! そして負けた方が両者の使った武器をお店で自腹購入するという企画っ!!! もちろん武器は購入前に訓練所でお試しができますし、武器の購入は選んだ時点で確定しているので店側への負担は全くございませんっ!」


 Dチューバーの男の人はダラダラと企画とやらの説明をしている。

 それに彼は金髪にサングラスといった地上に出て初めて見た姿形で、一目見てなんだか印象が良くないとボクなりに思った。


「ここのところ、ダンジョン以外で配信してる人増えてるのよね。あーゆーの街の人も迷惑しているみたいだし、控えて欲しいものだけれど」


 玲奈は眉を寄せ、ため息をつく。


 すると発した言葉が聞こえたのか大きなため息が気になったのか定かではないが、そのDチューバーがこちらに視線を向けて、


「おっと、これはどこぞの美女かと思ったら、最近チャンネル登録者数50万人を超えた超人気Dチューバーのレナさんじゃないですか〜!」


「ははっ。どうもこんにちわ〜。男気バトルチャンネルのケンタさんですよね?」


「おおー、俺のこと知ってるなんて嬉しいなぁ」


 彼女はさっきまでの表情と打って変わって、大らかな笑顔を向けている。

 それは目の前の彼ではなく、AI撮影ドローンに。

 カメラの前では笑顔に、なんて勉強中に言っていたけど見事にそれを体現していた。


 ハンターって大変だね。


 ケンタはボクの方をチラッと見た後、まるで何も見えなかったかのように玲奈の方へ再び目を向ける。


「ところでレナさん! ここはひとつ、コラボというのはいかがでしょう? せっかくの機会ですし、《ぶらり、対ダンジョン商店街デートの旅》なんてすれば視聴者さんも喜んでもらえると思いますよ! ほら、ちょうど視聴者さんも増えてきましたし」


"おっ! コラボか!?"

"男気チャンネルに女はいらねぇ。そうだろ? みんな!"

"そうだ、俺達は血湧き肉躍る熱い戦いを所望している!!"

"コラボって聞いたのでやってきました"

"レナちゃんとシルバー様が出てるってガチ?"

"お待たせ、レナ"

"レナのファン暇人多くて草"

"ハンターになったらレナとデートできるんだ、いいな〜"

"俺もハンターだからデートしてくれ"

"デートですか、全裸待機してます"

"男気チャンネルにふわふわした空気いらないんだけど"

"まぁこのチャンネル9割は童貞だからレナなんて刺激が強すぎるよな"


 もちろんボクもスマホを学校から支給されており、Dチューブも開けるようになった。

 そして今している生配信、サイトおすすめの配信覧のトップに表示されている。


 す、すごい……すでに5万人の人が視聴しているのか。

 こんなに多くの人が動画を見て反応しているんだ。


 ……だけどもしかしてこのシルバー様って、ボクのことだったり?


「デート……デートですか」


「はい、そうです。視聴者さんも喜んでいますしね」


「いや、でもデートって好きな異性とするものでは……?」


「本来はそうですけどこれは配信ですし、ひとつの娯楽と思えばいいんじゃないですか?」


「で、でも……」


"相変わらずの箱入り娘で草"

"レナちゃんなら断ると思ってたww"

"おい、ケンタ! あんまりしつこい男は嫌われる。俺達童貞はこの辺で引いておこうぜ"

"レナちゃん明らかに迷惑そう"


「うん。みんなも言ってるけど、玲奈嫌がってるしやめなよ」


 ボクから見ても玲奈は明らかに迷惑がっている。

 ここは可愛い女の子を守るべきだと、ボクはそう判断した。


「リュウくんっ!」


 玲奈は一瞬でパァッと明るい表情に戻り、タタッと寄ってきてボクの背中に隠れた。


 彼女の表情を見るに、ボクは信頼してもらっている。

 そう思うと胸の内が熱く燃えるようなそんな感情を覚えた。


「え〜っと君、リュウくん? 何邪魔してくれちゃってんの? 俺のチャンネルで発言していいのは俺が認めた人だけなんだけど?」


 ケンタはボクのことをサングラス越しに蔑んだような目で睨み、そしてさっきまでと違った低く重たい声を発してきた。

 突然彼が醸し出してきた空気感、少し秦と対峙した時に似ている。

 そう、幾度となく戦いを経験した人が出せるそれだ。


"ケンタ完全にキレてるやん"

"プライド高い人だからなぁ"

"おおっ! もしかして男気バトル開幕!?"

"今日の相手はシルバーか! 相手に不足はねぇな"

"ケンタって3級ハンターだし、シルバーには勝てないんじゃない? こいつこの前、あの前田秦を倒してたぞ"

"あー俺も見た"

"レナのファンは黙って戦いを見てな。ケンタはあえて3級ハンターなんだよ"

"あえて?"

"どうやら2級ハンター以上になるとギルドからのダンジョン攻略要請が多くなるらしい"

"つまり働きたくないと?"

"ダンジョンの外で男気バトルの動画撮るためじゃね? 知らんけど"


 とはいえ、玲奈に嫌な思いをさせたのはいただけない。

 

「えーっとケンタくん? 女性が嫌がってることをしちゃダメなんだよ。父さんに教わらなかったの?」


「はぁ!? 意味わかんねぇけど、お前が俺に喧嘩を売ってるってことは分かったよ」


 怒気を帯びた声でそう発したケンタは再びドローンへと体を向けて、


「皆さ〜ん! 今日の男気バトルの相手は最近Dチューブで注目のシルバーくんで〜すっ!」


"いや、ケンタさん笑顔引き攣ってるがなww"

"ブチ切れたケンタは誰も止められない"

"待ってました!! 男気バトル!!"


 彼は配信を再開し始めたのだった。

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