第12話 これがボクの選んだ武器だ



 今から男気バトルという戦いをする。

 それはハンター同士が武器屋の武器を使って戦い、勝った方が双方の使った武器を自腹で購入するというもの。

 たしかそんな説明だった。


 ケンタは座った椅子にふんぞり返ったまま


「お前から武器選んでいいぞ?」


 偉そうにそんなことを言ってくる。

 一体何様のつもりなんだ。

 ボクはそんな試合したいだなんて言ってないのに。


 だけどボクがあの男気バトルってやつを受け入れていなかったら、玲奈がデートとかいうものをして嫌な思いをすることになる。

 彼女を守るためには戦う他ないよね。


「リュウくん、ありがとうね。……いつも私のせいで君が大変な思いをしてる気がする。本当にごめん」


 彼女は消え入るような声でボクにひと声かけてきた。


「大丈夫! だって玲奈、あの人とデート?ってのが嫌だったんでしょ? 好きな異性とするものならボクもそうするべきだと思うし無理にするもんじゃないよ」


「……ありがとう、リュウくんっ!」


 ボクの言葉を聞いて、彼女の声は少し明るさを取り戻す。


「それに武器も貰えるならありがたいしねっ!」


「でもリュウくん、さっき武器持てなかったけど大丈夫……?」


 たしかにあの時、武器から強い反発を感じたような気がした。

 でもまだ一つしか試してないし……。


「大丈夫だよ! きっとさっきの長刀がダメなだけで、他の武器なら……」


 バチッ――


「痛っ!!」


 次は短い剣ならと思ったけど、まったく同じ反応が武器から返ってきた。


「ブフッ! お前さ、もしかして武器に嫌われちゃってんの? ハンターの才能ないんじゃね?」


 椅子に座っているケンタは腹を抱えて大笑いしている。

 ボク、あの人嫌いだ。


"【悲報】シルバー、武器に嫌われる"

"てか武器に嫌われるなんてことあんの?"

"まぁ武器自身にハンターと同じ『氣』ってのが流れてるらしいし、そういうこともあるんじゃない?"

"俺ハンターだけど、そんな人見たことないぞw"

"ケンタよ、そんなに笑ってやるな笑"


 ケンタの発言は頭にくるけど、本当にそうなのかもしれない。

 武器がボクに触れられることを嫌がっている感じがしたし。

 

「リュウ……武器ってのはな、生きてんだよ」


 孝二さんはボクの肩をポンっと叩く。


「生きてるって?」


「ハンターはここで武器を探すんだが、実は武器がハンターを選んでんだよ。ハンターが自分の中の氣を使って戦うのは知ってるだろ?」


「うん、勉強したから分かるよ。そのエネルギを使って戦うんでしょ?」


「そうだ。本来は武器にも『氣』が流れてるから、お互い惹かれ合うはずなんだ。リュウ、何か感じねぇか?」


「うーん……そうだなぁ〜ちょっと待って」


 ボクは店内の武器をくるっと見渡した。

 やっぱりよく分からない。


「リュウくん、コツはグッと集中する感じっ! いい? グッとだよ?」


"グッとしてるレナたん可愛い"

"力入れすぎて顔真っ赤なの好"

"ごちそうさまでした"

"今日のおかず決まりだなwww"

"↑通報しました"


 おそらくその方法を教えてくれているんだろうけど、ちょっと感覚的すぎるよ、玲奈……。

 でも可愛いから良しとしよう。


「グッと? うん……グッとだね。やってみるよ」


 そんな愛らしい彼女に対して分からないとも言えず、再び武器を見渡してみる。


 グッとか……。

 とりあえず武器に耳を傾ける感じでやってみよう。


「あっ」


 つい漏れてしまったボクの声に、ここにある全ての視線が集まった気がした。


「リュウ、感じたか?」

「リュウくん、やっぱり『グッと』だったでしょ?」


 二人は食い気味に問いかけてくる。


 それに答えるよりも実際目で見てもらった方が分かるかなと思って、


「ちょっと待って、取ってくる!」


 うん、確かに声が聞こえた気がした。

 多分……いや確実だと思う。


 ただその武器はここに陳列しているものじゃなくて、あのドアの先だ。

 そう、この店内には出入り口以外にもう一つ扉があった。

 お店に来てから実は気になってたんだけど、もしかしてその武器がボクを呼んでくれてたり?


 どのみちこの先に行けば分かる。


 そう思ってドアノブに手をかけた。


「リュウ! そっちはただの物置だぞ!」


 扉を開くとたしかに物置、武器の材料になるのか鉱石類がいっぱいあったけどその中に一際輝いて見える武器が一つ大切に飾られてあった。

 ボクは孝二さんの言葉を気にせず、それを回収する。

 やっぱりビリビリこない、普通に持てたぞ。


「これだよーっ!!」


「お前……そのガントレット、触れてもなんともないのか?」


 ガントレット?

 この武器の名前のことだね。

 腕に填める形した金属だから使いやすそうだなと思ったけど、なぜか孝二さんからは明るい表情が消えている。


「うん、なんともないよ」


 そう言って、ボクはこのガントレットを片腕ずつ填めてみせた。

 手から前腕まで覆ってくれて、その上堅くて軽い。

 デザインだって黒中心で全体に紫がかったオーラが滲んでいるのもかっこいいな。


「ハハハハッ!!! お前お笑いの天才だな。こんなに笑ったのは久しぶりだぜ」


 そんなボクを見て、ケンタは嘲笑っている。

 ムカつくけどボクが勝てばいい話だ。


「うるさいな! ボクは決めたんだ。次はお前が決めろよ」


「わーったよ。負け確だからって逃げるのは無しだぞ?」


「そんなことしない!」


「ふん、せいぜい哀れな負け方をしない方法でも考えてろ」


 そう吐き捨てて、ケンタは武器を探しに行った。


 待ってる間なんとなくスマホの画面をみると、今配信されている動画のコメント欄が目に入る。


"あれ何?"

"何ってガントレットだって橘商店さんも言ってたろ"

"まぁ使ってるハンターほとんどいないから分からんのも無理ないよ"

"たしかにあんだけリーチが短いと需要ないわな"

"それにあの紫のオーラみたいなの何?"

"呪われてそうで草"

"ダンジョンでモンスターに近距離で拳ぶつけるとか命なんぼあっても足らんww"

"こりゃケンタ勝ち確かもな"

"でも秦をぶん殴ったシルバーなら意外と相性いいかもよ?"

"いや、あれは拳同士だからだろ。武器同士ならリーチ長い方が比較的強いし"

"そうだ。武器持ったハンターは別人だと思った方がいい"


 ボクが選んだこのガントレット、視聴者さんからも嫌われてる?

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