第38話 これが共鳴の力だ



「いくよ。従魔『ラクナ』召喚……っ!!」


 ボクが呼び出したものは、ガントレットを通して姿を現したのだった。


「おい……なんだよそれ……」

「ば、化け物っ!!」

「だからビビるんじゃねぇ! たかが『共鳴』の一種だろうが!」


「あら〜化け物だなんて失礼しちゃうわ〜。私、見た目だけで言えばスタイルもいいし、かなりの美女だと思いますけど。ね、ご主人様?」


「いやラクナ、君は確かに綺麗かもしれないけど、なんか不気味なオーラみたいなの出てて怖いよ?」


 あれはボク達で言う氣みたいなものなのかな?

 具現化した黒がかったオーラが彼女の体から滲み出ている。


「ガーン……。地上に馴染むのって難しいわねぇ……」


 ラクナはその場で俯いて、気を落としている。


 そんな彼女が地上に出てきてもフィールド外にいる生徒やロベールは動揺した護衛ハンター達を見ても何が起こっているのか、全く状況を飲み込めていない様子だ。


 これには理由があり、まずそもそもこのフィールド内でしかラクナの姿は見えないのだ。

 しかも展開時、フィールド内に居たもの限定で。

 つまり後でこの中に入ってきた人にも彼女の姿は見えないことになっている。

 これはこのフィールドの一番大きなメリット。

 一応、こんなものを展開せずとも呼び出せるんだけど、そんなことをしたらみんなに見られちゃうから地上がパニックになるだろうしね。

 これはソルイがラクナへ施した最大限の配慮らしい。


「こ、こっちは4人いるんだ! 数ではこっちに分がある!」

「あぁ、そうだな」

「ビビってる場合じゃねぇ!」


「よし、お前ら力合わせていくぞっ!」


 村田の掛け声に護衛ハンターは気合いを入れ直し、立ち向かおうとしてくる。


「おらっ!!」


 鞭のハンターがラクナに攻撃を放った。

 それはボクの時同様ラクナに巻き付く。


「あら……捕まっちゃったっ!」


 彼女は余裕そうにそう言った。

 このフィールドのスゴいところだけど、ちゃんと従魔は実体として呼び出せる。

 だから相手の攻撃にも当たったりするのだ。


 鞭のハンターはラクナごと振り回そうともがいているが、ビクともしない。


「う……っ!! 重い……っ!!」


 その言葉を聞いた途端、彼女はムッと眉間にシワを寄せて、


「あら本当にさっきからこの人達は失礼ね。私が重たいのは1人の母親だからよっ!」


「母親……? 何言って……うわ……っ!?」


 鞭のハンターは思わず自身の武器を離してしまった。


 ラクナに巻き付いた鞭を伝って子蜘蛛、それもあの時戦ったものより遥かに小さい子達が鞭のハンターの元へ向かってきたからだ。


 その数、鞭の本体を覆い隠してしまうほどの密集率。

 落とした武器には今も尚、子蜘蛛が大量に群がっている。


 その光景……なんというかグロテスクだ。


「く、くそっ! 迅雷撃っ!!」


 村田の振り下ろした大剣から青白い稲妻が直線的に飛ばされる。

 それにすかさずラクナがボクを庇った。


「あ〜すごい……っ! 生きてるって実感する……」


 雷が直撃した人とは思えないほどうっとりとした表情でそんな言葉を放っている。


「うおーーっ!!」

「くらえっ!!」


 稲妻に加え他ハンターから放たれたエネルギー弾や剣撃も直撃するが、特に彼女は表情を変えることなくって具合だ。


「は〜ん……っ! 生身でハンターの攻撃を受けられて、ご主人様の身も守れて……か、い、かん……っ!」


 むしろ、とろけるような笑みをしていた。


「うそ、だろ……」


 それを見て、村田を含めた他のハンターは表情を失う。


「とりあえずこのフィールドから出るぞ!」

「そうだ、それだ!」


 たしかにこの外へ出ると、ボクの従魔は見えなくなるし関与もできなくなる。

 だけどおそらくそれをさせないのが女王蜘蛛ラクナ。


「か、囲まれてる……っ!?」


 もうすでにフィールドの縁には、ボク達を襲った時のようにたくさんの蜘蛛達が余すことなく地から湧き出ていた。


「近寄んなっ!」


 ハンター達は武器を使って着実に殺めていく。


「うわぁっ! くそぉ……」

 

 しかしそれでも次々と湧いて出てくる蜘蛛達に彼らの手数が間に合う訳もなく、完全に覆い尽くされていった。


 完全にハンター達が蜘蛛によって見えなくなったところで、


「……ちょっとやりすぎたかな?」


 ボクは本音をポロッと漏らした。


「そっ? まぁ私は楽しかったわ〜。また呼んでちょうだいっ!」


 ラクナはそう言って上機嫌にガントレットへ戻っていく。

 それと同時に子蜘蛛達も消え、ボクはフィールドを解除した。


 さっきまで演習で戦っていたハンター達はまとめて気を失っている。


「な、何が起こったかわからんがすげーーっ!!」

「やっぱりシルバーさんって強いんだっ!」

「にしても護衛ハンター全員はヤバすぎる……」


 うん、他の生徒達が騒いでいるところをみると、やっぱりやりすぎたかなと思ってきた。


 パチパチパチッ――


 すると手を叩きながらロベールが近づいてきて、


「いや〜リュウくん、君はすごいな。うちの護衛ハンターがやりすぎだったら止めに入らなきゃなぁって思ってたけどまさかまとめて倒しちゃうとはね〜」


 そう言ってきた。


「あ〜でも困ったなぁ……」


 それからロベールは続けて話してくる。


「彼らがこんなにへばってしまったら、今日俺に付く護衛がいないんだ〜。もちろん……リュウくんが代わりをしてくれるってことでいいんだよね?」


 彼は勝手に話を進めてきたのだった。

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