第28話 転移魔法陣
「じゃあこれからよろしくね。ご主人様っ!」
そう言って彼女はボクの中に姿を消した。
ソルイみたいにベラベラ話しかけてくることはないけど、ラクナの気配的なものをたしかに感じる。
(誰がベラベラじゃ! そんなに我はおしゃべりか!?)
あ、ソルイ。
上手くいって良かった、ありがとう。
(上手く話を逸らしおってっ! ……まぁ良い、リュウも我の言葉を完璧にトレースできていたぞ。やはり女王蜘蛛ラクナは予想通りこの提案に乗ってきたな)
そういえばソルイはなんでラクナが提案に乗るって分かったの?
(なんで……そうじゃの〜。我もどちらかというとモンスターに近い存在。リュウに連れ出してもらったのも外の世界が知りたかったから。まぁアイツと我は似ている。それだけじゃ)
そうか。
そういえばソルイも外の世界と関わりたいって出会った時言ってたもんね。
今思えばラクナの要望と似ている。
似たもの同士気持ちがわかるってことか。
「旦那ぁ〜!! まじで助かったぜ〜!」
「うわっ!!」
突然背後からズッシリと荷重がかかったと思えば、大我くんがボクに飛びついてきていた。
ボクに回してきた腕からは微細な震えが伝わってくる。
そして同じ方向には飛田さんとサラ。
サラに関しては、ぐすんと目を真っ赤に腫らしている。
2人とも、怖い思いをさせてしまってごめんね。
「リュウくん、あの化け物が姿を消した件、あれは何がどうなったかサッパリだが、君が僕らを救ってくれたのには違いない。いやそれだけでなく、あのままあんな化け物が地上に出てくるとなれば日本の歴史を変えるほどの出来事になっていただろう。この世界を救ってくれてありがとう」
飛田さんはボクに頭を下げた。
「そんな、ボクはここにいる友達を助けたに過ぎないよ。でも本当に良かった」
ボクは改めてホッと胸を撫で下ろす。
それにしてもなんでラクナはこの階層に現れたのか?
この疑問は未だに残る。
「でも何で7階層にあんな強いモンスターがいたんでしょう……?」
少し気持ちが落ち着いたのか、サラがそんな疑問を吐く。
「その件について、他の護衛ハンターから連絡が届いているが、一旦試験は中止。説明する前に外へ出ようか」
そりゃあんなことがあったんだ。
死者だって出ている。
これで続行なんてことはないよね。
ボクが帰還石を取り出して発動しようとすると、
(リュウ、待てっ!!! あの先に人の気配がするが、どうする?)
あっち?
ソルイは念で方角を伝えてきた。
もしかすると、ラクナに襲われた人の生き残りかもしれない。
たしか彼女は帰還石を奪っていたし、帰れなくて困っているのかな。
なら様子だけでも見にいこうか。
「旦那、どうしたんだ? ほら、戻るぜ」
「そ、そうです。早く出ましょうっ!」
大我くんとサラはボクにそう声をかけてくれた。
「みんなは先に帰ってて! あっちから人の気配がするからちょっと様子みてくるよ!」
ここからは少し先だけど、走れば数分ってところかな。
ボクは皆の返事を待たずにその方角へ駆けていく。
(リュウ、気配がだいぶ近くなってきたぞ。そこの角を曲がってくれ!)
そのまま言うとおりに進んでいくと、そこには見慣れない紋様が書かれている円陣のようなものがあった。
「これはなんだろ?」
(これは転移魔法陣……だな)
「これは……転移魔法陣ですね」
後ろから突然女性の声が飛んできて、それがソルイの念とダブって聞こえる。
振り向くと、そこにはサラと大我くんがいた。
「よっ、旦那っ!」
「わ、私もついてきちゃいました」
「2人ともっ! なんで?」
「なんでってそんな寂しいこと言うなよ〜! ここまで一緒に頑張ってきたんだし最後まで……ってのは建前なんだ。さっきは旦那の役に立てなかったからな。もう一度チャンスが欲しくてよ」
大河くんはその悔しさを耐えるように唇を噛む。
「私もだいたい同じです。助けて頂いた恩をまだ何も返せていません」
2人とも相応の覚悟をして、ついてきてくれたみたいだ。
「そっか! ありがとう! 2人とも、ボクはこの先にいる人間を助けに行こうと思うんだ。一緒に行こっか!」
ボクの呼びかけに2人は、
「おうっ!!!」
「はい……っ!」
それぞれ覚悟のある返事をする。
そして共に転移魔法陣へ足を踏み入れたのだった。
◇
転移時、光に包まれたことによって視界が遮られていたがそれも徐々に落ち着き、目の前に広がる景色が少しずつ露わになっていく。
そして見えたのは、変わらないダンジョン風景。
普段転移結晶で転移すると階層を記した転移石版の前に移動するものだけど、今回のは全く異なる場所へ到着した。
そのため今ここが何階かも分からない。
「おい、嘘だろ……」
この階層へきて、まず反応を示したのは大我くん。
その消え入るような声はかすかに震えている。
「なんでこんなところに……?」
同じような声を出すサラの視線の先には、さっきまで嫌というほど目に焼き付いた存在がいた。
蜘蛛の群れである。
「か、数が多すぎる……っ!!」
「どうすりゃいいんだよ……」
「ロ、ロベール様ァ!」
その声の先には3人のハンター、おそらくあの顔ぶれ、アルバイトの人達だ。
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