第27話 ソルイの提案



 ソルイから伝えられた言葉。

 それは意外なものだったが、今は他に方法も思いつかない。

 ボク自身動きを封じられているわけだし。


 迫り来る蜘蛛軍団の中、聞こえる仲間の悲鳴。


 ここは悩んでいる場合じゃない……っ!


「女王蜘蛛ラクナっ!!! 外に出たいなら一度あの子供達の侵攻を止めろっ! それができなければ、お前は外に行けないっ!」


 ソルイの言葉、一言一句違わずに伝えたけど、本当にこれで言うことを聞いてくれるのか?


「ワタクシの子供達っ!! 一度その場で止まりなさいっ! あなた……どういうことか説明してくれる……?」


 本当に止まった……っ!?

 それにとって興味津々といった表情。

 彼女の瞳が輝いている。


「い、一度子供達を引かせてくれないかな? それとこの蜘蛛の糸も。怖くて話しにくいよ」


 そのままソルイのセリフをなぞっていく。


「う〜ん……そうね。逃げる様子もないようだし、あなたの指示に従ってあげるっ! ほらみんな〜うちへお戻りっ!」


 ガサガサッ――


 子供達が一斉に地中へ戻っていく。

 安心からか大我くん、飛田さん、サラはその場でストンとへたり込んだ。


 よかった、とりあえずはこれで安心。

 だけど完全に危機が去ったわけではない。


「で、さっきの話っ! つ・づ・き・はっ?」


 ラクナは一瞬でボクの前へやってきた。

 びっくりしたけど、殺気は全くないので続きを話する。


「ラクナ、まずお前は外で何がしたいんだ?」


「ワタクシは……外に興味があるの。外の世界そのもの、人間の生態や生活、食べ物、文化、ダンジョンとの違い……それを知りたいってところかしら。どう? 質問の答えになってる?」


「うん、大丈夫。じゃあさラクナは今その帰還石で外に出たらどうなると思う?」


 ボクの質問にラクナは視線を上に向け思考を巡らせている。


「ん〜ここでもワタクシを見たものはパニックになっていたわけだし、地上でも同じような状態になるのだと思うわ」


「そうだね。おそらくハンター総勢で攻めてきて大戦争になりかねない。それでラクナが勝てば、さっき見たいって言ってた人々が絶望する姿は見られるかもしれないけど、他に君が知りたいことは何も知れなくなると思う。ならさ、初めは人間に溶け込める方法で地上へきて、ありったけ堪能してから人間を絶望に陥れたら全部知ることができると思わない?」


「それも……そうね。でも溶け込むってどうやって?」


「それはね、このガントレットだよ! この中にラクナの魂を入れる。要はここを君の住処にするんだ。そうしたら他の人間にも見つかることはないし、中から地上を傍観することができる。もちろん外にも出られるよ」


 そう、これがソルイの提案してきたことだ。


 5階層でこのガントレット……いやソルイがミノタウロスを吸収した。

 あれをラクナにもしてやろう、ということらしい。


 そして昨日ソルイは吸収した魂はボクの力になると言っていた。

 それはどういうことか……昨日寝る前に聞いたところ、どうやら吸収した魂は従魔として召喚できるようだ。


 ただし吸収できる魂は限られており、まず前提にソルイが美味しいと感じること。

 これはもうボクとしては意味が分からない。

 彼の判断次第だ。


 次に吸収する対象の状態。

 あの時のミノタウロスのように極限まで弱りきっている、もしくは吸収に対して抵抗を示さない状態じゃないと難しいらしい。


 つまりラクナには自ら受け入れてもらい、同意の上で吸収しようというわけだ。

 父さんも昔、「女性とチョメチョメするときは同意の上で……」なんて言ってたような気がする。

 今の状況は全く関係ないことだと思うけど。


 それとさっきラクナに対して説明した内容に従魔なんて一言もなかったけど大丈夫なのかな。

 従魔になると主人に対して従順となり、如何なる指示でも従わなければならなくなる。

 それを知らないまま話が進んでいるので、なんだか彼女を騙しているようで少し気が引ける。


「あなた……っ!」


 ラクナは険しい表情でボクを見つめてきた。

 やっぱり彼女は怪しんでいる?

 そりゃこんな体のいい話、不審に思って当然……。


「いえ、リュウってもしかしてものすごく頭良かったりする?」


 ラクナは何の疑いもない純粋無垢な瞳をボクに向けてきていた。


 いや、今の説明でいけちゃうの?

 とんでもない化け物だと思っていたけど、こんな素直な姿を目の当たりにするとむしろ可愛く見えてくる。 


「あ、頭はそんな良くないと思うんだけどな〜。でもこの案を気に入ってくれたなら何よりだよ」


「ワタクシものすごく気に入ったわぁ! で、吸収されるにはどうしたらいいの? できるなら早くしてちょーだい!」


 彼女はとっても前向きに話を進めてきた。


 ソルイの説明いわく、このガントレットを彼女にコツンと当てればいいらしい。


「じゃあいくよ?」


 ボクは拳をラクナの肩にポスッと触れさせた。


 すると彼女の体が少しずつ粒子へと変わっていき、ガントレット本体に吸い込まれていく。

 ミノタウロスの時は一気に消えた気がしたけど、これは何の違いなんだろう。

 そして顔周囲も粒子になって消えていく中、最後に一言口を開いた。


「じゃあこれからよろしくね。っ!」


 従魔なんて一言も言っていないのに、最後の彼女の言葉からはとてつもない信頼が伝わってきた。

 主人というものはどんなことを指示するのか分からないけど、せっかくだったら仲良くしたいものだ。

 そうボクは心の中で思った。

 


 ということでこの試験中、ボクに2人の従魔ができました。

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