第15話 決着



 ボクは『魂奪のガントレット』を構えた。

 

「じゃあ、行くよっ!」


 そう言い放ち、ケンタの元へ駆け出す。

 といってもいつも戦うようには強く蹴り出せない。

 あれは竜細胞の力を脚に巡らせているからこそできることだからね。


 ケンタは近づくボクにハッと気づき、再びクロスボウを向けてくる。


「距離が近づきゃ一本くらい当たるだろっ!!」


 バスッバスッバスッバスッ――


 もちろん全ての矢を防ぐ。


「あーくそっ!!!」


 バンッ――


 乱暴な言葉を放ちながら彼はクロスボウを地面に叩きつけた。

 諦めたのかな、なんて思ったのも束の間、腰に差していた長刀を抜き、ボクの攻撃に備えている。


 なんだ、まだやる気じゃないか。


 もうすでにお互い手の届く距離。


「剣技・乱刀」


 ケンタは目にも止まらぬ太刀筋で何度も斬り込んでくる。


 キンッ――

 

 剣とガントレットの装甲がぶつかることにより生まれた鋭い金属音がこの空間に響きわたる。

 といってもそれだけでは守りきれず、何度か斬りつけられた。


 痛い。

 竜細胞を使っていいなら硬化して守れた。

 だけど今はこの武器で防ぐので手一杯だ。


「近距離じゃ負けねぇぞ―っ!!」


 その威力と手数に圧され、ボクは攻撃に移るタイミングを見失っている。


「おっらぁぁっ!」


 勢いに乗ったケンタはさらに攻撃速度を上げてきた。


 まだ速くなるのか。

 これはさすがに防げないよ。

 一度距離をとらなきゃ。


 ボクは長刀の振り下ろした後のわずかな隙をみて大きく後ろへ下がった。 


"ふぅ、お互い一瞬も油断できないね"

"コメントするの忘れてたわ"

"俺は息するの忘れてた"

"2人とも実力高くね?" 

"ガントレットが長刀と渡り合えてるのすご"

"いや、渡り合えてないだろw シルバーは防戦一方。ケンタが勝つのも時間の問題"

"さすがケンタ、あんだけ身体能力上がってるってことは武器と共鳴してんだろな"

"共鳴したハンターの力えぐい"

"このままじゃシルバー負けるな〜"

"武器と共鳴でもすりゃ別だろうけど"


「シルバーくん、さっきのよく守り切ったな」


「ケンタも剣さばきすごかったよ〜! 全然攻撃できなかった!」


「ハハッ! 嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。だが勝ちを譲るつもりはねぇ!」


「分かってる。でもボクは勝つよ」


「ふん、そんだけ勝ち気が強いならお前ハンターに向いてるよ。勝てるかどうかは別としてなっ!」


 ケンタはそう吐き捨て再び剣を構える。


 それに合わせてボクも同じように戦いの体勢に入る……けどなんか突然体がポカポカしてきたんだよね。

 だけどその原因は今手に持ってる 『魂奪のガントレット』だということは当の持ち手であるボクが一番よく分かっている。


 この武器から何かが体内に流れ込んでくるのだ。

 それは力の源や力の使うイメージといったもの。

 口では説明できない自分にとって全くの未知。

 でもその力は直感的に自分の味方になり得るものだってことが肌を通して伝わってきた。


 そしてこう言われている気がする。


 (今の僕達ならあいつを倒せる!)


 これを聞いて、初めてこの力を理解した。

 君はボクに力を貸してくれるんだね。


 よし、戦いに集中しよう。


 先手はケンタ。

 シュッシュッとボクとの距離を詰めてきた。

 あっという間に目前、そして剣を振るう。


「くらえっ! 乱刀っ!!」


 凄まじい剣撃……だけどさっきより遅い気がするぞ。

 その証拠に今は全ての剣筋をガントレットで防ぐことができている。


 剣撃を放つケンタは徐々に表情が歪んでいく。


「なんでだっ! なんで当たんねぇ!!」


 少しずつ速度が落ちる乱刀。

 それと相反して彼の息は上がっていく。


 ケンタ、とっても苦しそう。


 だけどボクはずっと力が漲っている。

 攻撃を弾くごとにガントレットがボクに力を送ってくれている気がするんだ。


 今の乱刀になら充分攻撃に転じることができそう。

 剣を振り終えた後の隙があまりにも大きすぎるのだ。


「よし、今だ!! はぁーーっ!!」


 剣が振り下ろされた直後、ボクは彼の懐に入り込み、みぞおちに拳を叩き込む。

 すると突然、ボクの意思に反してガントレットが輝き出す。

 なんだ? と思ったのはほんの一瞬、これ以上の思考を巡らせるよりも早く、振るった拳と同時に高密度なエネルギーが放たれた。

 

「くっそ……」


 ケンタは避ける間もなく、ボクが放った攻撃に直撃したのだった。


"え、何あれ?"

"手からカメ◯メ波出してた"

"反則じゃねーか!笑"

"武器を使った技だから問題ないだろ" 

"いやいや、エネルギー波を出す武器なんて……まぁ共鳴してたらあるか"

"ということは武器を使いこなしたシルバーくんの勝ちってことでよろし?"

"チート武器だな。俺が使ってもケンタに勝てそう"

"いや魂奪のガントレットだぞ。並の人間じゃ氣を吸われて死んじゃうって橘商店さんも言ってたじゃん"

"なんだよ〜結局シルバーが特別ってことか〜"


「し、試合終了〜!! 男気バトルの勝者、リュウ!」


 少し引き攣った笑みを浮かべた孝二さんは勝者としてボクの名を呼称してくれた。

 その後、ケンタの方へ駆け寄り、体に触れている。

 安否の確認をしているのかな?


「よし、ケンタも生きてるみたいだ。だが少し治療が必要だな、一旦配信切るぞ」


 孝二さんはケンタの体を弄り、取り出したスマホを操作している。

 配信停止の合図なのか、AI撮影ドローンはピッと機械音を発し、静かに着陸した。


「リュウくんっ!! おめでとうっ!!!」


「おおっ! びっくりした!」


 後ろから急に抱き締めれたのだから驚いても仕方がない。

 背中に感じる柔らかい感触と風に乗ってやってきた玲奈の甘い匂いがたまらなく、ボクの心音を速く鼓動させる。


「あぁびっくりさせちゃってごめんねっ!」


 軽やかに謝った後、ボクから体を離したので彼女の方へ振り向いた。


「ありがとう! やっぱり使いやすかったよ、この武器っ!!」


「武器……そうそう、何あの戦い! リュウくんどんだけ強いの!? これなら簡単に3級ハンター試験……いや、2級や1級だって……」


 玲奈は興奮気味に話す。


 そんな中、突如として妙な違和感がボクを襲ってきた。

 なんというか右手が疼くというか熱いというか……。

 これはガントレットを外したほうがいいのかな?


 ボクが困っていると


「リュウくん、どうしたの?」


 玲奈が声をかけてくれた。


「いやなんかね、右手が熱いような気がして……な、何!?」


 ピカッ――


 突如ガントレットが青い光に包まれた。

 そしてその光は武器から離れ、まるで別の意思を持つかのように上方向へ移動する。


「何かいるぞ!」


 孝二さんは光を見つめるなり、そう言葉を放つ。


 彼の言うとおり光の中に何かが見える。

 小さい……生き物のような。


 いずれその輝きは失われ、姿形が露わになっていく。

 そしてそれを見てまず声を発したのは玲奈だった。


「ド、ドラゴン!?」


 そう、そこに現れたのは小さな青色のドラゴンだった。

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