第18話 一日目の波乱
ダンジョン『零』3階層――
ここに来るまでいくつかモンスターとの戦闘をこなしてきたが、大した手応えはなかった。
その姿を撮っているのか、AI撮影ドローンがボク達を後ろから付かず離れずの距離で追ってきている。
たしか試験の安全を考慮して、だったかな。
それにダンジョンを進んでいると、ロベール直属の護衛ハンターとアルバイトのハンターがチラホラ目に入る。
それだけ見張りがあれば、危険はかなり少なそうだ。
「旦那、これ降りたら4階層へ行くはずなんだけどよぉ、地図を見るとどうもこの場で中ボスの『ディノニクス』っていう恐竜型のモンスターが出てくるらしいんだが……」
大我くんがそう言うので一応見渡してみたけど、それっぽいモンスターは見当たらない。
「誰かが倒したってこと?」
「……まぁそういうことだろうな」
大我くんはそう言いながら、自分のスマホを取り出す。
「おートップは4階層も突破しそうじゃん! それに先頭集団の中に旦那が助けた可愛い子ちゃんもいるぞ」
「ん? どれどれ?」
ボクは彼のスマホを横から覗くと、そこにはDチューブの配信画面が開かれていた。
配信は試験中常に行われているため僕たち受験者はお互い、いつでも状況を知ることができるのだ。
まず目に入ったのは、試験開始直後に出会ったあの青髪の女の子。
彼女はモンスターと戦闘中、周りには他のハンターも映っており、あちこちでモンスターと戦っていた。
「旦那、自分のスマホでも見れるだろ?」
「いやいや、これ見てよ」
ボクは両手に填めてあるガントレットを掲げた。
「あ〜つまりゴツくて持てないと?」
「まあ持てないわけではないんだけど、ちょっと持ちにくくてさっ」
(悪かったのぉ。ゴツくてっ!)
これは……ソルイの念話。
久しぶりにお声がかかったような。
(そりゃお主が我を避けるからじゃろ!)
どうやらボクがこの1週間、ガントレットをずっと填めなかったことを根に持ってるみたいだ。
いくらうるさかったとしても、なんか悪いことしちゃったなぁ。
(聞こえとる、聞こえとる! うるさかったとはひどいの〜)
そうだ、ボクの心の声も聞こえてるんだった。
ごめんよ〜。
「旦那っ! 旦那ってば!」
「えっ!? どうしたの?」
「いや、急に黙っちまうからどうしたのかと」
「大丈夫、何もないよ」
ソルイのことは誰にも言わない。
大我くんとは仲良くなったと思うけど、それでも言っちゃいけない気がする。
「ん、ならいいけどさ。……旦那、それより先に進もうぜ!」
「うんっ!」
ボク達は次の階層へと足を運んだ。
◇
一階層進んだくらいじゃ特に大きな変化もない。
そのため、4階層も難なく突破。
そして次なるは、5階層。
外の明暗は分からないけど、スマホを見ると時刻19時と記されていた。
大我くんは「大丈夫、大丈夫〜!」と言ってるけど息も上がってるし、進むスピードも徐々に落ちている。
この階辺りで今日はお休みかなぁ。
元々今回の試験、クリア目安は2日から3日とされている。
寝床も探さないとだし。
「大我くん、今日はこの辺で休まない?」
ボクがそう提案すると、
「旦那、俺もそう思ってたところさ。……お、おっと」
大我くんは進む足をピタッと急に止めたため、その加速力を制動できず一瞬ふらつきをみせた。
「大丈夫!?」
「へへっ! ちょっと頑張りすぎたかもしんねぇ」
そう言って彼はその場にへたり込む。
やっぱり無理してボクのペースに合わせてくれてたんだ。
悪いことしたな、早く寝床を探してあげないと。
(リュウ、ここから西へ100m、ちょっとした洞穴がある。そこはどうやらモンスターがいないようだ)
ソルイ!
ありがとう!
どうやって探したのかは分からないけど、とっても助かる。
「大我くん、こっち!!」
ボクは立てそうもない彼を肩に担ぎ上げ、ソルイの言う方向へ向かった。
そして少し進むと、
(リュウ、あそこの洞穴じゃ)
本当だ。
助かったよ、ソルイ。
(それほどでもないぞっ!)
洞穴に到着したので、大我くんを降ろす。
「悪いなぁ、旦那。初めてのダンジョンで思いの外、足が疲れてたみたいだ」
「ボクこそ大我くんが疲れていることに気づけなくてごめんね」
ダンジョンは地上に比べて足場も悪いし、モンスターがいつ出てくるかも分からない。
あくまでボクがある程度元気なのは、こういった環境に慣れているからだ。
初めて踏み入れた大我くんが疲れるのはごく当たり前のことだと思う。
「いんや、足を引っ張った俺が悪りぃ! 明日からは気をつけるからよ!」
大我くんは、にひひっと笑みを浮かべる。
笑う元気があるようでよかったよ。
それからボク達は食事の時間をとった。
お互い荷物に軽く食べられるような携帯用食料を持ってきている。
玲奈がボクにくれたものだけど、食べるとこれが不思議と美味しいのだ。
ダンジョン内のモンスターよりよっぽど良質な味をしている。
「さぁて、トップはどこまで進んだかなぁ?」
片手で菓子パンを食べながら、大我くんはスマホ画面を開いた。
Dチューブだ。
他のハンターの進捗を確認するのだろう。
「ボク達が3階層の時、トップの人達は4階層を突破目前だったし、今頃もう少し進んでるかもしれないね」
画面を凝視している彼の表情がふと固まる。
そしてゆっくりと口を開いた。
「……いや、俺らと同じ階層。もしかして、あれ……ボスか?」
「え、大丈夫そうなの?」
ボクも急いで自分のスマホ画面で確認した。
そこに映されているのは、牛の頭をした巨人である。
そしてそれに立ち向かうは青髪の女の子、ただ1人。
"おっ!5階層ボス、ミノタウロスと戦闘中? だけどちょっと苦戦してる?"
"朝からダンジョン潜りっぱなしだからな、そりゃ疲れるわ"
"てかなんで1人?"
"他7人くらいいたけど、逃げちゃった"
"逃げたって、試験中だろwww"
"まぁ逃げたというか、疲労も溜まってるし、明日改めてってことじゃない?"
"戦略的撤退ってことか"
"じゃあなんであの子だけ?"
"逃げる体力がないと思われる"
"ミノタウロスって見た目の割にすばしっこいからな。さっきからあの子の逃げるルートを先回りして防いでる"
"ミノタウロスって女性の匂いが好きなんだっけ?"
"他のハンターはあんな可愛い子を見捨てたってことかよ!"
"ひでぇな"
"ひどいかもだけど、まぁ所詮は同じ受験者ってだけで赤の他人だからな"
"あの子、防戦一方だね。こりゃ時間の問題か"
「……旦那、これヤバくねぇか?」
視聴者や大我くんが言うとおり、これは間違いなくピンチである。
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