第19話 私のヒーロー
目の前にいるのは5階層ボス、ミノタウロス。
私の身長の3倍以上はあるんじゃないかな。
やつは大きな斧を片手に立ちはだかっている。
周りの人と協力してなんとかこの階層まできた。
ボス部屋の前まで来みんなが行こうって言うから勇気出して中に入ったけど、まさか他のハンターさんが走って逃げちゃうとは思わなかったな……。
みんなは身軽な装備だったかもしれないけど、大剣を背負った私じゃミノタウロスからは逃げられないよ。
それに私ばっかり追ってくるし……。
「ブフゥウウウッ……!!」
また回り込まれた。
この部屋内、どこへ逃げようにも行く手を阻まれる。
これはもらった帰還石で帰った方が……いや、私は絶対3級ハンターになるって決めたんだ。
「ブフウウウッ……!!」
ミノタウロスは私に向かって突進し、その大きな斧を振り下ろしてくる。
カキンッ――
武器同士がぶつかることで、強い金属音を生み出した。
大剣を持っていると、剣が重たくてどうしても動きが遅くなる。
でもその分、頑丈だし剣身も広いから防御にだって使えるんだ。
カキンカキンッ――
何度もお互いの武器がぶつかり合い、火花を散らす。
変わらない戦況の中、この攻防がひたすら続いていった。
そして徐々に削られていく体力と精神力。
もうダメかと思った時、私に一筋の光が差し込んだ。
バキッ――
ミノタウロスの斧が破壊されたのである。
私が持っている武器、『
キングリザードマンから作った武器らしいからすっごく頑丈みたい。
ありがとう、パパ……!
「ウウ……!?」
武器のなくなったミノタウロス、脅威は半減だ。
もしかしたらこんな私でも倒せるかも……!
「今っ!!」
ブスッ――
大剣をミノタウロスの脇腹に突き刺した。
傷が深いのか、ドスッと地面に片膝をつく。
うん、これは手応えあり。
「ブウ……ウゥゥゥゥ――!!!!」
やつはその場で大きく哮り立つ。
そしてそのまま私に視線を落としたそいつは、ニタ〜ッと不気味に口角を上げた。
その姿を見て、私は震えが止まらなくなる。
怖いよ……怖い……っ!
こんな近距離にいたらマズイよ。
そう思って大剣を引き抜こうとするが、ピクリとも動かない。
仕方ない、一旦私だけでも離れなきゃ。
大剣から手を離し、この場から少しでも退こうと思ったけど、その時にはもうすでに遅かった。
「きゃ……っ!」
私は今、ミノタウロスの手の中。
ガッチリ握り込まれてしまった。
「う……。 い、痛い……っ!」
「ウゥゥゥゥ――ッ!!」
やつの放つ咆哮と共に、私を握った手掌の圧が高まっていく。
ミシッ――
誰か……助けて。
視界もだんだん薄れて……このままじゃ私、死んじゃう……。
「ダメじゃないか〜! そんな可愛い子をいじめるなんて」
意識が遠のく中、男の人の声が聞こえてくる。
なんだか聞き覚えのあるような……。
目の前には銀髪の男の人が私を掴むミノタウロスの腕の上に立っている。
あ……そうだ、この人は私の大好きなシルバー様……。
そう、私のヒーロー。
ここで記憶は完全に途切れた。
◇
「ふ〜間に合ってよかったよ」
ソルイが念話で場所を教えてくれたから最短でここまで来ることができた。
何から何までありがとうね。
(礼は後じゃ。まずは目の前の相手に集中しろ)
うん、わかったよ。
「ウウゥ……?」
"すげぇ。シルバー間に合った笑"
"そりゃ女の子好きだからなww"
"マジで一瞬だったぞ"
"しかも地図見ずに行ってたよな?"
"それもすげぇが、俺らのシルバーが本当にすげぇのはこっからだ"
"↑私物化してて草"
"ミノタウロスごとき余裕だろ? シルバー!"
"やっちゃえやっちゃえ"
「まずはその汚い手を離しなよ」
「ブフウウウッ……!!」
ボクが腕の上に乗っているからか、ミノタウロスは鼻息を荒げ、地団駄を踏む。
彼女を離す気がないなら仕方ない。
相手はモンスターだから手加減なしだ。
「はあ――っ!!!!」
ボクは『魂奪のガントレット』により強化された拳をフルパワーで振り下ろした。
ドカッ――
「ウウウ……ッ!!」
あまりの威力で、殴った部位を支点にやつの腕がへし折れた。
その拍子でミノタウロスの握り込んでいた手は緩み、ゆっくりと彼女はその隙間からずり落ちる。
「おっと!」
彼女が地面へ落ちる前になんとか抱き抱えることができた。
"えっぐwwwwww"
"シルバーの攻撃直喰らいはヤバいわ笑"
"むしろミノタウロス側に同情する"
"女の子助ける手際良すぎ"
"【悲報】レナ、恋のライバル現る"
"www あの青髪の子も相当可愛いからな"
"《レナチャンネル》そ、そんなことで嫉妬なんてしません……っ!"
"え"
"ほんもの?"
"リンク飛んだらガチのレナチャンネルだったwww"
"シルバーが心配で配信見てたんだね〜"
"尊すぎる"
彼女をこんな危険な場に置けない。
そう思って、ボクは少し離れたところにそっと横たわらせた。
「ウゥゥゥゥ――ッ!!」
ミノタウロスは負傷した手はぶらんとしたまま、残った腕を振りかぶってボクへ迫ってきた。
全くもって単純な動き。
一撃で仕留めてあげよう。
「トドメッ!!!」
やつの振るう拳よりも速くボクの一撃を叩き込んだ。
「ブフウウウッ……!!」
ミノタウロスは勢いよく後方へ吹っ飛ぶ。
手に残るたしかな殴打の感触。
打撃の後にやってくる拳の痛み。
それらは間違いなくあるのにも関わらず、飛ばされたミノタウロスは突如として姿を消した。
ボクの攻撃で殴った方向に飛ばされたはず。
なのにだ、どこにもいない。
これは一体どういうこと……?
(こりゃいい魂だったぞ、リュウ)
突然語りかけてきたソルイ。
そして気になるその言葉。
今のはソルイが何かしたの?
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