第20話 青髪の女の子、サラ
ボクの目の前からミノタウロスが忽然と姿を消した。
"今ミノタウロス消えた?"
"うん、消えた。というかあのガントレットに吸い込まれたようにも見えたが……?"
"んなアホな"
"いや、あり得るぞ"
"↑その根拠は?"
"あれが魂奪のガントレットだから……?"
"説明になってなくて草"
"↑いや、魂奪なんだからそれで充分理解できるだろw 理解力低すぎて草"
モンスターが消え、戦闘終了とみなされたのか、AI撮影ドローンはボス部屋の外へと静かに飛んで行った。
あくまで戦っている場面を集中して撮影するなんてとっても賢いな。
そういえばソルイはさっき、いい魂だったと言っていた。
つまり名の通り魂を奪ったってことなのかな。
(リュウ、その通りじゃ。あのミノタウロスには魂奪のガントレットの一部になってもらった)
ソルイ、そんなことできるの?
(あぁ。我が良質な魂だと判断した場合にのみじゃが)
良質?
それの判断基準は?
(んぬぅ……お主は難しいことを聞くの〜。まぁ平たく言えば善良な魂、つまり根が良い魂かのぉ。悪い魂は不味いのじゃ)
善良な魂!?
さっきのモンスター、あの女の子を襲ってたけど!?
(そりゃモンスターも自分の居場所に無断で入られりゃ怒るであろう)
え、そういうものなの?
(そういうものだ。あとな、ある程度強いやつの方がええ)
なんで?
(それはな、お主の力になるものだからじゃ)
ボクの力?
ちょっと分からないことが多すぎて頭いっぱいだよ。
(まぁこの話は一旦置いといて、今はあの女子じゃ。目が覚めたようだぞ)
青髪の女の子が?
ちゃんと目覚めてよかった。
ボクがその方へ視線を向けると、彼女はその場にひょこっと座り込んでいる。
何が何だかと言わんばかりに、この空間をぐるりと見渡した。
そしてすぐにボクと目が合う。
まだ頭がはっきりしていないのかボクを見たまま惚けたようにぽか〜んとしている。
大丈夫かな?
そう思って彼女の元へトコトコと駆けつける。
近づくボクに気付いたようで、
「ふぇえええ……っ!?」
なんだか狼狽えたようなおろおろ声を出している。
「どうしたの?」
ボクは彼女が心配になり、ふと顔を覗く。
すると可愛い女の子はほんのりと赤らめた自身の顔を手で覆い隠し、
「あ……の、二度も助けて下さってありがとうございました、シルバーさま……」
そう感謝の言葉をボクに伝える。
シルバーさま?
その呼び方はボクが配信で呼ばれている呼称だ。
誰がそう名づけたのかは知らないけど、おそらくこの銀髪が由来なんだろう。
「君……ボクの配信か何かを見たの?」
彼女は顔を隠していた手を下ろし、
「はい……。 え、えと……実はシルバー様のファンで……っ!」
ボクは地上に出てきてから配信に関する単語を調べてきたから、ファンという意味も分かる。
つまりボクのことを好きでいてくれる人のことだ。
そうやって好意的な感情を向けられるというのは嬉しい。
「ボクも君みたいな可愛い女の子にそう言ってもらえると嬉しいよっ! 君、名前は?」
地上では玲奈や大我くんのように名前をお互い呼び合う。
彼女のことをずっと女の子と呼ぶのも少し変な気がするしね。
「かわ……っ! ぐへへへ……そんな……あ、失礼しました。私はサラと言います。そのままサラとお呼びください」
なんか一瞬すごい下品な笑い方が聞こえてきたけど、とりあえず彼女の名前はわかった。
「サラ、だね。ボクはリュウ。なんだか配信の中ではシルバーって呼ばれてるみたいだし、呼び方はどっちでもいいよ」
「呼び方……リュウ様でもいいですか? シルバー様は私の中でどうしても画面の中のヒーローというかとっても尊い存在なので……」
呼び方でそんなに変わるものなのかボクには分からないけど、彼女の意向を尊重することにした。
ただ、様ってのは違和感があると伝えると「じゃあリュウさんで……」ってことになったけど。
ということでお互い自己紹介も終わったし、この後のことを考えないといけない。
もう夜も遅いし、きっとサラも大我くんと一緒で疲れているはず。
そう思って一つ提案した。
「サラ、ボク達が見つけた寝床に来ない? モンスターもいないし、安全だよ」
「ええ……っ!? 男の人と一緒、それって……」
サラはボクの提案に小さな声でブツブツと言い、考える素振りをしている。
一体何に悩んでいるんだろう?
「大丈夫! ボクの友達、大我くんも一緒だからさっ!」
「えええ……っ!? もしかして3人でするつもりですかっ!?」
なぜか彼女は一歩後ずさり、怪訝な顔でボクの顔を見る。
でも、こんなところで疲弊した美女を置いていくことはできない。
ここは半ば無理矢理にでもっ!
「ん? ちょっとよく分からないけど、ほら早く行くよっ!」
ボクは彼女の手を引いて、大我くんがいる洞穴まで向かっていく。
「ふぇえ……ちょっと心の準備が……っ!」
終始サラの言っている意味が分からなかったけど、きっと一緒の方が安全だよね。
そう思い、彼女の手を引いて向かったのだった。
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