第35話 武器演習開始



『武器演習』当日。


 ボク達新入生は訓練所にきていた。

 懐かしい、ボクが秦と戦った場所だ。

 あれからまだ1ヶ月ほどしか経っていないのにとっても久しい感じがする。


 新入生はボク達含めて30人ほど。

 みんな今日、十傑が担当する講義を初めて受けるからか他の時間よりも表情が固く見える。

 その中でも特にボク達……特に大我くんとサラはガッチガチに体を強張らせていた。


「はぁ……。今日という日が来ちまったか。な、旦那は緊張してねぇのか?」


 緊張した気持ちを紛らわせるためかボクに話題を持ちかける。


「ボクは緊張してないよ。玲奈が一緒に乗り越えようって言ってくれたからね!」


 すると、ボクの返事がおかしかったのか大我くんはブフッと吹き出し、


「どんな理由だよ。やっぱりバズる男は言うことがちげーな!」


「バズる?」


「この前、SNSで第3ハンター試験とシルバーがトレンド入りしてたじゃねーか! やっぱアンタは大物だな。ニシシッ!」


「そうだったんだね」

 

 いくら地上に慣れてきたからって日頃からSNSをチェックしているわけでもないし、バズるという単語は分かるけど『だから何?』って感じでそれによって得られるものに関してよく分からないし、イマイチ興味も湧かない。


 大我くんは「相変わらず旦那は興味ないのな〜」なんて言って笑っている。

 彼の様子を見ると、だいぶ緊張が解けたみたいで良かった。


 一方サラはというと、玲奈に声をかけてもらって胸を撫で下ろしている様子。

 2人もだいぶ仲良くなったものだ。


 そんな時、訓練所の両開きドアが開かれた。

 片扉に1人スーツを着た護衛ハンターが配置され、開放されていく。


 その扉の先には、すらっと背の高い男性。

 髪色はピンク、おそらく長いからだろうが前髪は上へあげられ、おでこが堂々と姿を現している。

 整った顔立ちだが、その釣り上がった眉と細く鋭い目つきが特徴的。

 首やベルト、手首にチェーンを巻いており、指にもたくさん指輪をつけている。

 同じ制服を着ているのに、それだけで全く違うものに感じた。


 そんな彼が中心となり、その他5人の護衛ハンターが後方へ付いている。

 なぜか護衛ハンターって男の人ばっかり。

 それにガタイも良くて怖い顔をしているし。


 そしておそらくあの中心の人物が『ロベール・ド・コルネ』。


「みんな〜お待たせ〜! って講義が始まる前に俺も着いたんだし、遅れたわけじゃないか〜。アハハッ!」


 あの声だ。

 エイジのヘッドフォン越しに聞こえたのは。

 妙に甘く優しい声色。

 裏の顔を垣間見たボク達からしたらあのニタニタと笑う表情はより不気味に感じた。


 あの時のことを思い出すと今にもぶん殴ってしまいそうになるけど、玲奈との約束もある。

 それに護衛ハンターの中にいる飛田さんの顔を見ると妙に落ち着いてきた。

 この講義中、彼もいるならなんだか安心だ。


「よーし、みんな〜ちょっと早いけど講義始めるよ〜。それぞれ武器を持ってると思うけど準備してね〜っ!」


 こうして彼の講義が始まった。


 内容としては武器についての概論的なもの。

 武器にも氣が流れており、それをハンター自身の氣を合わせていくことが戦っていくことの基礎となる。

 その状態を『共鳴』と言い、こうなると武器が持ち得る特殊な力を発揮できるという。

 この力は武器によっても違うし、同じ長刀だとしても違う能力を持っていたりする。

 これは未だ地上では解明できていない謎であり、今後の研究課題になってくるらしい。


 ボクのガントレットは氣を吸収することができる。

 それにモンスターの魂をこの武器内に取り込むことができる。

 これが『共鳴』によって得た力なんだろうか。


 まぁそういう内容の講義だ。


 ロベールは思いの外真面目に指導してくれている。

 彼も講義という学校の行事を自分の役割だと思って行っているようだしボク達に何かしようなんて思っていないのかもしれない。


「さーてみんな、武器を握って〜! 武器から流れてくる氣を感じるんだ。もうできる人もいるとは思うけど、その人達は復習だと思って自分の武器と会話をしてみよう。武器だって生きている、と言われている。会話だってできるはずさっ! まぁ実際会話した事例なんてひとつもないんだけどね〜。ハハッ!」


 ここにいる生徒は立ち上がり、等間隔に立ち並ぶ。

 みんなそれぞれ武器を構え、「はぁ――っ!」と意気込むもの、静かに目を閉じて武器を抱えるものと三者三様だ。


「俺はウロウロ見回っているから、分からないことがあったらなんでも聞いてね〜っ!」


 こうして本日の課題『共鳴』の実技演習が始まった。


「あ、あの……っ! ロベール様……聞きたいことが……」

「わ、私も……」

「後でこっちにもきてもらえませんかー?」


 あの身なりで初めは皆緊張していたがあのフランクな話し口調に少しずつ生徒は心を開いていき、今やロベールへたくさんの声が飛び交っていく。

 たしかにこの講義だけの印象でいえば優しい学校の先輩って感じがするし。

 ボクもしっかり武器と向き合うか。


 (リュウ、気を抜くな。殺気がするぞ……っ!)


 ソルイの一言と同時に背後から気配がした。

 そしてボクの真後ろにピタッと何かが合わさる。


「君がリュウくんかぁ〜。今気を抜いてたでしょ?」


 背中に張りついている正体、それはロベール本人だった。

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