第36話 共鳴の実技演習


 

「君がリュウくんかぁ〜。今気を抜いてたでしょ?」


 今ボクの背後にピッタリと付いているのはロベール本人だった。

 背筋に悪寒が走る。


「な……っ!?」


 思わず声を出して振り返る。


「な〜になにぃ? ちょっと脅かしただけだよ〜。そんなに殺気向けないで〜」


 ロベールはすでにボクから離れており、降参〜と言わんばかりに両手を上げている。

 そしてボク達の会話に生徒全員の視線がこちらに集まった。


「別に殺気なんて向けてない」


「ふ〜ん? じゃあ俺が感じたのは君の中のなのかな? まぁ〜これは俺の講義、身の振り方には気をつけなよ〜っ!」


 ロベールはボクにしか聞こえないよう小さな声でそう言ってきた。


「ロベール様こっちお願いします」

「私もお願いできますか?」


「はいは〜い! 順番順番〜っ!」


 そう言って他の生徒の所へ向かった。


「リュウくん、大丈夫?」


 玲奈は周りの様子を伺いながらボクに声をかけてくれた。


「うん、特に何もされてないし大丈夫だよ。おそらくこの講義中に手は出してこなさそうだね」


「はぁ……ならよかったけど」


 彼女はホッと胸を撫で下ろす。



 しばらくして、ロベールから集合の合図をかけられた。


「みんな飲み込みが早いね〜! 今年の新入生はすでに『共鳴』が出来ている人が多いなぁとは思ってたけど、そうじゃない人も覚えが早くて教えがいがあるよ! そこで……ちょっと早いんだけど、俺の護衛ハンターを相手に『共鳴』の練習してみよっか。……さぁ我こそはと先陣を切ってチャレンジする人いるかい?」


 と、新たな提案がなされる。


 それに対して生徒のほとんどは自信なさげに嘆息をついた。

 そりゃ護衛ハンターの人達って強いし、いきなりの提案に尻込みするのは無理もない。


 ロベールは思っていた反応ではなかったのか、少し考え込み始めた。


「うーん……そうだなぁ〜。じゃあさ、3級ハンターの4人から行こうか? どうだい?」


 彼はボク達に話題を向ける。

 ちなみに3級ハンターの4人とは、ボク、玲奈、大我くん、サラのことだ。


 現状中断された3級ハンター試験。

 再試験の予定だが、まだ行われていないらしい。


 そして玲奈は去年合格したって言ってた。

 そういえばボクと初めて会った時、1人でダンジョン配信してたもんね。


「げ……っ! どうする?」


 大我くんはコソコソとボク達4人に聞こえるよう小声で相談を持ちかけてきた。


「どうするも何も、これ授業ですしねぇ。参加しないわけには……」


「サラちゃんのいう通り。断るのはちょっと……」


 みんな憂鬱そうな表情で顔を見合わせている。

 ここはボクがなんとかしてあげたい。


「じゃあさ……っ! ボクが全員相手するよっ! それでいいでしょ?」


 これで誰も嫌な思いをさせないで済むぞ。

 と思って周りを見渡すと、みんな口を開けたままポカンとしている。

 あれ、変なこと言ったかな。


「リュウくん……私達を守ってくれて嬉しいんだけどね、これは授業の一環なの。だから心配しないで? 私達も……」


「クククッ……アッハッハッハッハ――っ!!! 待って、面白すぎるでしょ……っ! リュウくん、それ良いねっ! やろうっ!」


 ロベールは腹を抱えて高らかに笑っている。


「ロベール様、それではこの講義の意味が……」


「いいか? 今日は記念すべき初回の講義なんだ。そもそも想定より講義の進み具合も早い。これくらいのお楽しみはいいだろ? あの有名なシルバーくんの実力をみんなも見たくはないかい?」


 ボク達以外の生徒へロベールが問いかけると、


「たしかにシルバーくんの戦いが生で見れるなら嬉しいっ!」

「え、見たいっ!」

「動画でしか見たことないからなぁ」


 なんかみんな意外と乗り気になっている。


 その様子を見て「わかりました……」と受け入れ始める護衛ハンター達。


「旦那っ! そんな俺達のために……っ!」

「こんなことになってしまってごめんなさい……」


 大我くんとサラは申し訳なさそうにしている。


「ううん、気にしないで。ボクもちょうど試したいことがあったしっ!」


「試したいこと……?」


「リュウくんっ!!」


 大我くんの疑問と被さって玲奈が声をあげ、駆け寄ってくる。


「玲奈、どうしたの?」


「リュウくん、私達のためにありがとう」


 その後、彼女はボクの耳まで口元を近づけてきて、


「分かってるとは思うけどロベール様には気をつけて。何を企んでるか分からないから……」


 ボクだけに聞こえるよう、コソコソと話した。


「うんっ! 気をつけるよっ!!」


 とは言ったものの、ロベールが何かしない限り、何を気をつければいいか分からない。

 とりあえずソルイにでも見張っててもらおうかな。


 (こんな時だけ我を使うのだな……)


 ソルイ、拗ねてる?

 なんかごめんね……。


 (まぁ良い。ロベールのことは注意しておく。リュウは共鳴の力でも試してこいっ!)


 分かった、そうする。


「リュウく〜んっ!! こっちこっち! うちの護衛ハンターは準備万端だよ〜」


 ロベールから訓練所の中心に呼ばれた。

 そこには飛田さん以外の護衛ハンターが4人並んでおり、他の生徒はその中心を大きく囲うようにして戦いやすい場を自然と作ってくれている。

 飛田さんとは戦わないんだなぁ、なんて思いながらボクは急いでそこへ向かった。


「ロベール、待たせたみたいでごめんね?」


「お前……っ! ロベール様を呼び捨てだと……っ!?」


 怒った……護衛ハンターの中でも一番ゴツい人が。


「村田、気にするな。彼はこれでいいんだよ」


 あの人村田って言うんだ。

 なんか名前からしてあまり強そうじゃないな。


「わ、わかりました……」


 彼は素直に引き下がったけど、ボクを変わらずキッと強く睨んでくる。


「お前達、これはあくまで講義の一環なんだからあまり本気を出しちゃダメだよ? あくまでリュウくんの『共鳴』練習なんだから」


「「「「はいっ!」」」」


 護衛ハンターは声を揃えて返事をするが、ビンビンと殺気が伝わってくる。


 本気でやるつもりか?

 それならこっちも本気でやるけどさ。


「さぁ〜『共鳴』の実技演習スタートだっ!!」


 ロベールの合図で演習が始まった。

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