第30話 悲惨な現実


 そして到着したのは、元の場所。

 おそらく7階層。


 転移魔法陣をしばらく見つめるも蜘蛛達は追ってくる気配がない。

 何故かは分からないけど、とりあえず一安心。


 ボク含めたみんな安堵からかその場にへたり込み、はぁ〜と気の抜けた声を出す。


「ハラハラしたねぇ」


「ハラハラしたねぇ、じゃねーよ! 旦那が突然飛び出した時はどれだけびっくりしたことか!! なぁ? サラさん!」


「は、はい……。お、おしっこチビっちゃうかと思いました……」


 おいコラァと怒鳴ってくる大我くん、今も尚ガクガク震えてるサラには怖い思いをさせて申し訳なかったけど、今回は本当に助かった。

 2人がいなかったらあんなに大胆なことはできなかったと思う。

 助けた3人も無事なようで良かった。


 一方3人のハンター達もボク達と同じように地面にへたり込んでおり、少し気持ちが落ち着いてきたのか、声をかけてきた。


「あの……本当にありがとうございました。あなた達が来てくれなければ、俺達は間違いなくあの蜘蛛の餌食になってました」


 まずヘッドフォンの男性が正座で頭を下げる。

 そしてそれをみた他2人も同様に、


「「ありがとうございましたっ!」」


 同じくそれに倣った。


「全然気にしないで。無事ならそれでいいんだし、頭を上げてよ」


 地上に来て感謝されることが増えた。

 喜んでもらえて嬉しい気もするけど、どこかむず痒い。

 ボクの言葉に3人はゆっくり頭を上げてくれる。


「この感謝、忘れません」


 少し休んだボク達は立ち上がり、移動することにしたが、3人とも帰還石を持っていないためゆっくり地上まで歩いて行こうということになった。


 本来であれば帰還石だけでなく個人の転移結晶を持っているため、あっという間に帰られるはずなんだけど、アルバイトのため事前に回収されたらしい。

 

 あれはお互い触れていれば他の人も一緒に転移することができる。

 もちろんボク達受験者も不正防止のために回収されたんだけど、アルバイトの人達も同じく回収されたようだ。

 それに彼らはそれだけでなく個人の専用武器まで持ち込み禁止だったらしい。

 なので簡易的な武器のみを持っている。

 アルバイトの人達は皆2級ハンター以上の実力って聞いてたけど、そりゃ武器がないと蜘蛛にも追い詰められるよね。


 専用武器と転移結晶を回収された時点でロベール様を怪しむべきだったと3人とも後悔している。


 そして移動中、ボク達はお互いに自己紹介をした。

 名前を知ることでなんとなく心の距離が縮んだ気がする。


 ヘッドフォンの彼はエイジ、他2人はリク、ハヤト。

 彼らはこのアルバイトで知り合い、ロベールの指示でカメラの死角を探して転移魔法陣を展開させる担当だったそう。

 展開直後に女王ラクナが飛び出してきたらしいので、あの先はおそらく60階層だったのだろう。

 そんなことをしてそのロベールってやつは何がしたかったのかな。


「とりあえず、俺らは外に出てこのことをハンター協会へ報告しようと思う。それに学校側にも」


 エイジは歩きながらそう言う。


「そうだな。ロベール様は学校では十傑のポジションを持ち、父親は特級ハンターで大型ギルド『レッドコルネカンパニー』のギルドマスターをしている。そのギルドの後を継ぐなんて話ももう出てきているらしい。そんな将来有望な彼が違法の転移魔法陣を展開しようとし、あろうことかその証拠をもみ消すために人を殺そうとしたことが世に知られれば、もうハンター人生も終わりだ」


「でもロベール様はそれだけのことをした。しっかり自分のしたことに向き合って罪を償ってほしいな」


 リクとハヤトも続けてそう話す。


「うん、ボクもそれがいいと思う。悪いことをしたなら責任は取らないとね!」


「そうだぜ、もし俺らの証言が必要ならいつでも言ってくれよ!」


「……はいっ! 私もできる限りのことは協力します!」


 ボク達3人はもちろん同意の意を示した。


「ありがとう……リュウ、大我、サラ。本当に俺らはいい人達に巡り会えたよ」


 エイジは再び感謝を伝えてくる。


「もういいって。ボクも友達ができた気がして嬉しいしさ」


「友達、か。そんな風に言ってくれるんだな。なら外に出たら美味いもん食いに行こう。ここにいるみんなで!」


 エイジの提案に対して、


「お、それいいな。俺いい店知ってるし、予約とるわ」


 リクが食い気味に話に乗る。


「おお……っ!」と声に出す大我くん、サラ、ハヤトの反応からして全員賛成のようだし、これは決定だね。

 危険な目に遭ったけど、助けられて本当に良かった、心からそう思う。


 そんな時、エイジのヘッドフォンから聞き覚えのある甘い声が聞こえてきた。


『リュウ、大我、サラ……。名前は覚えたよ』


 ……っ!?

 まだ会話は繋がってた!?

 ということはここまでの話全部聞かれていたってことになる。


「ロベール様。俺らはもう助かった。このまま外に出てすぐハンター協会へこのことを報告しに行きます。覚悟していてください」


 エイジは宣戦布告とも取れる発言を投げつけた。


『あっそ。君達は好きにしな。それよりもさっきの3人、リュウ、鳴上大我に天城あまきサラ。身の置き方に気をつけなよ? 君らの身辺なんて一瞬で洗い出せるんだ』


 ロベールはなぜか圧倒的な被害者であるエイジ達を、こともあろうか一切気にしないでいた。

 しかしその理由はこの後すぐに分かることになる。


「エイジ、もういいよ。早く出て報告しに行こう」

「そうだ。彼がどうなろうと俺らには関係のないことだし」

「あぁ、そうだな。この通話も切って終わりだ」


『そうだねぇ〜。俺にとっても君らがどうなろうと知ったこっちゃない。じゃあ今までお疲れ様っ! 報酬は振り込んであるからね。くく……っ! ちゃんと生きて使えるといいけど』


 不気味なセリフを残して通話は途切れた。

 そして同時に甲高い電子音が響き渡る。


 ピーッピーッピー


「なんだ、なんの音だ?」


 大我くんは音の正体を耳で追う。

 ボクも同じく探っているけど、耳が良いからすぐにわかった。

 この音エイジ達から聞こえている。


 彼らはいち早く理解したのか青ざめた顔で皆上衣を脱ぎ出した。


「やっぱり……」

「これって……」

「あぁ、あの時着用した防刃服……」


 3人は同じ黒く頑丈なベストを身につけている。

 それを目にした全員、音の正体を理解した。


 ピッピッピッピッ――


 音の間隔は時間と共に短くなっていく。


「早く脱いだほうが……っ!」

「そうです、は、早く脱いでくださいっ!」

「そうだっ! 早く! なんかやべぇぞ!」


 ボク達が急かす中、彼らは

 

「くっそーっ! 脱げない……っ!!!」

「無理だ……自らは外せないって事前説明の時言ってたろ」

「そうか……ロベールは初めから俺らをここから出すつもりなかったんだ……」


 少しずつこの状況を理解し、悟り始める。


「ほら、諦めちゃダメだよっ!」


 ボクはまず手始めにエイジの防刃服を剥ごうとするけど、ビクともしない。


「んーーーーっ!! 堅い……っ!!!」


「リュウ、もういいから離れて。大我とサラも危ないから離れるんだ……」


「諦めちゃダメだってっ!!」


 ボクの言葉にエイジは首を横に振る。

 

 ピ――――ッ!


 音が鳴り止んだ。


「リュウ」


 エイジが防刃服を掴んでいるボクの両手を握って


「ありがとう」


 その言葉の直後、彼はボクを蹴り飛ばした。


 宙を舞うボク。

 強力な蹴り、きっと彼は強いハンターなんだな、そう思わせてくれるような威力だった。


 ボフッ――


 空中で耳に入ってきた重低音な爆発音。

 それにより生じた爆風でボクはさらに飛ばされる。


 そして着地すぐ彼らへ目をやると、そこに広がるのはこれ以上ない悲惨な光景だった。


 

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