第22話 非常事態


 6階層。

 ここからは少し雰囲気が変わった。


 出現するモンスターもガラリと変化を見せ、目の前にはフロストゴーレムとやらが立ちはだかっている。

 そいつらは数体の群れとしてやってきたわけだが、ボク、大我くん、サラの力で残り一体になるまで倒した。

 その一体ってのが他の個体よりも一回り大きいので、もしかしたら親玉みたいなものなのかもしれない。


「大我さんっ! 今のうちですっ!」


 サラはフロストゴーレムの連撃を大剣で防ぐ。

 自身の力なのか大剣の力なのか分からないけど彼女の周囲には光の膜のようなものができており、そのおかげで剣身だけでは幅が足りないような範囲攻撃にも対応することができている。


「ようし、任せとけいっ!」


 大我くんの武器はハンドガン。

 昨日「旦那ァ! この銃は普通のハンドガンよりも銃身が長いデザインも魅力なんだがよ、それよりも銃本体の大きさに関係ねぇほど莫大なエネルギー弾が発射できるのも魅力の一つなんだぜ!」なんて言ってた。

 彼は言葉の通り目の前のフロストゴーレムの飲み込んでしまうほど大きなエネルギー弾を発射してみせる。


 ボクとしては可愛い女の子サラの身を守ってあげたいけど、戦闘スタイル的に彼女は前衛として、大きな大剣で身を守りつつ敵の注意を引くという役割を果たしてきたということで彼女が一番先頭の配置になってしまったのだ。

 実際、彼女は完全に無傷。

 その大剣で完璧に守れているということになる。


 それにボクも中衛ポジションでサラのやや後方に位置しているため、いつでも彼女を守ることができるのだ。


 ドカンッ――


 大我くんが放った弾がフロストゴーレムに直撃した。

 強い爆発音と共にその直撃部分から大量の煙がたちのぼる。


「よっしゃあ、相当喰らっただろ!」


 ゴゴゴゴ――


「大我さん、まだですっ!!」


 そのフロストゴーレムは倒れることなく、重低音な雄叫びを上げる。

 他のやつならこれで倒れていたのにさすが親玉だ。


「まじかっ!! ザコに弾撃ちすぎちまってリロードが必要だ……。旦那っ! 頼めるかっ?」


 ボクもそろそろ出番かなって思っていた。


「もちろん。硬化っ!」


 ボクはガントレット下の上肢に竜鱗を纏う。

 武器の下には硬化した皮膚、ガントレット+硬化の拳ので威力は増大だ。 


「はぁぁ――っ! 【竜棍の一撃】」


 地面から飛び上がったボクは、フロストゴーレムの頭上からその拳を振り下ろす。


 ズドンッ――


 そいつはその暴力的な技に原型を止めることなく押し潰された。


「さすがリュウさんっ! 見事な一撃です!」


 サラはニコニコした笑顔でボクの元へ駆け寄ってくる。


「いや、サラが引き付けてくれてたから狙いやすかったんだ。ありがとうっ!」


「お、お役に立てたのなら嬉しいです……」


「いやぁ旦那、助かったぜ。てか相変わらずエグい威力だ。これじゃ俺の弾なんてあってもなくても一緒だな。ハハッ!」


「大我くんそんなことないよ。普通のモンスターならあれで一撃だし、あの大きなフロストゴーレムもだいぶダメージ受けてたと思う」


「そ、そうですよ。おかげで私も守りやすかったですし……」


「2人とも、気ぃ使わせて悪いな。さっ! 先に進もうぜいっ!」


 大我くんは一足先に奥へ進もうとする。


 この試験始まって分かったんだけど、大我くんは意外と悲観的だ。

 普段はにヒヒッと笑顔を絶やさずハキハキと話すのだけれど、戦いになると別。

 あまり自分の攻撃に自信が無いのか、「俺の攻撃なんて……」みたいな自虐的な発言が多くなる。

 ちょっと心配だなぁ。


「……大我さんって姓は鳴上でしたよね?」


 サラは彼の背中を見つめ、そう言う。


「うん、たしかそう言ってた気がする! それがどうかしたの?」


「鳴上家っていえば有名なハンターの一族ですよ。それに十傑第七席は彼のお兄さんですし、何か思うところがあるんでしょうかね……」


「そっか」


 どうやら彼は彼で抱えるものが多いらしい。

 踏み入っていいものか分からないし、今はそっとしておくしかないよね。


 それからボク達は大我くんの背を追って、6階層の攻略を再開した。


 朝10時頃から活動しているが、早いものでお昼すぎにはもう7階層への入口に近づいてきている。

 これだけ攻略があっという間なのも、スマホに送られたダンジョンのMAPがあるからこそだけど。


「おっ! 2人とも! あの階段じゃねーか? 行こうぜ!」


 7階層へ下る階段が見えたので、大我くんは元気に駆け出して行った。


「あれ、でもあそこスタッフさんがいますよ?」


 そこには初めルール説明をしてくれたロベールとやらの護衛ハンター、飛田さんと言ったっけ……その人が立っている。

 けどいつもは階層終わり付近にスタッフがいることなんてなかったけど。


 ボク達3人がその場に到着すると、


「君たち。実はこの先、今は通ることができないんだ」


 彼はそう言い放った。

 ボクが受けた印象の通り、この先は通れないことになっているらしい。


「いやいや、そんなのズルいっす!! 先に行った人達がいるでしょーよ!」


「スマホの配信画面をみてくれ……。まぁヤバいことになってるから」


 ボク達3人はなんのことか分からず、3人お互い視線を交わし合い、各自スマホを開く。


 そこに映るのは、常にトップを走っていた受験者達とそれに立ちはだかる謎の蜘蛛女だった。


"うわぁモンスターだけどめっちゃ人型じゃん"

"メス蜘蛛を擬人化したような感じ。うん……イけるな"

"↑何がだよwww"

"たしかに美人だけど、モンスターだって笑"

"7階層にあんなモンスターいるの?"

"いや、知らん。けど受験者じゃ歯がたってないな"

"早く護衛ハンター達来てやれって笑"

"今ネットで調べてるけどあんな奴いないんだがw"

"もしかして新種!?" 

"もしくはもっと下層のモンスター?"

"そんなやつがなんで7層にいんのよ笑"


 その7層に現れた蜘蛛女のことをボクは知っている。

 ここより遥か下層、60階層のボスモンスターだ。

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