第23話 女王蜘蛛ラクナ
7階層に現れたあの蜘蛛女。
ボクには見覚えがある。
たしか60階層のボスモンスター《女王蜘蛛ラクナ》。
昔、父さんに無理やり連れて行かれたんだ。
かくいうボクもその時は幼かったため、隠れて見ていただけ。
何年前かは分からないけど、あいつの強さは当時の父さんと互角に近かった気がする。
「この惨事じゃおそらく試験は中止。君達は先に帰還石で地上に戻っていてくれ。僕は今から7階層へ行って襲われている受験者を助けてから……」
「おい、ヤベェって!!」
飛田さんの言葉は大我くんの叫び声で遮られた。
あまりの大声にボク含めた全員が驚きで肩をビクッと震わせる。
「ど、どうしたの大我くん?」
すると彼はスマホ画面をボク達全員に見えるようかざしてくれた。
『へぇ〜これが帰還石って言うの? これでワタクシも地上へ行けるかしらっ?』
そこでは女王蜘蛛ラクナがAI撮影ドローンによりフォーカスされており、手にはハンターから奪ったらしき帰還石を手にしている。
それを持って嬉しそうにしているラクナの周りには血を流して倒れているハンター、それに立ち向かわんとするハンターが各々いた。
「うそ、だろ……?」
飛田さんはようやくの想いで振り絞った、そんなか細い声を出す。
色々驚くのも無理はないか。
そもそもあのモンスター喋っているし、帰還石を盗むほど知能も高い。
それに地上に対しての興味もあるように見える。
あんなのが外出たら絶対に大変だよね。
「ヤベェって! あんな化け物が外に出たら街一個、いやそれ以上の範囲に被害が及ぶんじゃねーか!? どうする? 俺らも助太刀するか?」
大我くんはボクとサラさんに目をやる。
外へ出るということは地上の人達が間違いなく襲われてしまう。
被害を受ける中にはもちろん玲奈だって。
そう考えると自ずとボクの考えは決まってくる。
「ボクはいくよ。サラは先に地上へ戻ってて?」
こんな試験と全く関係ないような戦い、サラが無理してくるようなものではない。
現に画面越しでラクナを見た彼女から表情は消え、体全体より僅かな震えが伝わってくるわけだし。
「おい、何を勝手に話を進めているんだ。君達は地上に帰れと言っただろ。3級にも満たないハンターは居ても邪魔になるだけだ!」
「いやいや、飛田さんよぉ。そんなこと言ってられないでしょ。今外に出たとして、あのモンスターが外に出てしまったらどのみち危険。たかが4級ハンターだとしても、ここはマンパワーで食い止めるのが最善じゃないっすかね?」
「うーん……」
彼は腕組みをして、少し考えを渋っているようだ。
「そうだよ。大我くんのいうとおりだと思う。それにボク、君らスタッフより強いから安心してよ」
彼らからは玲奈パパの護衛、秦ほどの強さはあまり感じられない。
特に武器を持った彼からは恐ろしく強い覇気を感じさせられたのだ。
それに比べればこの人たちはおそらく大したことないだろう。
「な……っ!?」
そう言うと彼は呆気に取られたような声を出した。
「ハハッ! 旦那の方が強ぇに違いねぇや。な、それより飛田さん。こんなところで悩んでる暇なくないですか? こうしている間にも仲間がやられていってると思うんですけど」
大我くんの一言が確信をついたのか、彼の目の色が変わって、
「そうだな。悪いが君達、力を貸してくれ!」
ボクと大我くんはお互い目を合わせ首を縦に振り、
「はい!」
「うん!」
各自返事をした。
「あ、あの……私も行きます……っ!」
サラは右拳の震えを抑えるため左手でギュッと包み込み、何度も頷いている。
「サラ、無理しなくていんだよ?」
「いいえ、私も大切な地上を守りたい。皆さんと気持ちは同じです。それに、自分が何もできなくて後悔だけはしたくないっ!」
彼女自身が決めたのならこれ以上は止められない。
それに危なくなったらボクが守ればいいだけだしね。
そしてここにいる皆、意見が一致したところでボク達4人は7階層へ向かった。
◇
「おい、なんだよこれ」
初めに声を上げたのは飛田さん。
ボク達全員、言うまでもなく同じ感情。
初めてきた場所だけど、そんなボクにも変わり果てた地なのだと分かる。
それくらい荒れ果ててしまっているのだ。
1階層から6階層ではもう少し山あり谷ありと凹凸があったり、いくつかの洞窟があったりとマップがなければ迷ってしまうほどだった。
しかしここはどうだ、凹凸があるのは変わりないが、この階層にある大きな山や遺跡などが潰されることで視界を遮るものがなくなり、8階層への階段が露出してしまっている。
何がそうしたのかというのは、この階層を見渡せば一目瞭然。
蜘蛛の糸でできた強固な大槍がこの階全体の地面に百千と突き刺さっているのだから。
おそらく……いや確実にあの蜘蛛女が大槍を降らしたに違いない。
7階層で先行して戦ってくれていたハンター達に関して、言うまでもなく大槍の餌食になっている。
致命傷を避けたもの、みるも無惨なもの、重症度はそれぞれだが、現状自身の力で立ち上がれそうな人はいない。
「あら〜また別の人間? ちょうどよかったわ。この帰還石、使い方教えてくれないかしら? それを聞く前に人間達を串刺しにしてしまって困っていたところなのよ〜っ!」
60階層のボスモンスター《女王蜘蛛ラクナ》がボク達に気付き、満面の笑みで声をかけてきたのだ。
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