未踏のダンジョンで育ったボクが父から引き継いだ竜の力を使って最強のハンターを目指す話～ハンター養成学校の令嬢を助けた姿が配信された結果、地上でシルバー様と崇められることになった～

第54話 残酷な命令

　まずレッドの咆哮。

　流暢に言葉を話していた彼が放つのは完全にモンスターのそれだ。

　それによって入口からさらに竜人族の兵がやってくる。

　おかげで完全に逃げ道を防がれた。

　もっとも、初めから逃げる気なんて毛頭ないけど。

「レッド、悪いが、お前の部下は俺が叩き斬っていくぞ」

　秦は宣言通り、順に緑の竜人族を斬り裂いていく。

　刃に討たれる度、ヤツらの短い悲鳴がこの空間に飛び交う。

「はははははっ！！！　なんぼ撃ってもいいんやろ？　こりゃ夢見心地やでぇ！」

　一方、少し離れたところでは峰が宙で何回転もしながらガンブレードで一体ずつ、確実に狙い撃っている。

　その表情、アイスワイバーンと戦った時に見せた狂気さと同じ。

　彼は心の底から戦いが……いや、戦いとも思っていない、ただの遊びみたいな感覚なのだろうか。

　ボクが地上で出会った人間の中でロベールに匹敵するくらいのイカれ具合といってもいい。

　気は進まないけど、ボクも戦いに参加するしかない。

　そう思ってこのガントレットでひたすら物理攻撃をかましていく。

　そんな時、峰の方から銃声が突然鳴り止んだ。

　さっきまであんなひっきりなしに響いてたのに。

　ボクがふとその方へ目をやると、峰とレッドがお互いの刃で鍔迫り合っている。

　はたから見ると、力が拮抗しているように感じた。

「くっそ！ なんやコイツ、その辺の1級ハンターより強いんとちゃうか？」

　峰とレッドは何度も刃を重ね合っている。

　東條家の護衛ハンターとしては秦に次ぐ実力と聞いていたけど、その峰が苦戦するということは、レッドもコールもかなりの実力なのだろう。

「よそ見している暇はないぞ！」

　背後から突如聞こえる無機質な声、コール……っ！

　（リュウ、後方からコールの拳だ）

　ボクは即座に振り向き、振り下ろされた拳をガントレットで防ぐ。

「ぐ……っ！」

　その威力、普通のゴーレムの数倍はある。

　さらには人型という点もあって動きも人並み……いや、それ以上。

　もしかしたら秦に近いレベルの動きをしている。

　そんなコールが何度もボクに拳を振るう。

　速くて一撃が重たい。

　だけどなんとかガントレットを相手の拳に合わせて威力を相殺している。

「コール、お願い！　玲奈が食べられちゃうんだ！　そこを退いて！」

「ダメだ！　この先は通さない！」

　ボクは戦いつつも、戦わないで済むようにコールを説得し始めた。

「どうしてそこまでするの？」

「頼政様を、守りたいからだ」

「仮に玲奈を食べたとして、その後にその頼政様が食べられない保証は？　そんな素直な相手なの、ドラゴンって！」

　そうコールに問うと、一瞬動きが止まったのでその隙にボクはコールより高く飛び、頭上から拳を振り下ろす。

　守るだけで戦えるほど甘い相手じゃない、対峙してみてよく分かった。

　ドンッ――

　コールは地面に勢いよく叩きつけられ、地面に這いつくばった。

「分からない」

　顔を伏せたままで問いの答えが返ってきた。

「何が分からない？」

「何が正しいのかが、分からない、のだ」

　そう答えながらゆっくりと膝をつき、再びコールは立ち上がる。

「我々はダンジョンで生まれ、ダンジョンで育った。本来は人間と対峙する存在。しかし頼政様は我々を配下として、仲間として迎えてくださった。それに自分に関しては名前までもらい、こうやって人間とコミュニケーションが取れるようにもなったのだ。ここまでしてくださったのは紛れもない頼政様の意思によるもの。それをどうして裏切れようか？　自分は力をもらってから、居場所をもらってから、言葉をもらってからはどんなことがあっても頼政様の力となることを決めたのだ。それだけは揺るがない。だが行動として、何が正しいのかは分からない。フロイゼが他の人間を差し出すことで頼政様を諦めてくれるかも分からない。頼政様への忠誠心以外、何も分からないのだ」

　ようやくコールから戦意が消える。

　話をするならここかもしれない。

「じゃあ一緒に考えようよ！　玲奈も頼政様も救える方法！」

「そんな、方法があるのか？」

「ある……というかそんなのさ、一つじゃない？」

「一つ、とは？」

「フロイゼを倒す。それ一択でしょ？」

　ボクがそう言うと、コールは目を逸らして少し俯く。

「しかし、今までできなかったことだ。それを今更成し遂げようなど……」

「ボク達がいるじゃないか。コールなら知ってるでしょ？　ボクや秦、峰の実力を。一緒に戦ったんだし」

「実力、か。そうだな。お前達は皆強い。リュウ、フロイゼのいる上層部にはどれだけの数の敵がいるか分からない。それでも我々と迎えるか？」

　コールは頭を上げ、そうボクに問うてきた。

　それも強く鋭い覚悟を持った瞳で。

「そんなの当たり前じゃないか！　それより君達こそ頼むよ！　無理やり玲奈を拐ったんだから、責任持って戦ってね？」

「分かっている。それは、その知らなかったとはいえ、我々が全面的に悪い。だから全力で戦わせてくれ」

　ボクが恨みがましい口調でそう言うと、少し申し訳なさそうにコールは謝罪を述べてきた。

　そして彼はそのまま王の頼政へと体を向け、語り出す。

「頼政様、自分から提案です」

「なんだ、申してみよ」

　頼政は玉座に座ったまま、視線のみをコールへ向けた。

　そして頼政の一言により全体の戦いは一度に止まる。

「今、これだけの戦力が揃っているのです。はんたーにも協力してもらってフロイゼを……」

「ならぬ！　ならぬのだ！」

　コールの提案を食い気味に頼政は拒否した。

「頼政様、どうしてです？」

「いいから人間の生贄を出すのだ！　そうすればフロイゼも気が済んで我を喰べぬはず！　コールは我が喰べられても良いということなのか？」

　コールは首を大きく横に振る。

「そうではないのです。頼政様、フロイゼはここにいる人間を全て差し出しても、頼政様を見逃すかは分かりません！　それだけアイツは自分勝手なヤツなのですから！」

「分かった、もういい」

　頼政は目を瞑り、大きく嘆息を吐いた。

「頼政様？」

「レッド、コールはたった今から裏切り者だ。はんたー共々狩りつくせ」

　目をガッと大きく見開いた頼政から下ったのは、彼らにとって残酷なほど冷たい命令だった。

--------------------

こんばんわ！

甲賀流です‼️

非常に申し訳ないのですが、ストックが切れてしまったのでしばらく掲載が難しいと思われます💦

話が行き詰まっているということも含めなので、少しの間、期間を置かせてください🙇

また連載させて頂くタイミングでは、近況ノートでお知らせすると思うのでよろしければ作者フォローをしてお待ち頂けたらとおもいますm(_ _)m

勝手な理由、申し訳ありません😂