第51話 35階層の街『スノーフォール』
「玲奈っ!」
ボクは急いで彼女の元へ駆けつけようとする。
「お嬢様っ!!」
しかし秦がそれよりも速く、そして迅速に玲奈を抱き抱える。
その姿、護衛に相応しい、そう思わせるほどにスマートな動きだった。
「あぁ……ごめんね、秦。ちょっと疲れがたまってたみたい」
気は失ってないようだ。
けどここまでずっと休むことなく耐氷魔法を使ってくれていたんだし、こうなっても無理はないよね。
「お嬢様っ! すみません。俺がついていながら……っ!」
「ううん、気にしないで。ちょっと足がよろめいただけだからさ」
玲奈は秦に笑みを向け、自身の足を再び地につけた。
「玲奈ちゃん大丈夫? 急に倒れそうになったから僕ビックリしたわぁ」
「峰くん、心配ありがとう。大丈夫だよ」
「にしてもさすが秦先輩。動きのキレ抜群やったなぁ」
「峰、お前はもう少ししっかり動け」
感心する峰に対して、秦は淡々とそう言う。
玲奈が倒れそうになる時、秦はものすごい反応速度で彼女を庇っていたけど、峰はその時ピクリとも動かなかった。
それに気づいてからも大した動揺もせず、秦に感心するだけと本当に護衛ハンターなのかと疑問に思ってしまう。
「ん? どうしたん、リュウくん?」
どうやら峰に目を向けすぎていたらしい。
「ううん、何もないよ」
そう答えるしかあるまい。
「ちょうど、兵達がやってきたようだ」
コールの視線の先には、その兵とやらが横一列に立ち並んでいる。
あれは、人……じゃない、竜、いやどっちだろう。
人型のフォルムだけど見た目は竜、もしかしてさっきコールが言ってた竜人族というやつか?
みんな緑色の鱗に覆われているが、真ん中の一体だけ赤色と非常に目立っている。
そして皆、全身を鉄鎧で武装して銃を向けてきた。
「コールさん、事情を……っ!」
赤色の竜人族がコールに呼びかける。
「レッド、この人達ははんたーだ!」
「な……っ!? 王が求めていたものか。皆、銃を下ろせ」
レッドというあの赤い竜人族の一言で全ての銃口が下を向く。
案外簡単な説得だった。
「よかった。納得してもらえたんだね」
「あぁ、はんたーは貴重らしいからな」
そういえばコールと出会った時、ボク達に向かって、やっと巡り会えたと言っていた。
結局その意図は分からずじまいだ。
「コール、その俺達が貴重とはどういう意味だ?」
ボクでさえ気になった単語を秦が逃すわけが無い。
彼はコールに問いかけた。
「王がお望みだからだ。なんでもこの街を救ってくれるのははんたーしかいない、と言っていた。これ以上我々は知らない。直接王から聞いてくれ」
ということらしいので、ボク達は兵達の誘導で街へと案内してもらった。
◇
35階層に存在する街『スノーフォール』
この兵達が出てきたハッチが未だに開いていたのでボク達はそこから入国していく。
幸いコールやレッド率いる竜人族兵のおかげで特段手続きとかもなく入ることができた。
彼らは街の警備に戻るようで、一旦お別れとなった。
街並みはなんというか、立派。
それこそ地上と遜色ないレベルだ。
繁華街には食べ物や武器、雑貨など売っていたがそれを販売しているのは人間だけ。
だけど人が狼を普通に連れていたり、オークや竜人族が人の荷運びなどを手伝ったりしている。
地上では見ない光景だ。
それに人の服装も地上とは少し違う。
なんだかヒラヒラしたものを着ている。
そして街の中心にある城のようなもの。
どうやらあそこに王がいるらしい。
「この入口入ったら王がおるんか? 僕お城なんか入るん初めてやからテンション上がるわ!」
峰は終始頬を緩ませて、明らかに上機嫌だ。
「たしかに、私も一回はお城に住んでみたいって思ってたからなんかソワソワするなぁ……」
「お嬢様、実際に住むわけではありませんよ」
「な……っ! そ、そんなの分かってますぅー! 女の子みんな一度は憧れるもんなのっ! 秦も真面目なだけじゃ女の子にモテないよ?」
玲奈は秦の指摘に顔を赤くし、そう言い返す。
「し、失礼しました」
「ぷ……っ! 秦が玲奈に怒られてる……」
普段真面目な秦がお叱りを受ける絵面に、つい吹き出してしまった。
「くく……っ! リュウくん、わろたあかんて……秦先輩プライド高いねんから……ナハハハッ!」
峰に限っては吹き出すだけでなく、大笑いをかましている。
「く……っ! お前ら、覚えておけよ」
秦は殺意を持った睨みをきかしてきた。
「みんな、入らないのか?」
そんな会話を繰り広げるボク達はコールの呼びかけによってようやく中に入った。
場内は広く、部屋が無数にあって迷いそうになったが、もちろんボク達はコールの案内があるからスムーズに進んでいく。
そして他の部屋とは明らかに異なる作りの大扉。
「この先に王がいる。準備はいいか?」
コールの問いかけに各々が返事を返し、その扉が開かれた。
縦に長く、奥に広い部屋。
それこそさっきの兵が100体、200体ほどは隊列が組めそうなくらいの広さだ。
その最奥の立派な椅子に腰をかけている男の人、おそらくあれが王とやらなのだろう。
あれが王、外の人の服装をより豪華にした、という風なものを身にまとっている。
ボク達が王の元へ少しずつ近づいていくと、
「ほぉーよぅきたな、人間。って我も人間だがのぉ」
王はカッハッハと高笑いしている。
話し方も変だ。
峰と同じ方言というやつなのかな?
「頼政様、はんたーを連れてまいりましたっ!」
コールが堅い言葉を放ち、片膝をつく。
あれが王に対する適切な姿勢というやつらしい。
コールに遅れて秦、玲奈も倣い、もう一タイミング遅れて峰が同じようにする。
それに続いてボクも真似しておいた。
「おーよいよい、そんなかしこまらんでも。頭をあげよ、同じ人間同士仲良くしようぞ。といっても生まれた時代は違うようだがのぉ」
王のその言葉にボク達は再び立ち上がる。
「王よ、不躾な質問かとは思いますが、時代とはどういった意味でしょうか? まさか今着ておられる黒の強装束と関係が?」
強装束?
あのヒラヒラしたのはそういう名前なのか。
たしかに変わったものだと思っていた。
「ほぉ。この強装束を知っておるか。やはりお主らの身なりを見て予想はしていたが、どうやら我と同じ永保元年の人間ではなさそうだな」
「やはり……っ! 永保ということはこのダンジョン名と同じ1081年辺りか」
「うそ……っ!? 平安の人ってこと!?」
秦と玲奈は声を荒らげ、峰はへぇ〜、と興味深そうに口角を上げた。
皆、それぞれの感情を抱いているようだ。
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