第32話 試験終了、そして…



 今にも泣き出しそうな顔をしているサラ。

 少し話が長くなるのか、はたまた疲弊したためか彼女はその場に座り込む。

 なのでボクも彼女に合わせて隣に並んだ。


 しばらく俯いていたサラは少し経ってから顔を上げ、口を開いた。


「ごめんなさい……リュウさん」


 彼女の第一声。

 それは謝罪だった。


「どうしてサラが謝るの?」


 彼女の謝る理由が分からなかった。

 ボクがそう質問すると、


「リュウさんを引き止めるような大切な話なんてないんです。ただ……怖くて。怖くて仕方なかっただけで……。あの女王蜘蛛と小蜘蛛だけで充分怖かった。にも関わらず友人が目の前で亡くなって、あろうことかロベール様に目をつけられたんですよ? これで怖くないわけがない……。私はこれからどうすれば……」


 サラは再び俯いてしまった。


 彼女が恐怖心を抱くのは当たり前だ。

 ハンターと言えどサラは普通の女の子。

 それに3級ハンター試験を受けるということは、ハンターになって日も浅いのだろう。

 そんな子が立て続けにトラブルに遭う、トラウマになるには充分すぎる内容だ。

 こういう時、ボクはなんて言葉をかけたらいいのかな。

 少し考えていると、


「なんて……ごめんなさいっ! 暗い話をしてしまって。話を聞いてもらったら少しスッキリしました。私はもう大丈夫です。地上に戻りましょ?」


 サラはよいしょっとその場を立ち上がり、ボクに手を伸ばす。


 ボクはその手を取って立ち上がった後、


「サラ、大丈夫だよ。ボクが強いの知ってるでしょ? ボクがそばにいる限り、君の心配してることは何も起きない。絶対に守るから安心してよ」


 彼女へ思っていることをしっかり伝えた。

 これが正解だったかどうか分からない。


 しかし彼女はボクの言葉を聞いて、


「やっぱりシルバー様は私のヒーローだ……っ!」

 

 そう言って涙混じりの笑顔を浮かべていた。


 ちょっとは安心してくれたかな?

 そうだと嬉しい。


 ボクがサラに言った言葉は慰めではない。

 本気で思っていることだ。

 これ以上友達を傷つけさせない。


 そしてロベールをぶっ飛ばす。

 これがボクの新しく出来た地上での目的。


 そう決意したボクはサラと共に帰還石を使って地上へ戻ったのだった。



 ◇



 帰還石にて転移した先、それは見覚えのある場所だった。


 ここは間違いなく地上。

 それに目の前にはダンジョン『零』の入り口。

 そう、ボク達は元の場所まで戻ってきたのだ。


 もうすでに他の受験者や飛田さん含めた他の護衛ハンター、アルバイトスタッフさんなんかも揃っていた。

 だけど明らかに人数が減っている。

 初めに比べると1/3くらいの数じゃないかな。

 そう思うくらいには少ない。


「旦那ァ、サラさんっ!! 戻ってきたんだな」


 一足先に戻った大我くんが一声かけてきた。


「大我くんっ! 今どんな状況なの?」


「さぁな。俺もさっき戻ったところだし分かんねぇ! 今、飛田さん達とハンター協会の人達が話しているんだが、今回の試験はここまでの結果で合否を決めるか、もしくは再試験になる流れになりそうだぞ」


 あぁ、飛田さんと話をしているスーツの人達がハンター協会の人か。


「ハンター協会って何するところなの?」


「何するって……ハンターの事件とかダンジョンのなんやらとか色んなことをするところだ。な、サラさん!」


 大我くんは目を泳がせながらサラへ話題を投げる。


「ええっ! 私……っ!? えっと、そうですね……ハンター協会というのは簡単に言ってしまえば、ハンターの世界を守る組織のことです。力あるものが人々を傷つけないための法律を作ったり、それに逆らった人を罰したり。そういうのがないと、強い人がこの世界を征服しちゃいますよね? そうならないために協会があるんです。他にもハンター試験の合格者を決めたり、ダンジョンに関する依頼をハンターへ紹介してくれたりもします」


 急なご指名に一瞬たじろぎながらも、彼女はスラスラと説明してくれた。


 つまるところハンターに関する何でも屋さんみたいなものかな?


 そんなことを思っているとスーッとAIドローンがこの場を飛び回り始める。


『皆様、3級ハンター試験お疲れ様でした!』


 スーツを着たおじさんがマイク越しから話を始めた。

 この会話を撮影して配信するってことなのかな?


"おい、どんだけ配信止めてんだよ"

"こちとら暇すぎて勉強なんかしちゃったぞ"

"↑いや、ええことやんw"

"てかもう試験終わってんじゃん。なんの配信?"

"ハンター試験の結果発表とか?"

"こんな異例の事態に? たしか中止になったんじゃないの?"

"待て、シルバーいるぞ! 一緒に戦ってた奴らも!"

"生き残ったのか! あの場から逃げられただけでもすげーよ"


『えー今回の3級ハンター試験、突如現れた未知のダンジョンモンスターの乱入により中断させて頂きました。我々ハンター協会としてはしばらくダンジョン『零』へは立ち入り禁止、これから細かい調査を行っていく予定です。尚、3級ハンター試験に関してですが、後日再試験という形をとらせてもらおうと考えております』


 再試験か。

 一生懸命頑張ったんだけどなぁ。

 また3級ハンターへの道が遠くなってしまった。


「まぁこんなことがあったんだし、仕方ねぇけどよ。俺ら命懸けだったんだけどなぁ」


 大我くんがそう言うのも無理ないよね。

 ボク達何度も死にそうな目に遭ったわけだし。


「まじか……良いところまで行ってたんだけどなぁ」

「よっしゃ、もっかいチャンスがもらえるぞ」


 一方周りの受験者達は落ち込んでいるもの、喜んでいるものと両極端に分かれていた。


"再試験はさすがに草"

"頑張ってた人達がかわいそう"

"でもたしかに合格者を選ぶ側もこんなことあったら選ぶの大変だって"


『しかし……』


 ハンター協会の人の話はまだ続いており、


『これでは今回の試験で一定の評価を残したものは報われません。そこでっ! 本試験が中断される前の実績で、すでに合格の基準を満たしたもののみは、この場で合格を言い渡しますっ!』


「「「おおおっ!!」」」


 受験者から歓声が巻き起こる。


 これなら合格の可能性は充分にあるぞ。

 ボク達3人はお互い高まった期待を目配せし合い、発表を楽しみに待つ。


"おっ!?"

"おおっ!?"

"おおおっ!?"

"誰だ、受かるやつ"

"わ く わ く ! !" 


『では発表しますっ!』


 受験者全員が息を呑み、その後、3人のハンターの名が挙がったのだった。

  

 

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