第47話 攻略開始



 配信が開始されてさっそくコメントが流れ始めた。

 その膨大な量を見るに、みんな盛り上がっているといくことだろう。


「さぁ〜始まりました、ハンター学校チャンネル! 普段は学校のPRしか流さんらしいけど、やっぱりダンジョン攻略するところとか見た方がみんなおもろいよなぁ?」


 峰がAI撮影ドローンに手を振りながらそう言う。


"誰か知らんが、そのとーり!"

"関西弁に長い前髪……なんか見たことあるような"

"いや、知らんな"

"知る人ぞ知る的な?"

"まぁ東條家の護衛ハンターなら強いんじゃない?"

"はよ戦えよー"

"こんなのさっさと踏破しちゃえ"

"最新の階層なんだし、慎重に行った方がいいだろ"

"てかレナちゃん見に来たんだがどこよ"

"カメラの端にいるよ、シルバーと"

"またシルバーか! ラブラブは健在だな"


「ほら玲奈ちゃ〜ん、視聴者さんが呼んでるで〜。君がこの中じゃ一番のインフルエンサーなんやし、進行おねがいしますわ」


「私!? ……ってたしかにメンツから考えたらそうか」


 玲奈はここにいる顔ぶれに一頻り視線をやった後、大きくため息をつき、そう言った。

 そしてそのまま言葉を続ける。


「はい、皆さん。今日はわざわざこのハンター学校チャンネルまでお越し頂きありがとうございます! えっと、もうすでに大勢の方々が……って70万人!? あはは、個人チャンネルの同接じゃこの半分もいかないのに……」


"レナちゃん気にするな! 君のチャンネルは充分スゴい"

"そうだよ、レナちゃんは大人気Dチューバーだ!"

"てか70万も集まる生配信ってみたことないんだが"

"女性ハンタートップレベルで人気のレナちゃんで20万、30万人とかだもんな"

"レナ、秦、シルバーが集まればこうなるのか"


「レナ、秦、シルバー……なんで僕入ってへんねん! ってまぁ僕そんな有名ちゃうから知らんのも当然か」


「ねぇねぇ峰、君はなんでずっと変な話し方なの?」


 レナも秦もコメントでも誰も気にしていないので、自分で聞くことにした。


「な……っ!? 変……!? 実は僕の話し方ってずっと変やったん!? みんな気ぃ使って黙っててくれただけとか? なぁ玲奈ちゃんそうなん?」


 峰はその場で膝から崩れ落ち、四つん這いになったと思えば玲奈を見つめ、問い始めた。


「峰くん、そんなことないと思うよ? 至って普通の関西弁だって。リュウくん、あれは話し方の一つで関西弁って言うんだよ」


「あ、こういう話し方なんだね。謎が解けてスッキリしたよ」


 話し方にも種類があるのか。

 ダンジョンのモンスターでも個体が違うければ鳴き声も違う。

 そんな感じなのかな。


「普通、か。おもろくもなかった。これやったら関西弁の意味ないやん……」


 四つん這いのまま峰は何か嘆いている。

 ボクには言ってる意味が分からないけど。


"さすがシルバーダンジョン生まれダンジョン育ちはいうことが違う"

"シルバーってダンジョンで生まれたの?"

"いや、知らん"

"知らんのかいww"


「お前らが遊んでいるうちに敵が来たぞっ!」 すごい数だ……っ!」


「何あれ……」


「何ってどうみてもフロストゴーレムやろ」


 怯えた玲奈の言葉に峰がそう返す。


「そ、そうじゃなくてあの数だよ……あんなの見たことない……」


 そのフロストゴーレムとの距離、およそ数百メートルは離れているだろう。

 そして彼女が怯えている理由はその個体数にある。


 奴らは横一列に数十体並び、さらには統率力を表しているのか、足取りを揃えていた。

 地面はわずかに雪が積もっており、普通なら足音は限りなく小さくなるはず。

 しかし数十体が揃った足並みはこの距離にまで轟音を響かせる。


"フロストゴーレムってもっと浅い層にもいるよな?"

"群れで襲ってくることもあるが、あんな足並み揃えることはないぞ"

"まるで人間の軍隊みたいだ"

"浅層のやつと同じならあんだけの数いても余裕だろ"

"なんせメンバーにシルバーと秦いるからな"


「フロストゴーレムってたしか3級ハンター試験の時にも戦ったような」


 そうだ、あの時は6層で大我くんとサラ、3人で協力して倒したっけ。

 たしか大した強さじゃなかったと思う。


「そう、あんなやつどのダンジョンにも存在するような雑魚だ。ただあんなに人間じみた歩き方はしないはず」


「まぁいくら群れて人間の真似事しても所詮は雑魚、僕とリュウくんで蹴散らしてくるわ」


 峰はぶんぶんと腕を回してやる気満々といった様子。


「秦、さくっと倒してこようか?」


 あの時戦ったゴーレム程度なら例え軍勢だろうとすぐに倒せてしまうだろう。

 だけど今は秦が戦いの指揮をとっている。

 指示に従うべきだ。


「待て、二人とも! あのゴーレム達、戦意がないようにも見える。少し様子を見るぞ」


「まぁ……たしかになんか違和感あるし、秦先輩にとりあえずは賛成や」


 そう言って峰も引き抜いた長刀を再び鞘に仕舞う。


 そうしている間にもフロストゴーレムとボク達の間は徐々に縮まり、奴らの姿、形、大きさを視認できるほどの距離となった。


 ゴーレムの大きさはあの時ダンジョンで戦ったのと同様、3メートルほどの背丈にボク達の何回りも大きな肉体を携えている。

 しかしよく見ると、列の真ん中に一体だけ異なるタイプがいた。

 見た目は間違いなくフロストゴーレム、しかし大きさ、形がまるでほとんど人間のような形状をしたヤツがいる。


 そしてその人間型が一歩前に出てきた。


「おまえら、なにものだ?」


 そいつはボク達に言葉を放ったのである。

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