第27話 影響力
フンフンフン♪
ヒュパッ
「おぉ!凄く良く切れる!」
「これは食感が良いぞ♪ 後でトマトも切ってみよう」
スパッ
「おぉぉ!トマトの向こうが透けて見える!素晴らしい!」
台所で楽しげに夕飯の支度をしている仁を後に、武田桜と鹿島実が居間で真剣な顔で話し合いをしている。
「アメリカが本格的に動いたわ、今度は特殊部隊の最新鋭機よ」
「まったく、蚊虫みたいに寄って来るねぇ」
仁がシャバで働くようになったら途端に色々な組織から手を出されるようになった、これも私が動いてしまったのがいけなかったのかと桜が難しい顔で黙る。
「もともとこの場所には何人も諜報員が潜ってるから、仁さんの事がバレるのは時間の問題だったわよ、転移して来た場所が悪かったわね」
「あんたのとこも、その一匹だよ」
「てへ♪」
実が舌を出して頭をコツンと叩く。
「ババあにそんなあざとさは通じないよ」
トライデントがこの街の各地に仕込んでるカメラ映像で昨日の戦闘をタブレットに映して二人で覗き込む。
松代城趾公園でアメリカ最新鋭の虫型パワードスーツがシュワシュワと蒸発している。このカメラの位置、門の上にも設置してあるのか。
「凄ぉ!チタン合金が蒸発って何千度なのよ」
「仁はあまり家じゃ魔法を使わないから油断してたが、これはちと危ないな」
「ちょっとじゃすまないわよ!」
「「むむむ」」
ガラッ
「ご飯出来ましたよ、持って来ますね」
「「は~い」」
横須賀港に停泊するニミッツ級航空母艦のモニタールーム。
「素晴らしい、これが武田仁のサイキックか、実に素晴らしい」
ロシアのTー14の装甲すら貫くバルカン砲をものともしないバリア、火災現場でも動ける耐久性を持つ装甲が溶け出すほどの超高温、20トンの荷重にも耐えられるチタン製の脚をいとも簡単にへし折る不可思議なパワー、一体彼の中にどれほどの力が秘められているんだ。
「クックックッ、これは大統領に進言しなくてはならないな、あの力は我がアメリカが絶対に保有するべきだ」
薄暗いモニター室で薄笑いを浮かべ何度も映像を繰り返す男は、すでに狂気的に笑う。
唐津さんがどこかの野良の虫ロボットに襲われてから、今までより精度の高い探知魔法を組む事に私は没頭していた、生徒が襲われた以上は私も色々と考えを変えていくべきだろう。ただ誰が味方で誰が敵かの判断が難しい。
そんな矢先、私は何故か武田邸の1室で
「で、なんでその探知魔法とやらが透視魔法になるのよ」
部屋で探知魔法を使っていたら私の部屋を訪ねて来た実さんが服を着ていなかった、実際は着ていたんだが見事に透けて見えていた、その時の私には、男の部屋に裸で訪ねて来る痴女に思えて聞いてしまったのだ。
「裸族なのかと……………いや、そんなつもりは無かったんだが」
実さんにジト目で睨んでくる。
「で、感想は?」
「へっ?」
「私の裸の感想を聞いてるの、どお、ムラムラした?」
「ああ、もう少しご飯を食べて肉をつけた方がいいと思う、痩せ過ぎだ」
パシーーーン!
スリッパで頭を思いっきり叩かれた、何故?
透視魔法は女性に対しては使用を禁止にされた、いや、そんな使い方は考えて無かったんだが。
こっちの世界に来てから常々思っているのだが、こっちの女性ってちょっと痩せ過ぎじゃないかな、プラーナではこんなに痩せてちゃ体力がもたないぞ。
愛車を漕いで学校に行けば校門の所で唐津さんが待っていた。
「おっ、今日は無事に学校に来れましたね」
「はい、先日は仁先生にもご迷惑をかけたみたいですみませんでした」
ペコリと頭を下げる唐津さん、うんうん、良い子だねぇ。
ん、探知魔法に昨日マーキングした警察の人の反応がある、この街に住んでるのかな、今度見かけたら私もちゃんとお礼を言わないといけないな。
唐津さんと別れ駐輪場まで行くと、今度は生徒会長の東堂さんが私を睨みながら立っていた。この人、いつも機嫌悪そうだな、カルシウムが足らないんじゃないか?
「仁、この前の戦闘の件、東堂家にも伝わってきたわ、あんたこの学校の生徒を巻き込んだんですって」ギロリ
「へ、いや、唐津さんは大きな虫に襲われて、え?」
「虫?私はアメリカの特殊部隊って聞いてるけど。あんたは今や世界中から狙われているんだから、ここの生徒を巻き込む可能性があるなら家に篭ってじっとしてなさいよ!」
東堂にしてみれば仁が赴任して来てからあまりにも危険な事が増えている、この前のトイレ爆破のテロリスト、それに武器商人や暗殺者、桜に頼まれているとはいえ一介の高校生陰陽師にはいささか荷が重くなってきていた。
「そんな、あの虫は私を狙って…。しかし私はサクラさんに恩を返す為にこの学校に…」
「じゃあ、あんたはこの学校の生徒全員を守れるの?あんたがどれほど魔法を使えるか知らないけど流石に無理でしょ」
「………この学校の敷地くらいなら私の結界で覆えますが、それじゃ駄目でしょうか?」
「はぁ?えっ…………マジで、敷地全体?」
「はい、こんな感じですね」
仁が自分の胸の前に両手をかざすと、虹色に輝く光の球が現れる。
ジジジジジジジジ
「な、な、なによそれ…」
初めて仁の魔法を間近で見た東堂は、そのあまりにも常識外れなエネルギーを放つ光球に声を震わせる事しか出来ない。
仁はその光球を勢いよく上空に投げ飛ばす、光球が十分な高度に達した所で仁は掲げた両手の平を握りしめた。
「ディsjnfdinfhotnjfc;l」
パァーーーーーーン
仁がプラーナの言葉で詠唱すると光球の光が弾け飛ぶ、その光は学校全体に降り注いだ。
東堂にはこの学校が魔力に覆われた事は感じることが出来た。
「これで私に敵意を持つ物体はすぐに感知出来ます、生徒が危険な場合はすぐに駆けつけると言う事でどうでしょう」
「あ、ま、まぁ、今日の所はそれでいいわよ!でもこ、これぐらいで調子にのるんじゃないわよ、覚えておきなさいよ!!」
フラフラとした足取りで去って行く東堂に仁は首を傾げる、何を覚えておけばいいのかさっぱりわからなかった。
バタン
「信じられない、信じられない、信じられない、信じられない、信じられない、信じられない、信じられない、信じられない、信じられない」
東堂は校舎に戻ると誰もいないトイレに飛び込んで頭を抱える。
「何よあれ、あんな力、存在していいわけがない、まさに怪物。超危険だわ、でもあれに対抗出来る存在なんて、武田の本家でも…」
陰陽師として仁の魔力をある程度正確に感じることが出来てしまっただけに、さきほど間近で見た広域魔法は東堂にとってとてもショックだった、あれほど膨大な魔力を使いながら全然疲れた様子も無い、まるで手品でも披露するように簡単に魔力を使いすぎる。
しかも東堂には仁の全力をまるで想像出来ないのだ、怪物を前にした人間の絶望感。
「こんな自分に一体何が」
便座の上で1人頭を抱え悶える東堂だった。もう授業始まるぞ。
今回のアメリカ軍の襲撃、地球上の最先端の兵器がまるで通じない事実はあらゆる方面に衝撃を与えた、それは仁本人が望もうと望まざると関係なく巻き込まれる状態にさらされる事を意味していた。
「はい、では教科書、32ページを開いてくださいね」
「「「は〜い♪」」」
仁本人にはそれほどの危機感は無いが。
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