第14話 トイレの神様
コツコツコツ、シーーーン
「良し、2階は異常なし」
宿直当番で今夜は学校で過ごしている、校内をライト片手に見廻りしているのだが、別に不審者なんかいるはずもなく静かなものである。
階段を登り3階の校舎へ。
サワッ
「あれ?風が」
3階に上がると頬に風を感じた、北側の窓が一つ閉め忘れていたのか開いている、開いてた窓から顔を出して外を見るが別に何もなかった、まぁ、ここは3階だし単純な閉め忘れだろう。
パタン、カチャリ
窓に鍵をしめて見廻りを再開、そのまま北側の端のA組から順に教室を見て回る。
「うん、大丈夫ですね」
D組まで回ったが異常なし、後はトイレだけだな。
トイレのドアに手をかけた瞬間ゾクリと嫌な感じがした、思わず左手に魔力を込めて戦闘態勢をとる。
カララ
ゆっくりドアを開けて中をライトで照らすがそこには誰もいる気配はない、女子校のトイレだけに個室が並んでいた。
一応個室の中も見ておくかと入口の電気のスイッチを入れる、パッと電気がついて明るくなった。
それがいけなかった。
「…………」
照明に照らされた視線の先、通路の真ん中の床にそいつは居た。
カチカチカチ
長く伸びた後ろ足、丸みを帯びた胴体、ユラユラと蠢く触覚。
「う、うわぁぁーーーーーーーっ!!」
私は躊躇なく左手に溜めた魔力を解き放った、重力系の魔法で奴を空間ごと圧縮、密度を増したところに続けて雷撃を飛ばす、絶対に逃さない!跡形も残すものか!
ドグワァーーーーーーーーーーーーッン!!ガラガラガラ、パラパラ
「…あ」
まるで爆弾でも爆発した後のように壁がガラガラ崩れ落ち、蛇口を失った水道からは水が噴き出していた。
奴が現れた事に動転して思わず魔法を使ってしまった、やばい、どう考えてもやばい、どうする、どうしたらいい。
「しかし奴がいきなり現れたのがいけないんじゃないか、私は正当防衛だよな」(明らかに過剰防衛)
トイレの悪魔、便所コウロギ。別名をカマドウマ、仁はこの虫がとてつもなく苦手なのだ、前の世界で幼少の頃これに似た魔物(大きさは人間より大きい)に食われそうになったトラウマが刺激され過剰なまでに反応してしまうのだ。武田邸でも一度遭遇したが、その時は桜が素早くスリッパでひっぱたいて始末した。
仁は自分のやってしまった失態に頭を抱えてうずくまってしまう。流石にこれは自分でもやってしまった感が半端ない、こんな騒ぎを起こしては教員として推薦してくれた桜にも申し訳がない。
パシュパシュパシュン
「ん?」
自身の周りに張っている防御結界が反応した、振り返ればそこにはスーツ姿の大柄な男が拳銃を構えて立っていた。
「貴方は?」
「くっ、本当に銃が効かないのか!」
男は自分の胸元に手を入れると、仁に向かって何かを投げつけて来た。反射的に先ほどカマドウマにも使った重力系魔法を使って投げられた物体を包み込み圧縮して封じる、今度は雷撃を使わないので外側に爆発することはない。
男と私の間で黒い球体のような空間が浮いている。
パシュゥン
「ば、化物め!手榴弾も通用せんのか」
男は目の前の空間で手榴弾が爆発せずに押しつぶされる光景に、青い目を見開いて驚愕する。
「誰ですか貴方は?今ちょっと考え事してて忙しいんで後にしてくれますか」
「くっ、武田仁。私は元米国国家安全保障局(NSA)のギルバート、貴様の存在は世界の平和を脅かす、死ね!」
ビョウ
ギルバートは脛に装着していた大振りのコンバットナイフを仁に向けて突き出した。
ここ数年、桜の剣術に付き合っていた仁にはこの動きは遅く感じ、この前やったバスケットボールで覚えたロールターンで素早くギルバートの横に回り込む。
「だから、忙しいのでちょっと大人しくしててもらえますか」
ギルバートのこめかみに当てた指先から軽く電撃を飛ばすと、ギルバートは白目を剥いてガクリと膝から崩れ落ちた。手に持っていたナイフがカランと床に当たる。
仁としてはギルバートの事なんてどうでもよかった、それよりもこの破壊してしまったトイレに頭を悩ましている、魔法使いと言っても決して万能ではない、壊れた物を元通りに戻すような都合の良い魔法なんて異世界にだって存在しないのだ。
バタバタバタ、キキィー、バタンバタン
「ん、今度は何?」
仁が廊下に出て壁にもたれて考え込んでいると、なにやら外が騒がしい、そんな事を考えていると階段を登って来る足音が聞こえて来た。階段の暗闇からニュウっと出て来たのは…。
「やあ、またお会いしましたね武田先生、佐藤です」
現れたペコリとお辞儀をする佐藤に、仁の頭はさらに混乱する。
「あぁ、警察の方、えっ、もしかしてもうセコムに通報されてます」
「セコム?いや、アメリカの工作員が潜入したと部下から報告がありまして来たんですが」
「アメリカ?」
「ええ、ああ、そこで倒れてる人物ですよ、武田先生お手柄でしたね、かなり過激な人物で爆弾とかも平気で使うような奴でして、あぁ、爆弾は使われてしまった後ですか、凄い有様ですが大丈夫でした?」
内海はトイレを覗き込んむと仁に聞こえるように大きな声でそう言い放つと、仁の肩にポンと手を乗せる。
「後は我々、警察がうまく処理しますので、今日の所はこのままご自宅にお帰りください」
「え、でも」
「まぁまぁまぁ、ここは私の顔を立ててもらうと言う事で、お願いしますよ」
チュンチュン、チュン
翌朝、仁が朝早く学校に行くと児島主任や校長が駆け寄って来た。仁は昨日のトイレ破壊の件だと思い、咄嗟に頭を下げようとした。
「武田先生ぇ、大丈夫でしたか!私、もう心配で心配で」
「本当に大変でしたね、日直の時にテロリストが逃亡して来るなんて、実に運が悪い」
「はぁ?」
「警察によると、犯人は爆弾をいくつも持っていて3階のトイレは爆破されたって、武田先生もその場に居たんですよね、吃驚されたでしょう」
校長が何やら話しているし、児島主任は泣きながら抱きついて来る、仁はと言えば何が何やら頭が混乱していた。
「ま、まさかあのカマドウマがテロリスト…」
そんなわけない!!
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