第15話 真実はいつも嘘

3階の校舎ではまだ警察の方々が忙しく作業している、KEEP OUTと書かれた黄色の帯で仕切られた奥に佐藤さんが立っていたので話かけた。


「佐藤さん」


「あぁ、おはようございます武田仁さん、昨日はよく寝られましたか」


「……」


ニコニコと笑顔を見せる佐藤さん、いかにこの世界の事にうとい私でも、警察が昨日の件をテロリストの仕業という事で誤魔化そうとしているのは察しがついた、私が異世界人というのも関係しているのだう、ならば昨夜の私の破壊行為はお咎めなしということでいいのか?今夜にでもサクラ様に相談してみよう。


「武田先生には、また昨日の事件の事を伺うこともあるかもしれませんが、その時はよろしくおねがいします」


「わかりました、決して協力は惜しみません、では失礼します」


ペコリとお互い頭を下げる。







階段を降りながら気持ちの整理をつける、この騒ぎでは今日の授業は無理と学校側は判断した、すでに登校してしまった生徒達に事情説明して自宅に帰さなければいけなくなった。


ガララ


「あ、仁先生!何々、何があったの?」

「逃亡中のテロリストが学校に忍び込んだって、マジ!」

「仁先生は犯人見たの!」


教室のトビラを開けた途端生徒達に捲し立てられる、なんで全員揃っているんですか?朝イチで休校の連絡は入れているはずですが。


「皆さん落ち着いてください、昨夜この学校に凶暴犯が忍び込んだのは事実です、ですが犯人はもう警察に捕まっています」


「「「おぉ〜!」」」


「只、今日は警察の現場検証があるので臨時休校となりました」


「「「えぇ〜〜〜〜〜っ!」」」


「折角来たのに〜、つまんな〜い」

「仁先生もっとくわしく」


う〜む、流石に若い子は好奇心旺盛だな、もう学校に来ちゃってるししょうがないか。


「では私がわかっている範囲でお話します」


「「「おお〜〜〜〜っ!!」」」






黒板を背に教壇に立つ、目の前には私の生徒達が取り囲むように座っている。


「では」


「「「…………」」」


「私は昨日は宿直当番で夜中に学校内を巡回していたのです、1階のこの教室も2年生の2階も何も異常はありませんでした」


「夜の校舎ってなんかドキドキしそう」

「仁先生も言ってくれれば、私達も一緒に付き合ったのに」

「あ、それ、楽しそぉ!今度絶対にやろう」


思いもしない反応に私はコホンと一つ咳払いして話を続ける。


「3年の3階校舎に行くと廊下の北側の端の窓が開いていて、風が吹き込んでいました」


「仁先生、もっと怪談ぽく」


「えっ、怪談ですか」


「「「そうそう、せっかくだから皆んなで涼しくなろうよ」」」


なるほど、今日も朝から暑いですからね。

それにしても皆んな乗りが良いな。


「私がヒタ、ヒタと窓にゆ〜っくり近づくと、ヒヤリとした夜風が頬を撫ぜてきました、私は何かヤダなぁ、ヤダなぁと思いました」


どうせならもっと臨場感があったほうがいいか、そっと風系の魔法を展開する。


「うわっ、なんかゾクってきた!」

「なんか本当に冷たい風吹いてない?」


「窓の外、上をみても下を見ても何もありません、私はおかしいなぁ、おかしいなぁと思いつつ、只の窓の閉め忘れかと思って見廻りを続ける事にしたんです」


「えっ、もしかしてその窓からもう犯人が中に!」


「北側からA組、B組、C組、D組と全て回るも異常はありません、残るはトイレのみ」


「えぇ!仁先生、女子トイレに入ったのぉ!」

「やばい、今度から変な妄想しちゃいそう」


何故か盛り上がっている生徒達、変な妄想とは?


「トイレのドアノブに手をかけるとゾクリと寒気がしたんです」


「「「きゃあ!仁先生開けちゃダメぇ!」」」


「そうは言っても確かめないわけにはいきません、私は思い切ってドアを開いたんです」


「「「おぉ〜〜!」」」


「手に持ったライトで中を照らせば、居たんですよ、そこに…」


ちょっと温度下げたほうがいいかな、風魔法の魔力を強める。


「金髪短髪の角張った顔、大柄のがっちりとした体格を隠すように着込んだ灰色のスーツ、暗闇で怪しく光る青い瞳と目が合うと、私に向かって彼が言うんです」


『みぃ〜た〜なぁ〜』って。


「「「きゃぁーーーーっ!!」」」


「私は咄嗟に廊下に向かって全力で走り出しました、すると後では大きな爆発音が…」


『ドカーーーーン!』と


ちょっと教室を縦に揺らす。


「「「おぉ!!」」」


「後を振り向いても誰も追ってきません、すると下の階から大勢の警察の方がバタバタと上がって来たんです、どうやら匿名で通報があったみたいで、校舎に入ると爆発音がしたので駆けつけたそうです、その後犯人は見てませんが、どうやら私に見られた事で「もう、駄目だぁ」と思ったのか爆弾自殺を図ったそうです、でも運悪く?助かって警察に捕まってしまいましたけどね」


「「「ほっ」」」


「私が知っているのはこんな物ですかね、ご静聴ありがとうございました」


教壇の前でペコリと頭を下げる。


パチパチパチ



湧き上がる拍手、ご満足頂けたようでなにより。

ところで、いつのまにか生徒達と一緒になって楽しそうに聞いてる児島主任と李先生はいいんですか、他の生徒達にも説明に行かなくちゃ校長に怒られますよ。







その夜、サクラ様に同じように怪談ぽく話をしたら、全然怖くないと駄目出しされてしまった。

怪談は話す時の抑揚のある話し方が大事らしい、また一つ勉強になった。


あ、わかりましたから稲川淳二のDVDはいりませんよ、サクラ様。普及用だから持ってけ、はぁ、そうですか。

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