第13話 辛くて暑い

「それじゃあ仁先生さようなら〜♪」


「はい、ご苦労様でした、お気をつけて」



日直の桐生さんに学級日誌をもらって今日のお仕事は終了だ、さて今日はサクラ様も用事で出かけると言っていたし、夕飯は1人だしどうしよう。

そんな事を考えていたら児島主任に声をかけられる。


「武田先生、どうかされたんですか?そんな難しいお顔をなさって」


「あ、児島主任。いえ、今日の夕飯は一人なので、何を食べようかなと考えていたんです」


「あらあらあら、まぁまぁまぁ、実は私も今日はたまたま外食しようと思っていたんですよ、えぇ、たまたま、普段はちゃんと自炊してるんでよ、普段は」


「え、そうなんですか。ではご一緒に何か食べに行きませんか」


「はう、い、いやぁ〜そんなに誘われちゃうと困っちゃうな、どこかで生徒に見られたら誤解されちゃうんじゃないかなぁ、い、いやぁ、別に誤解じゃなくても私はいいんですけど〜」


ポン


「児島ちゃん、別にそんな心配しなくても大丈夫だよ、私も一緒に行ってあげるから」


「あ、李先生」


「な、な、なんで蓮花れんふぁ先生が」


「いやぁ、同僚とは言え教育者ですからね、余計な誤解を生むわけにはいかないじゃない、3人でなら変な噂もされないでしょ」


「なるほど、流石は李先生ですね、私も児島主任に対する配慮が欠けていました、すみません」


ペコリと頭を下げる。


「いえ、別にそんな配慮は全然、まるっきりいらないですよ」


「じゃ、仁先生も児島ちゃんも行きましょうか、良い中華のお店があるんですよ〜」


「か、辛いやつです?」


「児島ちゃんはお子ちゃまだなぁ、大丈夫よ辛くない奴もあるから!」




「「「…………」」」


そうだった、私は自転車で李先生はバイク通勤だった!私一人なら自転車でもいいのだがお二人も一緒ではそうもいかない、結局は児島先生の車に3人で乗り込み夕食を食べに行く事になった、ふむ、中華料理とはラーメンの事だったよな?









「ねえ、本当にここなの?」


児島主任が建物を見上げる。


「そうですよ、四川料理が美味しいんだから!」


学校から上田方面に向かう途中、温泉街があるのだが李先生に案内されたのはホテルの中華レストランだった。


そう言えばさっき足湯の所に東堂さんに似た子がいたような、錯覚かな。



「「李苑?」」


「そ、知り合いのお店だから安心していいよ」


「蓮花ぁ!」


「あ、叔父さん」


3人がお店に入ると料理人の格好をしたおじさんが笑顔で迎えてくれた、叔父さん?親戚なのだろうか?



「はっはっは、彼が蓮花の彼氏かい。良い男じゃないか!どうする上のホテルで1室用意させるか」


「いやダァ、叔父さん気が早いよぉ」


バシ、バシ、バシィ


「おぉ、そうだったかすまんすまん!痛い痛い、痛えよ!」


何やら李先生と叔父さんで盛り上がっているが隣の児島先生は、何か騙されたような苦い表情をしている。

李先生が勝手に奥の個室に入って行くがいいのだろうか?


蓮花れんふぁ先生、個室ここなら噂もなにもないと思うんですが」


「ふふ、この前、教頭がここに食べに来てたみたいよ、若い女連れで」


「えっ、教頭に娘さんはいないはず、マジで!」


李先生は児島主任に言葉を返すと、叔父さんに向き直る。


「叔父さん、それじゃあ、おまかせコースでお願い」


「蓮花先生!」


とりあえず安い料理でも頼もうと思っていた児島はちょっと慌てる。いざとなればカードで。


「あぁ、大丈夫よ、今日は私の奢りだから〜♪」


おまかせコースで奢りとなれば好きなラーメンを選ぶことは出来ないか、美味しければいいのだが。





ガッガッガッ!


「李先生!この麻婆豆腐なる料理とても美味いです!ピリリと痺れる辛さの中にもしっかりと旨味がある!」


「確かにこれは美味しいわね、私だけ別に甘口なのはどうかと思うけど、全然色が違うじゃない」


「この店は陳建民のお弟子さんが料理人にいるから本格的な四川なのよ」


「おぉ!このエビチリと言うのも美味い!!」


出される料理、どれも素晴らしく美味しかった。チンジャオロースーなるピーマンの炒めものなど自分でも作ってみたくなった。中華料理とはラーメンだけではないのだな、家は和食が多いので大変勉強になった。


3人で締めの杏仁豆腐を食べて一息つく。


「「ごちそうさまでした」」


「いや〜、仁先生良い食べっぷりでしたね、叔父さんも喜んでましたよ」


児島主任がテーブルの上に積まれた皿を見ながら李先生に小声で話しかける。


「ちょっと蓮花先生、これ結構高くつくんじゃないの?少しは出すわよ」


「叔父さんがこの店のオーナーなんで気にしないでいいですよ、私も暑い季節には辛い料理が食べたくなりますから」


「はぁ」




ガララ


「武田先生、今度は二人きりで…」


「ん、児島主任何か言いました?あれ?」


店から出ると児島主任がトコトコやって来て小声で何か言ってくる。それよりも角からこっちを覗いてる人がいる、フードを被っているので顔はよく見えないが、でもあのフード、来る時に足湯の所にいた人だよな、東堂さん?



(な、なんで、あの男がここに、しかも児島ちゃんと保険医の先生まで、もう二人ともたらしこんだのかしら)



「仁先生、帰るよ〜!」


「あ、はーい。今行きます」














トゥルルル、ピッ



「はい、特務7課 佐藤」

「あ、内海、今日の報告ね」


「お前なぁ、佐藤つってんだろうが!」


「携帯なんだからいいでしょ、それより今日の仁先生の報告ね、仁先生はこっちの世界で何でも好き嫌いなく良く食べるわ、でもなんかお肉より野菜の方が好きなのかも、なんか野菜が美味しいって何回も言ってたから」


「ふーん、野菜ねぇ、それは部下の報告にもあったな、他には?」


「凄くカッコよかったし、お邪魔虫の邪魔も出来た!」


「はぁ」


「じゃあ、今日の食事代はそっちに請求回しとくわね〜」


「は?」


「必要経費でしょ」


「……了解した、メールしといてくれ」


「OK!」


内海は国家権力を使って李蓮花を仁の務める学校にねじ込んだが、個人的に李蓮花と契約している、色々頼んでる自覚はあるだけにあまり強くは出れないのだ。




ピッ


ピロ〜ン


電話を切った内海に蓮花からのメールがすぐに届く。画面を下までスクロールさせ金額の部分で指を止める。


「……あいつめ、どんだけ食ってるんだ」


請求額124,000円、3人で割っても一人4万円を超える金額だ、せめて一人4千円くらいの安いコースを頼めと思う内海だった。


奇しくも内海の仁に対するヘイトがまた一つ溜まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る