第4話 野生の女子高生が現れた
歓迎会の次の朝、通勤用にとサクラ様が用意してくれた自転車で学校に向かう。
まだ少し頭は痛かったがしじみのお味噌汁を作って飲んだら少しスッキリした、サクラ様からは良い若い者がそれぐらいでだらしないと怒られてしまった、それもこれもチューハイが美味しいのがいけない、反省。
シャーーーーーーーッ
それにしてもこの自転車(ロードバイク)って奴は速いな、フレームが細くて軽いから最初はフラフラしたが乗り慣れると凄く便利。ハンドルが羊の角みたいにグルって曲がってるのでちょっと持ちづらいが、ペダルは軽くてクルクル回る。
「おはようございます!」
「キャーッ、仁先生だ!おはようございます!」
校門を越えて駐輪場に向かう道すがら登校中の生徒に挨拶として声をかけていく。
駐輪場近くに来ると、うずくまってプルプルと震えている生徒が目に飛び込んで来る。
うん、野生の女子高生が現れたってやつだ。
「おや?あれは確か…」
うずくまってる生徒に駆け寄り声をかける。
「たしか桐生さんですよね、どうしましたか?」
「…あ、せんせぇ、急にお腹が…痛っ」
私の担当になったクラスの生徒だった、声をかけた私の方を向くが顔色が悪い、呼吸も浅いし病気かなにかか?
とにかく、えぇっと、こう言う時この国ではまず、そう、保健室だ。
「具合が悪いんですね、ちょっと失礼しますね」
「キャッ」
背中と脚裏に腕を回して持ち上げる、桐生さんは一瞬小さな悲鳴をあげるもののすぐにおとなしくなった、ぐったりしてると言った方が正しいか。
タッタッタ
「すみません、道を開けてもらえますか!病人です!」
「へっ、武田先生、と
意識が朦朧としている桐生さんを抱き上げながら廊下を駆ける、重量軽減の魔法をかけているのでこの持ち方でも重くはない、とにかく揺らさずに急いだほうがいいだろう、途中で同じ1-Aのクラスメイトが一緒について来た、ええと、名前なんだっけ?あぁ、三国さんだ、良かった思い出せた。
保健室に着くが養護教諭の姿が見当たらない。入口横のホワイトボードを見れば今日は役所に寄ってから登校って大きく書いてある、タイミングが悪いな。
えっ、どうする。とりあえず桐生さんをベッドに寝かせた。
「先生、華子どうしちゃったの!」
三国さんが心配そうに話しかけてくる。
「駐輪場の前でお腹が痛いってうずくまってたんですよ」
「えぇ!華子大丈夫!生理?ぽんぽん痛いの?正露丸飲む?」
三国さんが話しかけるも痛いのか返事を返せない、桐生さんの顔色がどんどん悪くなって苦しそうにお腹を抑えている。救急車を呼んだ方がいいか?師団の部下の怪我なら何回か治した事があるが、こっちの世界ではまだ治癒魔法を使っていなかった。
う〜ん、病気の治癒はあまり得意じゃないだが、この状況ではそうも言ってられないか。
「桐生さんちょっと触りますよ、痛い場所だったら言ってくださいね」
図書館では医学書とかも数多く読み込んだ、救急車を呼ぶか呼ばないかの判断ぐらいは出来るだろう。
桐生さんが手で抑えてる箇所に掌をそえる、あっ、これだ、頭の中にイメージが流れてくる、お腹の中で赤く光る部分、右下腹部、この場所は…この世界で言う盲腸炎ってやつかな。患部を軽く押して戻すと桐生さんは凄く痛がった。
ためしに患部に魔力を流してみると赤い光が急に小さくなる、あれ、消えた。
治ったのか?
「んん…、あれ?痛くなくなった」
「華子ぉ!」
痛そうにお腹を抑えてた桐生さんが不思議そうな顔で起き上がると、三国さんが涙ぐみながら抱きついた。
「桐生さん、もう痛くはないですか?」
「仁先生、えぇ、なんか急に痛いの無くなっちゃいました、さっきまであんなに痛かったのに?先生何かした?」
コテンと首を傾げる桐生さん。
「それは良かったです、でも保健の先生が来たら念の為診てもらってくださいね」
「華子のことだから腐ってるもの拾って食べちゃったんじゃないの~」
「そんなことしないもん!!してませんよ!信じてください仁先生!!」
必死に訴えてくる桐生さん、だれも拾い食いなんて思ってませんよ。
「まぁまぁ、落ち着いてください、三国さんの冗談ですよ?」
桐生さん達のやりとりを聞きながら、私はさっき使った治癒魔法について考えていた。こっちの世界で医学書を読んだせいか以前より患部の特定が簡単だったし、治すイメージがすぐに頭に浮かんだ、あれなら大抵の怪我や病気が治せるかもしれない、次は怪我とかに使ってみようか。
「仁先生、保健室に運んでくれてありがとう。わ、私、お、重くなかったですか?」
「あぁ、大丈夫です、羽のように軽かったですよ、じゃあまたHRで」
(軽かった!)良かった、私165cmで背高いから重いって言われたらショックだった。
仁先生を保健室の前で見送ると三国が肘打ちしてきた。
「華子、上手くやったわね。仁先生にお姫様抱っこなんてしてもらって~」
「いや、本当に死ぬほど痛かったんだって!そんなこと考える余裕なかったわ」
桐生はそう言ってさっきまで痛かった場所に手を当てる、真面目に死ぬほど痛かったのだ。
「先生の手、暖かかったなぁ」
「あぁ、先生が触ったら途端に治ったもんね、でもそんなんで治るなんてやっぱりなんか拾い食いでもした?」
ポカッ
「あんたねぇ、変な噂広めたらマジで殺すわよ」
「噂話ならもう広まってるんじゃないかな、目撃者い~っぱいいたし」
そういえば、あのお姫様抱っこ、結構な生徒に見られてたわね。
「あーーーーーーーーーー、ねぇ、どうしよう三国ぃ~」
その日のお昼休み。
案の定、私のお姫様抱っこはその日の話題を独占した、教室で質問攻めだ、でもなんか微妙に嬉しくない。
「華子、仁先生に抱っこされてどうだった!」
「どうもこうもないわ!こっちはお腹痛くてそれどこじゃなかったつーの」
「うわ、もったいな、そんなのやってもられる女なんて滅多にいないよ~」
そんなの言われんでもわかっとるわい、やられた本人なのに全然覚えてないのよ、堪能する暇もなかったのよ、じわじわ後悔の念が湧き上がってくる。
「でも仁先生、すごい力だよね。華子って結構重いのに抱いたまま軽々走ってたもんね、男の人ってそんなに力あるのかな?」
一緒に保健室に行った三国がそんな感想を漏らす、重くないわよ失礼ね、仁先生は羽のように軽かったって言ってたもん、えっ、もしかしてお世辞だった?いやいや抱かれてても全然揺れてなかったし、えっ、走ってたの、あの時。マジか。
「そう言えば、あれから保健の先生の所には行ったの?」
「さっき行ったよ、でももうなんともないって言ったら首傾げられた。なんか私の症状だとたぶん盲腸炎だったんじゃないかって、でも触られても全然痛くもなかったから不思議がられた」
「ふ~ん、じゃあやっぱり拾い食いが原因だ、盲腸だったらそんなすぐには治らんでしょ」
「あんた、私がどれだけ食い意地はってると思ってるのよ、仁先生に手を当てられたからイケメンパワーで治ったんだって」
「なによ、いきなりオカルトになるわけ、ラブな話しをしようぜ~」
「先生の手、すっごい暖かかったぁ~」
「誰が、エロい話しろって言った」
「いや、マジで暖かかったんだって、痛かったのスーーーーッて消えてったんだから」
「何々、感じちゃった」
「もう知らん!」
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