第29話 今そこにある危機

朝のひと時、爽やかな空気の中で身体を動かす、なんと健康的な事か。

澄んだ空気を肺の中に吸い込む。



「あれ?サクラ様、今日は刀が違うんですね」


朝の体操?の時間、いつも通りサクラ様と対峙して剣を構える。

サクラ様が持つ刀がいつも使ってる朱色の鞘じゃなく黒鞘に変わっていた。刀の向きも上下が逆向きだ。


「ああ、この前東堂の小娘とお前さんが魔法で試合したろ、その所為であたしもちょっとうずいちまってね」


「がらにもなく、古刀の良い奴をおねだりしちまった。国宝 童子切安綱どうじぎりやすつなだよ」


平安時代に源氏の源頼光みなもとのよりみつが酒呑童子と呼ばれる鬼を斬ったとされる名刀、天下五剣の一つ、当然だが国宝である。


スラリ


「どうだい、美しいだろ」


ゾクリと来る。サクラ様が刀を抜くと怪しげな光を放つ刀身、長いな、いつもサクラ様が使ってる刀と比べると反りと長さの違いが際立つ。


「平安時代の古刀は刀じゃなくて太刀と言うのさ、使い方もちょっと違う」


ピョウ


サクラ様の逆袈裟、切り上げた姿勢でピタリと静止する。

軽く振っただけなのに、まるで空間が切れたように錯覚する、刀身が長いだけに間合いも長い、けど抜き打ちのスピードはいつもの刀の方が速いかな。


「うん、これなら鬼も斬れるのも納得だ、日本を代表する妖刀の一振りだよ」


「妖刀?」


「魔力を帯びた刀だよ、これなら仁の魔法も斬れるんじゃないかと思ってね」


魔法を剣で斬る、発想が凄いな、でもサクラ様なら本当にやれそうで怖い。で、実さんはどうしてそこに?


「えっ、その刀用意したの私だから、武器の調達は得意なタイプなのよ私」


「さいですか」


鍛冶屋に知り合いでもいるのかな?



「じゃあ、行くよ!」


サクラ様が刀の柄に手をかける、途端に雰囲気が変わる。


「ちょっと怖いな」















「はぁはぁ、朝から死ぬかと思った」


「ちっ、折れちまった。この刀でも耐えられないのかい」


「いや~実にいいものを見せてもらいました~♡」


サクラ様の剣技ならプラーナでも騎士団長になれると思う。











朝のひと時、メールチェックは現代人にとっては必須だろう、それが女子高生ともなれば朝の返信作業に追われる者も教室には居る。


ストトト


「ん、ん~~っ」


桐生がスマホに指を滑らせながら、思い出したように唸る。

目の前で同じくスマホを見ていた三国が桐生の声に反応した。


「どした?詐欺メールでも来た?」


「いや違くて、ねぇ、このクラスで仁先生のID知ってる人いる?」


「ん、私は知らんな、誰かいる!!」


「「「知らな~い」」」


「えっ、やばくね、なんで誰も聞いてないの?」


「いや最初に聞いて、がっついてると思われたくないし」


「「「それな」」」


「けど仁先生がスマホ使ってるの見た事ないよ、あればその時ついでに聞けるけど」


「えっ、先生スマホ持ってるよね?」





カララ


「は~い、席についてHR始めます」






「は、スマートフォンですか。持ってますよ。この学校の就職祝いでサクラ様に買ってもらいましたから」


「え、それまでは持ってなかったんですか?」


「サクラ様の家にも電話はありましたからね」


桐生さんが鬼気迫った表情で手を出して来る。


「見して!!」


「あぁ、はい」


桐生さんの鬼気迫る様子にちょっと気おされる。

私はポケットに入れていたスマホを取り出して桐生さんに渡した。先日実さんに言われて普段から持つようにしてたのだ、えへん。


「アイフォン15プロか、最新機種ですね、でも電源入ってませんよ」


「そういうのって使う時に入れるんじゃないんですか?」


「え、それだと電話が来ても通じませんよ」ポチ


ピコンピコンピコンピコンピコン


「ほら~、不在着信入ってる。って一番頼りになる女 常滑純子と愛人 多摩川幸子の名前ばかりズラァ~っと」


「あぁ、県立図書館の司書さんとそこで会った女子高生さんですね、お二人にアドレス登録してもらったんですよ」


「「「…………」」」


「私達が知らないのになんでこいつらが仁先生の連絡先知ってるんですか!!」


隣の唐津さんが桐生さんから私のスマホを奪い取る。


「は、アドレスが4つしか入ってない!」


確かにアドレスはサクラ様と常滑さん、多摩川さんに実さんと入れてもらった人くらいか、児島主任や他の先生とかは覚えてるしな。


「電話番号くらい覚えられますよ失礼な」


「あ~っ!ライン登録すらされてない!アプリがデフォのまんまだ、家のお爺ちゃんのガラケーよりシンプル!」


「仁先生、通信料プラン何ギガ?」


「あ~、店員さんは使い放題とか言ってました」


「うわぁ、この使い方だと凄い無駄プラン、もう、しょうがないなぁ」


唐津さんが凄い速さで私のスマホを操作し始める。女の人ってスマホの操作速いよね。

で、何で全員がスマホを手にしてるんです?なんか異様な光景ですよ。



「良し!とりまラインは使えるようにしといたから、うちらのグループに入れとくね」


「はぁ?」







教室から職員室に戻る。


なるほどラインと言う会社を一度通す事によって通話料が無料になるのか、今夜サクラ様にも教えてあげよう。

しかしスマホと言うのは便利なものだが、念話が使えないこっちの人はちょっと面倒くさいな。


後、さっきからチンチロチンチロ着信がうるさいんですけど、皆んなしてラインを送らないでください。

あ、児島先生は電話番号覚えてますから大丈夫ですよ。そんな悲しそうな顔しなくても。


はぁ、電源切りたくなる。


スマホを見れば何やら画面のボタンの数が増えている、何に使うんだこれ?


「あ、アドレスに愛人とか恋人がめっちゃ増えてる、なんですか未来妻って」

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