第23話 燃える女の赤いトラクター
キーンコーンカンコーン🎵
手に持っていたチョークをチャイムとともにピタリと止める。
「はい、では今日はここまで。お疲れ様です」
「「「ありがとうございました~!」」」
ヴォイヴォヴォヴォヴォ、ヴゥアン!!
今日の授業が終わると同時に、校門に真っ赤で派手なスポーツカーが大きなエンジン音を立てて横付けされる。
突然の爆音に騒つく教室、皆が一斉に窓辺に群がった。
「な、なんだぁ!」
「あれってポルシェ?フェラ、…フェブラリー?」
「それじゃあ2月だよ、馬鹿三国」
「フェラーリだよ、東京の叔父さんが乗ってるのと一緒の形してるもん」
カチャ
運転席から綺麗な脚がニョキっと現れる。次いで現れるのは涼しげな白いワンピースに腰まで伸びる艶のある黒髪。いかにも良いとこのお嬢様のたたずまいである。
(姉の虎美は目つきの悪い不良高校生の見た目だが、妹の実はいつも笑みを浮かべているため姉妹と思えないくらいに対照的な姿だ、まぁ、タイプは違うが美人姉妹と言えなくもない。)
「あれ?あの人って、みの」
「うおっ、綺麗な姉ちゃんが出て来た」
「大学生くらいか?」
「なんか清楚なお嬢様なんですけどぉ、なんでスポーツカー?」
「あ、こっちに手振ってる」
「仁さ〜〜〜〜〜ん♡」
「「「仁さん!!」」」
ガバァ
うおっ!生徒達が一斉に私に振り返る、なんか圧が凄いな。
「「「仁先生!あの女は誰ですか!」」」
なんでクラス全員で言うのかな。
「あぁ、実さんは昨日から一緒に住む事になったんですよ」
「「「一緒に住むぅ!!」」」
「ど、
「う、嘘よ、私は信じないぃ!」
「所詮最後は金持ちのお嬢様が全てを掻っ攫って持っていくのね、庶民の私達なんか…」
「ねえ、桐生。ちょっと頬つねってくんない、夢かもしんない」
「ちょ、しっかりして」
「ま、まだよ、諦めたらそこで試合は終了だって、安西先生も言ってた」
なにやら勝手に盛り上がる生徒達、もう収集がつかない。
「じゃ、呼ばれてるみたいなので私は行きますね、皆さんも気をつけて帰るんですよ」
バタン
「「「「…………」」」」
保健室で昼寝をしていた李蓮花も大きなエンジン音で目を覚ます、その騒音に一言文句を言ってやろうと窓際に行けば、校門前で笑顔で手を振っている馬鹿女がいる。
「げげっ!あれって鹿島実、ト、トライデントも動いたの?」
李蓮花は慌てて保健室を飛び出した。
校門前に行くと実さんが車の横に立って待っていた、レースの日傘が良く似合っている。
「どうしたんですかこの車?」
朝には無かった赤くて平べったい車を見ながら実さんに話しかける、ピカピカな車だな。
正確にはフェラーリ SF90 ストラダーレと言う、フェラーリ社初のプラグインハイブリッド車でハイパワーエンジンと電気モーターのレスポンスの良さが特徴、4リッターのV8と3機のモーターの出力は1000馬力となり4WDなのも相まってそりゃあめっちゃ速い、伊達に赤くない、トラクターとは違うのだ。お値段も5900万円とかなりお高い。
「やはり長野だと車がないと不便かなと思って、さっきお店で買っちゃいましたぁ♡テヘ」
あざとい笑顔で覗き込むように上目使いで仁を見つめる
「だから〜、まだ運転に慣れなくて、仁さんにドライブの練習に付き合ってほしいなってぇ♡」
買ったばかりの車では運転に不安があるのだろう、実さんは恥ずかしそうに笑みを作った。
私も自転車でも別に生活には困らないが、車の免許も取ったほうがいいかな。
「あぁ、そういう事ですか、いいですよ練習にお付き合いしますよ」
「仁先生!」
「あれ、李先生」
校門で実さんと話していると李先生が走って来た、慌ててどうしたんだろうか。
「私も一緒に…」
李先生が何か言おうとするが実さんがその言葉を遮った。
「あら、ごめんなさいね、この車2人しか乗れないのよぉ〜♡」
実さんはそう言って低い車の屋根をポンポンと叩く、中を覗けば椅子が二つしかない、軽トラと一緒か?
李先生は普段はバイク通勤だから車は興味ないと思っていたのだが、実さんの車に乗ってみたかったらしい、もしかして珍しいのかこの車?
「ぐぬぬ、フェラーリなんて速く走るしか能のない車を……」
唸る李先生を横目に実さんはドアを開けて私を車に押し込む、実さんも運転席に座るが、思いついたように窓を開けて李先生に話しかけた。
「あ、李先生と言ったかしら、内海さんにもよろしく言っといてくださる」
「ええ、後でしっかりと言っておきますよ」
実さんと李先生がお互いニヤリと笑う、良かった、どっちも強そうだから喧嘩になったらどうしようかと思ってたが、やはり同性だと仲良くなるのが早いな。にしても内海さんて誰?
ヴアォオオン!!スキャキャキャーーーーッ!!
鹿島実の操るフェラーリは、校門の前でギュルルンと華麗にスピンターンをすると爆音を立てて国道方面に走り去って行った。
それを見送った李蓮花は白衣のポケットからスマホを取り出すとコールをかける。
トゥルル、ピッ
「ちょっと!!内海!なんでトライデントの女狐が仁さまとドライブデートになんてしけこんでるのよぉ!!」
「なっ、学校にまで行ったのかあの女」
「校門前に派手な車を横付けして、仁さま攫ってデートに行ったわよ、どうしてくれんのよ!」
「なんでそんなに怒ってるんだよ」
「あんた達がちんたらやってるから、あんな女に先を越されるんでしょーが!!」
蓮花の言葉に何も言い返すことが出来ない内海、後手に回っている感は自覚している、確かにこのままでは日本を守る事など出来やしない。
……いよいよ、決断の時が迫ってるのかもしれない。
ヴァガァーーーッ!
「さぁ、監視を振り切るから、飛ばしますよぉ!」
「おぉ、けっこう速いですねこの車」
凄い勢いで後に流れる景色、無重力を思わせる加速感、あきらかに軽トラより速い、メーターは340kmを示していた。けど実さん、さっき白黒の車が後で何か言ってましたよ。
「あぁ、大丈夫ですよ許可は後でちゃんと取りますし、カメラにも映らないようにいじってますから♡」
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