第22話 狩る者、狩られる者

「あ、クロ


キィィィィィィィン


重力魔法で自分にかかる重力を極限まで下げる、無重力、それだけで人間はとんでもないスピードで動くことが出来る、加速減速自由自在、これはプラーナに居た頃には出来なかった魔法の使い方だった。

この世界で図書館に通いまくり、科学の知識を得たことで実現したまったく新しい魔法と言える。科学と魔法は案外と相性が良い、科学に裏付けされた知識は魔法発動の時にイメージを明確にする、明確なイメージを持った魔法は自然と威力が跳ね上がる、それだけでプラーナに居た頃より仁の魔法技術は何倍も向上していた。


だが、この新魔法の技術が、まさか猫を捕まえるためだけに考えられた魔法技術とは、誰も想像出来ないであろう。


シュパ


「よっと!」


ニャギャ!!


10mは有った距離を一瞬で移動する、歩いてる猫の背後からそっと忍び寄り手を伸ばして抱き上げる。


「よ〜し、よし、良い子だ、暴れるなよ」


仁に抱き上げられた黒猫は、一瞬でまるで死を覚悟したように硬直していた、仁は人当たりは良いのだが、野生の勘を持つ動物とは何とも相性が悪い、近づくだけで怯えられ警戒されてしまうのだ。まぁ、生物の頂点であるドラゴンと互角に闘える生物だからしょうがない。


武田邸の庭を通り道にしていた野良猫を撫でるためにこの魔法を作ったと、桜に説明した時には「平和な頭だねぇ」随分と呆れられたものだ。










「なっ!」


ガタッ


思わず椅子から立ち上がる。


青田から送られてくる武田仁の映像をモニターで見ていた、すると奴の姿が突然モニターから消える。

撮影対象を失って彷徨うカメラ、次に姿を捉えた時には奴は10mは離れた位置で黒猫を抱いて立っていた。

爽やかな笑顔が実にむかつく。


「今のスローで、もう一度」

「は、はい!少々お待ちを」


隣で一緒に見ていた緑川がすぐにPCの操作を始める。




スロー再生してみれば、奴は地面を浮くようにゴキブリ並みの高速で滑走している、奴はあんな事も出来るのか、一体どんな魔法だ、使用できる距離は、発動条件は?あの動きを捉えることは難しいぞ。


「課長、これっていざと言う時に俺たちが拘束する事も出来ないんじゃ」

「ああ、無理だろうな」


緑川の言葉に本音が溢れる。

手錠をかけようとした瞬間、目の前から消えてる絵が頭に浮かぶ。あの化物の討伐命令が出たら特務7課だけじゃまず無理だな、自衛隊にも早めに話をつけておきたい所だ。









「あれ、仁先生、どうしたんですか、その黒猫?」


「桐生さん。いやここで歩いていたので」


「へぇ〜、首輪してないし野良かな、良く逃げなかったですね、人懐こいのかな」


私の手に抱かれた黒猫を、桐生さんが撫でようと手を伸ばすが猫パンチを食らう。


「痛っ!あれ〜、別に人懐こいわけじゃないんだ、仁先生は別枠か?さてはメス猫だなこいつ」


桐生さんの言葉に猫の脇を持って掲げる、みょ〜んと伸びる猫の身体、その股間にはご立派な○玉がぶら下っているのが見えた。


「あれ〜、オス猫かぁ、おかしいな?」


何がおかしいのか?

女子生徒がオスの股間を凝視するのはどうかと思うが、この黒猫はオスらしい。

その後、私たちにワシャワシャとされるがままに撫でくり回される黒猫、なんか凄く震えている気がするんだが。

どうした?




「よいしょ、また抱かせてくださいね」


ニャギャギャギャーッ!


黒猫は地面に下ろした途端殺されそうな声を上げて一目散に逃げて行く。何を慌てているんだあの猫は?


「なんか凄い勢いで逃げて行きましたね」


「ですねえ」


2人の間にポケェ〜とした空気が流れる。


「仁先生は猫派なんですか?」


「猫派?」


「うん、猫派とか犬派とかあるじゃないですか、仁先生はどっちなのかなって?」


あぁ、そういう質問ですか。


「う〜ん、犬は良く似た獣が居たんですが、猫はこっちで初めて見たんですよね、猫って(魔獣より)小さくて可愛いですよね」


「ほうほう、仁先生は猫派と」(好きと好かれるは違いますけどね)


また一つ仁の情報を知ったと、うんうんと頷く桐生。


キ〜ンコロ〜ン


「「あ、予鈴」」


スピーカーから聞こえる鐘の音に慌てて走り出す仁と桐生。






カチリ


「ふう、対象と生徒が離れました、警戒レベルを2に戻します」


青田は対象に向けて構えていたミネベアミツミ(小銃)のトリガーから指を離し安全装置を戻す、インカムからは課長の了解の声が聞こえてくる。緊張の糸が切れて、ため息が出た。


「いや、もうよくない!これ一々警戒してたらこっちの精神がもたないぞ」


確かに直前にあんな動きを見せられちゃ警戒するのもわからないではないが、対象が生徒達に攻撃した場合に一般人を守れるイメージが出来ないんだよな、やっぱり監視方針を変えた方がいい気する。


「いっそのこと対象と仲良くなって…………課長に怒られるな、こんな考え方」

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