第21話 蛙の子は蛙かドラゴンか?

「あ、みのりさん、お醤油取ってもらえますか」

「はい、貴方♡」


朝の食卓に綺麗なお姉さんが加わった。実さんエプロンがお似合いですよ。


「なんだいこの空間。わたしゃ居ない方がいいかね?」


ポリポリと沢庵を齧りながらサクラ様にジト目で見られる。


「サクラ様、漬物まだ要りますか?」

「ああ、胡瓜だけでいいよ」


「実さんもまだおかわりありますよ」

「もう、ここに居るだけでお腹いっぱいです♡」


実さんは少食なのかな、でも朝食はしっかり食べておいた方がいいですよ。


「あぁ、なんか新婚みたいですね仁さん♡」


「いちいち言葉の語尾に♡マークつけるんじゃないよ、全く」





「それでは行ってきますね」

「は~い、頑張って下さいね貴方♡」


実さんがお弁当を渡してくれる、まぁ自分で作った弁当なんですがね。美人さんに渡されるだけで嬉しくなるのは男だからしょうがないよね。



自転車に跨り結構なスピードで坂を下っていく仁、すぐにその姿は小さく見えるようになった。


「さて、実さん。ちょっとお話をしようかね」

「そうですね是非♡」











「課長、なんか昨晩、鹿島って男女が武田仁と揉めてましたよ」


自分のデスクに座ると朝イチの報告を新入りの赤井がして来る。こいつ、寝癖ついたまま出勤とは警察官としての自覚が足りねえな。ん、鹿島?


「は?」


「だから武田仁と男女の3人組が蕎麦屋で揉めたらしいっす」


「いや、そこじゃなくて、誰と揉めたって?」


「ちょ~っと待って下さいね、え~っと東京在住の鹿島虎美、実姉妹と虎美の夫の真司ですね、観光客かな?昨日の夜には東京の自宅に戻ってますね」


頭痛くなってきた。ちょっと待て赤井、お前仮にも特務7課の人間だろ、なんでその名前を聞いてのんびりした顔してられるんだ。


「鹿島実って…何故、昨日のうちに私に緊急報告しなかった」


「えっ、喧嘩にはなりかけましたが、すぐに一緒に仲良く蕎麦食ってたんで問題ないかなと。あ、あそこの蕎麦めっちゃ美味いんですよ」


「知ってるよ。お前、明日から交番勤務な」


「えっ、なんで!」


「鹿島実と言ったら日本で12人居るブラックリストに載ってる危険人物の一人だろうが!最優先の報告案件だ!!」


「え、揉めてたのは姉の?虎美の方ですよ、みのりの方は随分と親しげにしてましたし、そのまま一緒に武田家に泊まってますが」



「…マジか。最悪じゃねえか」



鹿島実は武器商人であるトライデントの日本支社の専務の娘と言うより、トライデント本社の情報部の部長と言った方が裏の世界では断然通りが良い。姉の虎美も夫の真司も腕っ節は強いが精々が喧嘩の日本チャンプが関の山だ、一番危険なのは断然に妹の実、こいつの命令一つで世界各国の支社の人間を自由に動かす事が出来るのだから影響力が違う。

トライデントはただでさえ武器輸出業者として裏の世界では知らない者が居ない大企業、そこの本社情報部の部長ともなれば父親の日本支社専務の肩書など随分とちっぽけに感じる。


「武器屋のトライデントがあの化物に接触して来るとはな、悪夢の予感しかしないわ~」



武田仁が教師として社会に出る、その途端に世界がザワザワ動き始めた。


「くそっ!情報ダダ漏れじゃねえか!」


今まで上手く隠せてたと思ってたのは錯覚だったのか、誰がリークしている。









ズズズッ、コトリ


「で、トライデントの部長さんは何を考えているのかい」


「あら、耳年増。流石は武田桜さんですね、私の事までご存じとは」


パリン


「まあね、しかしわからないのは何故このタイミングで家に来たのかだね」


「法務省にも人の目は入れています、仁さんの戸籍が怪し過ぎたんですよ、桜さんはご自分がどれほど世界から注目されているのか自覚がお有りで」


「あぁ~っ、私の方かい。もう影響ないと思ってたんだがね、失敗失敗」


現役を退いてもう随分と経つ、今だに自分にこれほどの監視があることに驚く、やはり気が緩んでいるようだ。


ポリポリ、ズズズ


「仁さんの使う魔法と言うのは桜さんから見て、どれほどのものなんです?」


「正直わからないね、何が出来て、何が出来ないのか、全然底が知れないよ」


「……」


パリン


「一度我が社の施設に来ませんか、そこなら色々検証出来ると思いますよ」


「私は興味有るが、仁はどうかねぇ。こっちの世界では魔法が無いのは教えたし、異端であることも自覚はある、もう魔法を使う事には拘ってないようだからね」


「そうですか」


パリン


「じゃあやっぱり、私は仁さんとの子供を作ってみるしかないですね♡」


「何でそうなる?」


「資料映像より実物の方が格好良いんですもの♡それに仁さんがこっちの世界で一生を終えるなら、現実的に結婚は必要ですよ、私なら彼の事情も知ってますし問題ないかと」


「むむっ、確かに仁の事情を知ってるのは大きいね、女子校に放り込んだのは早まったかね」


「あぁ、やっぱりそう言う意図はあったのですね」


ズズズ


「でも、美男美女の間に生まれた子なら、それだけで人生勝ち組ですから、そこは私も譲れませんね♡」


「へぇへぇ、けどもう仁を狙ってる娘は何人かいるよ」


「わかってますよぉ♡」


パリン


「そうそう、仁さんに掛けられた7億の賞金は本社に掛け合って私の物になりました、結婚式の費用にでもあてようと思います♡」


「今どきそんな派手な結婚式は流行んないよ」


ポリポリ


「東京ドーム貸し切ってパァーっとやりましょうか♡」


「それだって1日100万くらいだろ」


「土日だったらもうちょっと高いですけどね」




この2人、世界的にかなり重大な事を話しているのだが、ちゃぶ台の上にある野沢菜の漬物と海苔煎餅、緑茶が雰囲気に合っていなかった。

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