第8話 内海課長

私の名は、警視庁特務部第7課の内海うつみ 隆一りゅういち、仕事上では偽名を使って佐藤と名乗っている、この特務7課の人間は敵の多い職務上全員が偽名を使うのが決まりだ。




4年前、この国に未知なる脅威が襲った。


異世界、魔法、異文明のヒューマンの転移者。


その一報をもらった時は一体何の冗談だと思ったものだ、エイプリルフールか、それがこの日本でも大きな権力を持つ武田家からの知らせでなかったら、それこそ鼻で笑って速攻で電話を切っていた。

この地球上に魔法なる概念は存在していない、古くから超能力のような胡散臭いものは度々TVショーでは登場するが、あんなトリックは実際に何の役にも立ちはしない、スプーン曲げが生活になんの役に立つと言うのか、銃や爆弾の方がよほど人を殺す事ができる、しかし、その異世界から来た人物は魔法などと言う超常の力を使うと言う、殺傷能力、破壊力共に未知数の力を。ゴヂラとか怪獣映画での自衛隊員の気持ちをリアルに想像出来た瞬間である。


幸か不幸か、神の悪戯かその危険人物を保護したのが武田桜、魔法などと言う出鱈目な力に精神的にも技術的にも対抗出来る世界でもトップクラスの剣術家だった、これだけがこの国にとっての幸運と言える。本当に偶然だったのだろうか、力と力が引きつけ合った?



警察、自衛隊、この国の治安を守る組織はこの緊急事態に上に下への大騒ぎだ、働き方改革で残業が減っていた昨今に連日泊まり込みで対応や会議が行われたのは懐かしい思い出だ、独身はこう言う時にこき使われる。パワハラだろこれ。

最終的に警視庁、防衛庁、宮内庁から選抜された人員で警視庁特務部第7課が作られた、そしてその課長になぜか私が選ばれてしまった、42歳のおっさんに何を期待しるんだか。





彼の保護者となった武田桜と話をした事がある。


桜氏が言うには、彼は異世界の魔道国家プラーナの第一魔法師団、その団長であるジーン・ハルトマン。

ある日、その国に来襲したサンダードラゴン、そのドラゴンの吐くブレスの威力は一つの都市を一瞬で壊滅させるほどの威力をもつらしい、そしてそんな化物に対抗するのが魔法師団長ジーン・ハルトマンだった、いや、ドラゴンて、それに対抗出来る時点ですでにそいつも立派な化物でしょ。

ドラゴンのブレスを相殺させるために彼の魔力を放ったら、その激突の衝撃で空間が歪みこの地球に強制転移して来たと言う。


はい、厨二病確定!現実にそんな事が起こるわけがない、その話をするのが武田桜でなかったらその場でそう叫んでいた。

だが大人な私は口をふさいだ、そんなふざけられる雰囲気じゃなかったんだよ、何、あの婆さんの覇気、私も警察で数多くの凶悪犯と対峙してきたけどあれほど迫力ある奴はいなかったぞ。

ジーン・ハルトマンの映像も見せてもらった、まるで手品師のように手からポンポンと火球や水球を出現させたり、婆さんとの剣道の稽古画像だ、どうやらスマホで撮られてるとは思ってなかったらしい。異世界にはスマホはないのだろう。

剣術格闘はこの剣聖婆さんに勝てないまでも戦えるレベル(多分この婆さんに俺は手も足も出ない)、魔法の方は彼の言う事には山一つくらいなら消滅させる事が可能らしい、はは、どう考えても危険人物ですね。



地方都市とは言えここ長野市には約36万人の人間が生活しているのだ、その人々を危険にさらすわけには決して出来ない、首都東京ではなくこの長野に転移したのには何か意味があるのだろうか、偶然かそれとも何か法則があるのか?その辺を考えるのは専門家にまかせよう。

田舎の地方都市だけにまだ世界各国に彼の存在はばれていないが、アメリカや中国に気づかれる可能性はある、偽造・隠蔽のために戸籍まで国で用意したらしい。





「武田仁でしょ、あれはゲロ吐きそうなくらい危険人物よ」


宮内庁のすすめで霊感のある東堂家の長女も紹介された、彼女曰くあんな危険な人物は早く何とかしたほうが良いと凄まれた、あの怯えようはとても印象深いものがあったが、年頃の美少女がゲロ吐くなんて言葉は使わないほうがいいと思うぞおじさんは。

宮内庁にも陰陽師はいるが式神を遠隔操作して監視くらいしか出来ないと言われた、そこは安倍晴明の末裔とか映画みたいな凄い奴はいないのか?そんなのはラノベかドラマの中だけの話、そりゃあそうだよね。





「本当に治したんだな?あぁ、疑ってるわけじゃない、信じているよ」


その日、武田仁を監視していた部下から彼が勤務先の学校で魔法を行使したと連絡があった、野良猫の怪我を治したらしい、生物の怪我の治療まで出来るのか、その事実が世間に広まるのはまずいな、医療業界の常識がひっくりかえるぞ。

やはり一度直接会っておいたほうがよさそうだ、私は特務課の使う建物から彼の勤務する学校に車を走らせた。






「警視庁特務部第7課の佐藤 隆一です」


なるべく平静を装って彼と対面する、東堂の娘のような霊感は私にはない、だが確かに雰囲気があるのはわかる。

警戒は緩めるわけにはいかない、挨拶をしてるだけなのにまるで獰猛な虎の檻に一緒にいれられたように感じる、これが異世界人の力なのか圧が半端なく凄い、冷汗が止まらない。

まさか自分が異世界人とコンタクトを取る事になるとは、人生とは本当に何があるかわかったものではないな、一応当たり障りのない挨拶は出来た自覚はあるが相手は異世界人、こちらの常識は通じたか?



後で部下の報告を受けたが、彼は私と別れた後に時速70kmのスピードで自転車を走らせて帰路についたらしい、時速70kmで鼻歌まじりって身体強化も使えるのか…やはり彼は危険だ、敵に回すべきではない。








シャクッ!


「うまっ!サクラ様このスイカ凄く甘くてうまいです!」


「そうだろ、今年のは特に出来が良かったからね」


シャクシャクッ!


「うぅ、地球の野菜は本当に美味しいです!ずるいです!」


「いちいち泣くんじゃないよ、あんたの国の野菜はそんなに美味しくないんかい?」


武田家では平和な空気が流れていた。

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