第7話 とばっちり?

コツコツコツ


カリカリ、カリカリ


「は~い後5分です、しかっり見直してくださいね」


静かな教室、小テストでクラスの中をゆっくり歩き回る、テスト中だが生徒によって挑み方が違うのが見てて面白い、最初の10分で早々に終わらして机に突っ伏して寝てしまう生徒、ひたすら鉛筆を転がして頭を傾げる生徒、テストそっちのけでイラスト?いや漫画を描いている生徒、ん、そのキャラは私ですか?そんなに美化したら誰だかわからないでしょう。とりあえず注意しておきますか。


コツコツコツ


ふと、窓の外に視線を感じて校庭に目を向けると、一人の生徒と目が合った、体育の授業中か。


「あれは確か生徒会長の…」


東堂さんは何でいつも私を睨んでるんですかね、私何かしましたか?


キンコ~ン、カランコロ~ン♪


「では後から前の人に渡してきてください、ご苦労様でした」








担任である仁が居なくなった瞬間、教室の空気が弛緩する、各々おのおのが集まってだべり出した。


「おわったぁ〜」


「うひぃ~、全然わかんなかったぁ、もう最悪ぅ」


「ねぇ、今日テストなんて言ってたっけ?」


「仁先生居るのによく漫画なんて描けるねぇ、あんた」


「いや、逆に見てもらってアピールしとこうかと、私の愛よ届けと」


「仁先生、苦笑いしてたじゃん」


「えっ、うそ!」


「そう言えば仁先生、最後校庭見て笑ってなかった?」


「あ~、生徒会長って呟いてたな」


「仁先生と生徒会長?知り合いなのかな?」


「「「さぁ?」」」








キュキュ、クルッ


今日の授業が終わりテストの採点をしていると、職員室を訪れる生徒がいた。

あれは隣のクラスの平和島さんだったかな、何の用だろう?

平和島さんは私の向かいの席をチラっと見る。


「あの、仁先生。大村先生は?」


あー、大村先生か、今日は結婚記念日だからって早く帰っちゃたんだよなぁ、どうしようか。


「あぁ、大村先生なら今日は用事があるとかで早く帰られましたよ」


「そうなんですか、う~ん」


「大村先生に何か用事だったんですか」


「いえ、今日の授業でちょっとわからない所があったので大村先生に質問を」


あら、真面目な娘。


「平和島さんさえよろしければ、私が教えましょうか」


「え、でも化学の問題ですよ」


「多分、高校の問題なら大丈夫だと思いますよ、まぁ、お座りください」


ポンポンと隣の席を叩く。


「ここなんですけど」


「あぁ、これなら……」





「だからこれは沸点の差を利用して分別蒸留すれば分離できるんですよ」


「あぁ、なるほど。仁先生教えるの上手いですね、化学の教師でもいけますよ、凄くわかりやすい♪」


隣り合って座る私と平和島さん、彼女は問題が解決したのがうれしいのかニコニコと私に身を寄せてくる、そんなに近づかなくても聞こえますよね。


「本職の大村先生ほどではないですから、それよりお役に立ててなによりです」





「仁先生、ありがとうございました。またわからなくなったら仁先生に聞きにきます!」


「どういたしまして。でも今度は大村先生に聞いてくださいね」


平和島さんは笑顔で帰って行った、わからない問題をわざわざ職員室に聞きに来るなんて本当に真面目な娘だな、感心感心。


「さ〜て、採点の続きをやってしまいますか」







「うわぁ、結構遅くなっちゃったな、真っ暗だ」


採点とファイルの整理をしていたらついつい遅くなってしまった、もう陽も沈んですっかり暗くなっている。

慌ててもう帰ろうと駐輪場に向かえば私の自転車の前に誰かが立っているのが見えた。

この暑いのにネクタイにスーツ姿?何者だ、用心の為に身体に魔力を流しておく。


「遅かったですね武田仁さん、仕事熱心なのは感心ですが、最初のうちから無理はいけませんよ、それではお仕事は長続きしない」


「あなたは?」


「失礼、申し遅れました、警視庁特務部第7課の佐藤 隆一です、佐藤は偽名ですがお許しください」


「偽名?警察の方ですか、私に何の御用ですか?」


警察って確かこの国の警備部隊の事だよな、そんな組織の人間がなぜ私に?


「いえ、今日はご挨拶でうかがったまでです、なんせあの武田桜氏が養子にした人物が、教師なんて一般の仕事をし始めたなどと部下から報告があったものですから」


「はぁ、それはご苦労様です」


ん、問題はサクラ様のほうか、サクラ様ってこの国では重要人物なの?聞いてないんですけど!


「まぁ、何か困った事が起きましたら私に是非ご連絡ください、きっとお力になれると思います。あ、これ、名刺です」


差し出された名刺を受け取る、この人結構鍛えてるな、歩き方や動きに無駄がない。

それに物腰は柔らかいけど眼鏡の奥の目が笑ってない、気をつけた方がいい人物だな。


「いやぁ、見に来て良かったです、やはり本人を見ないと書類だけじゃ判断がつかない事がありますからねぇ、では、今日の所はこれでおいとまします」


ヒラヒラと手を振って近くに停めてあった黒い自動車に乗って去って行く、佐藤なる人物。






「本当に挨拶しに来ただけなんだ…、さて、早く帰ろう、あまり遅くなると冷蔵後で冷やしてるスイカをサクラ様に食べられてしまう」


私は身体強化に魔力を流したままの状態で自転車のペダルを回した、軽ッ!あ、これ楽かも。

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