第6話 女の勘

女子高生と言うものは朝から元気だ、HRを前に噂話に花を咲かせていた。


「ねえ、仁先生ってさぁ」


「あん?」


「日本人じゃ無いのかな」


「ん、武田って苗字だし、日本人じゃね、日系だったらカタカナつくし」


「バッテン荒川とか?」


「それ、ばってんひらがなだし」


「じゃ、ベンジャミン伊東とか?」


「それ、伊東四郎だし、何歳よあんた。で、なんの話だっけ」


「いや、この前コンビニで会ったって言ったでしょ、今になってみると仁先生ってコンビニ知らなかったんじゃ無いかな」


「は?」


「最初はあの店自体が初めてって意味かと思ったんだけど、ノートなんてどのコンビニでだって売ってるでしょ」


「そらね〜」


「で、今どき25歳になってもコンビニ行った事の無い日本人って、いるのかなって思ったわけよ」


「なんか特殊な環境で育った、とか?」


「特殊って?」


「う〜ん、コンビニの無い世界線からやって来た異世界人、とか?」


「SFかよ!」


そこにすかさず華子が口を挟んで来る。


「SFだったら、私の盲腸も先生が超能力で治した可能性もあるんじゃない!じゃない!」


「「無い無い」」


「ええ〜、そうかな〜」





ガラガラ


「は〜い!HR始めます、皆さん席についてください」



「あ、仁先生来た!」


私が教壇に立つと三国さんが私の前にトコトコ近寄って来た、ああ先日は色々教えて頂いてありがとうございました。


「ねぇねぇ、仁先生ってどこの出身ですか?」


「いきなりなんですか三国さん、その質問は?」


「いや、武田って苗字だから〜、武田信玄なんかがご先祖様とか?」


「ほぉ、良く分かりましたね、家は信玄の血を引く家系なので甲斐、今の山梨県が出身の設定ですよ」


「当てずっぽうだったんだけどマジで武田信玄!超有名人じゃん、じゃあ日本人かぁ。ん…設定?」


私の言葉に三国さんが最後に首を傾げる。


「いえ、小さい頃に引っ越したので…、それより出席を取りますよ席についてください」


「は〜い」




仁は出席をとりながら考えていた。


ふむ、何か私に違和感があったのでしょうか?それにしても日本語は使い方が難しいですね、サクラ様からはなるべく日本人らしく生活するように言われてますから異世界人と気づかれないようにしないと。


そう言いながらも歓迎会の飲み会で魔法使って手品やっちゃってますけど。反省。











生徒会長3-A 東堂 理香子りかこ


ゾクリ


廊下を歩いていると急に冷や汗が出た、何よこの魔力は。


「くっ、近くに居るのね、あの化物が」





初めてあの男を桜様に紹介された時、あまりの禍々しい魔力に思わず吐きそうになった。けれど憧れの桜様の手前だったので必死で吐き気に耐えた、あんな場で無様にケロケロするなんて東堂の名が許さない。


「この男をあんたの通う高校の教師にするよ、ちょっと常識知らずなんであんたも気にかけてやってくれ」


「…桜様、この男、……大丈夫なんですか?」


「はは、大丈夫だよ別に取って食いやしないよ、なんか変な力は有るけどね」



「わかりました、私が在学中はキッチリと監視致します」


「はは、監視って言われてるよ、嫌われたねぇ仁」


「別に危険なつもりは無いんですがね」


仁と紹介された男はわざとらしく首を傾げる、本当にわざとらしい。






東堂の血を引くせいか私は幼い頃から魔の力を感じる事が出来た、そのおかげで要らない苦労も多かったが、これも東堂家の運命さだめだ受け入れよう。

その私が近くにいるだけで吐き気を催す化物、武田仁。4年前に桜様に拾われた素性の知れない男、ちゃっかり桜様を味方につける狡猾な男、どう考えてもあの膨大な魔力は人間じゃない、桜様くらいの武力をもってなくては対抗出来ない危険な男。


生徒会長としてこの小さな学校一つの平和くらい保てなくて何が東堂家か、今の所怪しい行動はとっていないようだが決して油断は出来ない、やはり他の家にも協力を要請しておいた方がいいかも知れないな。

スマホのアドレスに並ぶ名前をそっと確認する。








同時刻、武田仁。



「ニァ〜」


体育館から職員室に戻ろうと渡り廊下を歩いていると、ニァ〜と子猫のか細い声が聞こえた。

キョロキョロと辺りを見渡せば植木の下でぐったりしている三毛猫の子猫がいた、私が近寄っても逃げる気力もないのかニァ〜とか細く鳴くだけだ。


「どうしたのですか、喧嘩でもしたのですか?」


しゃがみこんで話しかける、喧嘩でもしたのか額の所を引っ掻かれて血が出ている、大きな親猫だったら大丈夫だろうがこの子猫では傷が悪化したら化膿して危ないかな。

手を伸ばして抱き上げる。


「決してあなたのために治すわけじゃありませんからね、治癒魔法の実験ですからね」


誰に対しての言い訳だ、独り言のように呟く、一見すればただの猫バカだ。

抱き上げた腕から子猫の状態イメージとして頭に流れ込んで来る、やっぱり前よりイメージが鮮明だ、これなら。

手に集めた魔力を子猫にゆっくりと流して行く、傷口がうっすら光るとみるみる塞がっていく。


シュワワワ


「良し!病気でも怪我でも大丈夫だな、ほれ、もういいぞ」


抱いていた子猫を下ろしてやる、もう痛くは無いだろうがあまり喧嘩はするなよ。


「ニャ〜」


三毛猫は私の足元に擦り寄ると一鳴きして草むらに走って消えて行った。

私はその姿を見送ると今度こそ職員室に向かって歩き出した。





ガサッ


「う〜ん、子猫に話しかける仁先生、絵になるねぇ〜」

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