第19話 課長と主任
「課長!」
署でPCをいじっている内海に青田が話しかけて来た。
「外務から連絡が来ました。イワンと元米国国家安全保障局 (NSA)のギルバートは
「ありゃあ、これまた見事な尻尾切りだねぇ、可哀想に」
両者共に国家から指令が下っての事なのは間違いない筈だが、
「しかたないですよ、まだ国家間の問題に出来る段階ではないですから」
そりゃ、異世界が本当にあって、あんな化物が異世界から次々と現れる可能性もあるんだ、各国のお偉いさんが警戒するのは当然だ、けどまだこっちに来たのは1人だけ、それも偶然ぽいしどう接するかは判断が難しい所だ、アメリカもロシアも排除を考えたようだが彼には相手にもされていない、これが人口の多い東京で行われていたなら全力で阻止するが、地方都市一つ危険に晒すだけで日本に有利に事を運べるとなれば試す価値は充分あった。
危険な考え方だ。
「いっそのこと大々的に発表しちゃえばいいのに」
青田が疲れた口調で語る。
「はは、出来るわけがない、実は宇宙人がいましたと言うようなもんだ、世界中がパニックだよそんなことしたら」
「ですよね〜、はぁ」
青田がため息をつく、こいつも相当溜まってんな、週末無理やりにでも休ませるか、休みたいのはコッチも一緒だがな。
PCのモニターで決裁書類の内容を確認するとパスワードを打ち込んでOKをワンクリック。
椅子の背もたれに体重をかければギシリと音が鳴る、あぁ〜、煙草吸いてぇ〜。
非常階段下、1人喫煙所でハイライトの紫煙を
先日の防犯講習に潜り込んだ時の事を思い出す、こっちはあれだけ殺気を放っていたのにあの化物は平気で涼しい顔をしていた、あれぐらいでは平気なほど危険な生活を今まで送ってきたのだろうか?
脅しもきかない相手は対処が難しい、動揺した隙を狙うことができないからだ、銃弾や刃物が駄目ならガスとかはどうかな?あぁ、でもバリアみたいな物があるんだっけ。
「あっちいな〜、くそっ!」
照りつける日差しに思考を遮られる、いっそのこと仲良くなるのは有りだろうかなどとアホな考えが頭に浮かぶ、熱中症かな?早くエアコンの効いた部屋に戻ろう。
「課長ぉ!」
ちょうど、非常階段の上で青田が呼んでいる、また何かあったのか。
「おう、今行く!」
まったく、おっさんをこき使うなよな。あぁ〜、キンキンに冷たいビール飲みてぇ!
長野市篠ノ井のアパートの1室。
学年主任の児島鈴子 (27)と養護教諭の李 蓮花 (25)が2人でビールを飲んでいた。
蓮花の奢りで高級中華を食べて以来、なぜか2人はこうして自宅飲みをするような仲になった。流石は1人当たり4万の高級中華料理、効果は抜群だ。
「かんぱーーい!」
「何に!」
「人生に」
「何かいい事あった?」
蓮花の乾杯の音頭に児島が突っ込むが意味がわからなかった、やはり中国人だけに日本人の感覚とは違うのだろう、児島の狙っている仁もどこかそう言うズレみたいなものを感じる事があるが、何だろうか?首を傾げる。
グビ、グビ、グビ
「ぷはぁ!いやぁ、日本のビールはやっぱ美味しいね!」
「あんたのそれ、プレモルだからよ」
児島はいつもは第3のビールを飲んでいるが、先輩としての見栄で奮発したのだ。
「あら、この生ハム美味しいわね」
「金華ハムよ」(結構お高い)
蓮花の持ってきた料理もあり、酒杯も止まることなく進んでいる。
グビリ
「それにしても、仁先生って何者なんだろうね?」
「確かにね、あの強さは驚くわよね」
「強さ?」
「ほら、この前の防犯講習で最後」
「あぁ、あれね。うん、あれは格好良かったなぁ」
「そういうレベルじゃないんだけどね」
「だって、あんなに格好よくて性格も良いんだよ、それに話やすいし、優しいし、手品凄いし」
「手品?」
児島が缶ビール片手にうっとりとした顔で語り出す、仁が学校に来てから人生の潤いが違うのだ。あぁ、それで最初のカンパイに戻るのか。
「でも仁様、生徒達にも人気あるよねぇ」
「人気あるのは当たり前よ、だってカッコ良いんだもん!」
27歳の女教師がちょっと馬鹿っぽい。
「1年から3年合同でファンクラブ作るって噂もあるよ」
「ふん、あんな小娘共に負けるもんですか、私の大人の魅力でイチコロよ!ハッハー」
勢い良く立ち上がり拳を掲げる児島。ちょっと酔ってる。
それに対してパチパチと手を叩く蓮花だが、生徒達に児島ちゃんなどと言われ舐められている童顔の児島に大人の魅力は感じない。
むしろ大人の魅力だったら蓮花の方がよっぽどある。
「よっ、ベビーフェイス!可愛いぞ児島ちゃ〜ん!」
本当に仲良いなこいつら、明日も学校なんだから飲み過ぎるなよ。
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