第11話 狙い撃ち

ジリジリと肌を焼く灼熱の太陽。

近年では避暑地と言われていた長野でも、30°を軽く超える暑い日が続いている、もう南極の氷がいつ溶け出しても不思議じゃない、ビバ地球温暖化。

そんなクソ暑いなかでも、高校生は授業と言う名の拷問を毎日のように受けなくてはならないのだ。

南側の窓は全開にされているが今日は風があまり無い、その窓から見える皆神山からは蝉の悲鳴がミンミンと煩く聞こえてきて余計に暑苦しい。



教壇の前に立ち手に持った教科書をチラリと見る。


「はい、ではこの問題を…三国さん」


「げっ、私ぃ!え〜っと」


ターーーーーーーーンッ  


パシュン


「ん?今の音は」


「どうしました、三国さん?問題の答えは?」



「わかりましぇん!」


「三国さん、もう座っていいでですよ、良いですかここは…」


三国がガックリと椅子に腰を下ろすと隣の席の桐生がニヤニヤと肘でつついてくる。


「うぅ、仁先生の前で恥書いたぁ」


「はは、三国は頭サルだからなぁ」



「ねぇ、さっき先生の辺で変な音しなかった?パシュンって」


「くしゃみ?」


「それならクシュンでしょ」





ん、防御結界が反応したな、なんか飛んで来たぞ、弓矢ででも狙われたか?

ポケットの中で結界に取り込まれた物を確認する、私の使う防御結界は触れた物を別空間に転移させてしまうものだ、ポケットの中に繋がった空間で指先に何かが当たる、小さいな、鉄の球?

こっちの世界の銃とか言うものの弾だな、狙撃されたのか、なぜ私が狙われているのだ?別に何も悪い事してないぞ。


はっ、もしやこの前畑の歩道に伸びてた枝についていた白桃を食べたのがバレ……うむむむ。あれは歩道にまで伸びた枝が悪いと思う。


「仁先生、どうかしたの?」


生徒に注意される、いかんいかん、ちょっと考え込んでしまった。今はお仕事の時間、授業に集中しなくては。でも、とりあえず狙撃位置くらいは探っておくか。

詠唱なしの探索魔法、魔力を飛ばして自分に敵意を持つ者を探る。


「あれ?」


ミスったのか、なんか学校の周りにいくつも反応がある……幸い反応は青だから脅威は低そうだけど、私ってそんなにこっちの世界で恨まれてるのか?ちょっとショックなんだけど。


キンコ〜ン、カラ〜ン、コロ〜ン♪


「はい、では今日はここまで。お疲れ様です」


「「「ありがとうございました〜!」」」










コトリ


机の上に先ほどの単四電池くらいのちょっと細長い鉄の塊を置く。探索魔法をかけ直したが、やはり複数の反応がある、ん、ちょっと遠いが何人か集まっている場所があるな。


「あれ、武田先生それは?」


大村先生も授業が終わって職員室に戻って来た、私の机の上にある弾が目についたようだ。


「ライフルの弾ですか?未使用、いやサイドにライフリングの跡がついてるから使用した?でもどこも潰れてませんね」


「ライフル?拳銃じゃなくて」


「ええ、ライフルは拳銃の凄い奴です、ほら形が細長いでしょ、拳銃の弾はずんぐりしててもっと短いんですよ」


大村先生詳しいな。


「へぇ、そうなんですか。いや今朝学校に来る道で拾ったんですけど、何かなって思ってたんですよ」


「道で?」


とっさについた嘘に大村先生が首を傾げる、あ、道に落ちてるような物じゃないのか。


「いや、僕は昔サバイバルゲームとかにはまった時期があって銃には詳しいんですが、この弾って5.56x45mm NATO弾なんですけど、使用された弾がこんな完璧な形のままってとても珍しいんですよ!それが道端で…」


大村先生が手に取ってまじまじと弾を見つめて語り出す、兵器が好きなのかな、あげたら喜ぶかな。


「拾った物ですけど、よろしかったら差し上げますよ」


「えっ、本当に!いいの!いや〜催促したみたいで悪いですね」


「いえいえ、大村先生みたいに価値がわかる人の方が持っているべきでしょうから」



大村先生がニコニコしながら弾をスマートフォンで撮影している、よっぽど気にいったらしい。

そう言えば日本は銃を持つのは禁止されてる国じゃないのか、そんな珍しい銃でわざわざ狙われる理由が思いつかない、今度誰か一人捕まえて聞いてみるか。









パクッ


「うん、このナスの揚げびたし旨い!」


口の中でとろけるナスを味わっていると、向かいで日本酒を飲んでいたサクラ様が呆れ顔で口を開いた。

夕飯を食べながら今日の事を話していたのだ。


「ライフルで狙撃ってのは物騒だね、本当に怪我はないんだね」


「いつも防御結界はってるから、あんな小さい鉄の球くらいは別に平気ですよ、うん、オクラの浅漬けも旨い!」


ライフルの弾よりよっぽど大きい、緑鮮やかななオクラを口に放りこむ、このぬめりが実に良い。


「仁にとっては拳銃はそんなもんなんだね、それにしちゃあ私の刀は避けるじゃないか」


「えっ、サクラ様の剣は避けなきゃ斬られちゃうじゃないですか」


「?、寸止めくらい出来るよ、馬鹿にするな」


「あの速さで止めれるんですか…?」


あのスピードで振る剣を完璧にコントロールしてるって事だよね、夏なのに背筋が寒くなる。うむ、遠くから飛んでくるちっちゃな鉄の球より、サクラ様の剣のほうがよっぽど危ないのはわかった。サクラ様には絶対に逆らわない。

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