女の園 ~異世界の魔法使いが女子校で教師になります~

R884

第1話 拾われる男

その日、大陸でも最大勢力を誇る魔導国家プラーナの地を災害級に認定されているサンダードラゴンが襲った。

対するは魔道国家プラーナの武力の象徴、第一魔法師団。

その団長であるジーン・ハルトマン。その小さな人の身を巨大なサンダードラゴンの前に臆する事なくさらす。

若くして天童と呼ばれ魔法師団の団長に上り詰めた天才魔道士、ドラゴンにも対抗出来る爆裂魔法を撃てる唯一の人物として最前線に立つジーン・ハルトマン。


その結果、彼はこの世界から消滅した。





サンダードラゴンの雷を帯びたブレスが放たれようとしている。

その威力はジーンどころかその後の都市ごと消滅させる力を持つだろう、バチバチと帯電する巨躯を震わせ、その大きな口を開いた。





グオギャゴォーーーーーーッ!!ブゴウッ バチバチバチィバチ



「くっ、防御結界を張るのは間に合わないか、奴のブレスに爆裂魔法をぶつけて相殺させる!」


「エクスプ…「師団長ォーーーッ!!」」


バシュウウウウ、スガゴゴッーーーーウ!!


ドラゴンのブレスと私の魔力がぶつかり弾けた、衝撃が来る。


キュアアアァアアァアアアアァーーーーーーーーーーーーーーン、バチィ



私がこの世界で見た最後の光景は、視界一面を覆い尽くす真っ白な光の世界だった。













クァーッ、クァーッ、クァーーッ!


「ん、なんじゃあやつは?どうやってあんな木の上に?」


裏の林、カラスが煩く騒いでいたので外に出て見上げてみれば若い男が木の枝にひかっかかていた。

ひとつ納得したように頷くと踵を返して来た道を戻る、家に戻り脚立かはしごでも取りに行ったかと思えば、手にしていたのは朱鞘に収まった立派な日本刀だった。


「ちょっと荒っぽいが、怪我もしてるみたいだし急がないといかんね」


コンコン


「この辺りか、よっこいしょい!」


スパァーン


ズズズズ、ズザァァァァン!


鋭い太刀筋を斜めに入れると音をたてて倒れる大木、いや婆さん何者だい?

大木の上、枝に引っかかってた若者が草むらにボトリと落ちる、確かに脚立や梯子では届かなかった高さだが、だからと言って斬って落とすのもどうかと思われる、せめて人を呼べ。


「……うぅ」


「なんだい、またけったいな格好をしているね、なんかのアニメのコスプレってやつかい」


そう言うと婆さんは血塗れの男のローブを掴むと引きずりながら家に向かった、拾った以上は手当ぐらいはせねばなるまい。







「ん、ん…。こ、ここは」


見知らぬ天井、ベッドじゃなく床に寝かされているが柔らかい布団はかけられている。

あのサンダードラゴンの攻撃を喰らってまだ生きているのか私は?


「おや?気がついたのかい」


壁のようなドビラが横にスーっと開くと、何やらおかしな服を着た婆さんが声をかけて来た。


「随分と傷だらけだったが、山で熊にでも襲われたのかい」


腕や体を見ればあちこちに包帯が巻かれていた、この婆さんが手当してくれたのか?


「……?」


婆さんが何か喋っているのだが、訛りがひどくて聞き取りずらい、多分東の国の言葉だ、部下の一人が同じような東の言葉を喋っていたのを覚えている。うろ覚えの言葉で話してみる。


「あ〜…ここ、ドコ、ダレ、イツ」


「ん、外人さんだったのかい、容姿から日本人かと思ってたんだが、それじゃ着ていた服は民族衣装かなにかかね?」


「ユックリ、キコエナイ」


「ああ、悪いね。日本語になれてないんだね、ゆっくり喋るね」


私の国の言葉じゃないから、早口だと聞き取りづらい、東国なのかここは?


「ここは長野市松代だよ、おまえさん5日も寝てたんだよ」


「ナ、ガノ、5…」


どこだそれは?それにもう5日も経っているのか。


「そう、お前さんはどこの生まれだい?」


「hdsfkjbd;dfく(プラーナ)」


「プ、プルゥ?聞いたことない国だね、南国かい?」


私の母国語で国名を言うがわからないらしい、ここが東国だったらプラーナの事がわからないはずがない。

言葉は似てるが東国語じゃない、まさか、あのドラゴンのブレスの衝撃で私は異国に飛ばされたのか。


「まぁ、あたしん家の木に引っかかってたのも何かの縁だ、傷が治るまでは家でゆっくりしてきな、あぁ、こういうのは警察には知らせた方がいいのかね」


「ケイ、サツ?」


婆さんが私を観察するようにじっと見つめてくる。


「……まぁ、急ぐこともないか、とりあえず今は寝て休みな、まずはそこからだよ」







パタン

トゥルルルルル


「あ、私だよ、ちょっと相談したい事があるんだが」

















ミーン、ミーン、ミーン


「サクラ様、トマト赤くなってから採って来たぞ」


「うん、良い色だね、井戸でバケツに水汲んで冷やしておきな、晩飯に食べよう」


「はいよ」


私がこの国に飛ばされて来てから早くも4年が過ぎた、結局、私の国プラーナはこの地球と言う星には存在しなかった、そして元々本国では魔道士として第一師団長を務めていた私の力はこの異国の地では、まるで通用しなかった、この婆さん、サクラ様が振る棒切れすら避ける事が出来ないのだ、格闘にも自信があっただけに正直ショックだった、この国の人間はこんな年寄りでもこんなに強いのか?

この国の知識を得るために県立図書館という本がいっぱい有る場所に毎日のように通った、幸いな事に言葉や文字は東國のものによく似ていたので覚えやすかった、もしかすると東国の祖先はこの国から転移してきた者なのかもしれない。

魔法がない国だからか科学と言う変な文化がある国だとわかった、実に面白かったので図書館の本をかたっぱしから読みまくった、おかげで勉強になったし図書館の司書さんとは随分と仲良くなった。




シャクリ


「うん、やっぱりこの国の野菜は凄く美味いです」


「あんたの国ではトマトはないんかい?」


この国の野菜はプラーナ国と違って実に甘くて瑞々しい、まるで高級なフルーツのようだ、あっちの野菜はどれも苦いかすっぱいのだ。なぜだ、土が違うのだろうか?




その晩、サクラ様とテーブルを挟んで飯を食っていた時だった、サクラ様が食後のお茶をテーブルにコトリと置くと1枚の紙をコチラに向けて渡してきた。


「ジーン、ようやくあんたの戸籍が用意出来たよ、これで晴れてあんたは私の子だ、これからは武田仁たけだじんって名乗りな」



「あ、サクラ様…あ、ありがとうございます」


思わず畳に手をついて頭を下げる。ポタリと畳に水滴が落ちた。


「な、泣くんじゃないよ、男のくせに」


どこの国の人間かもわからなかった私にサクラ様は知り合いの役人に頼んでこの国の戸籍と言うものを用意してくれた、養子というものらしい、こんなどこの骨ともわからん人物にとても親切にしてもらい、涙が出るほどありがたい。それにしても国の役人に顔が効くサクラ様って何者なのか?こんな森の中で一人で暮らしてるような婆さんなのに。



「でだ、家の子になった以上、あんたにも金を稼いでもらわなくちゃならないね、武田家の家訓は働かざる者食うべからずだよ」


「はぁ?」


こっちに来てからずっとお世話になってるのだ、当然恩返しはしないといけないと思ってはいるが……。


「私の知り合いの学校で産休で教師が足りないらしいんだ、あんたやってみな」


私はサクラ様の紹介でなぜか学校の教師をやる事になった、まぁ知識はこの4年で充分に身につけたしなんとかなるだろう、けどサクラ様、産休ってなんです?この国の制度?へぇ~。

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