第10話 採集は続く
「ん、こっちは」
マイタケのあった場所から10メートルほどのところにいがいがが特徴的なクリの木があった。
緑色のいがいがが多いけど、地面に成熟した茶色のいがも落ちている。
いがの中にはクリが入っているものもあったので、採集してリュックに詰め込む。
クリは保管もきくし、すり潰しても使える優秀な食材だ。
野山を探索すると何のかんので食べられるものが見つかるのは、これまでの経験で何となく学んでいた。
「お、こっちは野草じゃないか」
ほうれん草に似た味がする野草を発見。
こっちはヨモギか。マイタケを中心に食べられる食材が固まっているとは。
肉と違って植物は長期保管できるものが多い。野草でも肉より断然長持ちするからな。
ホクホク気分で、せっせと採集をしていると大きなリュックが八割くらい詰まってきた。
「はっは」
「クーンの好きな果物も探してみようか」
彼に乗って進むなら行動範囲が格段に広くなる。ハクの家から数十キロ圏内なら散歩と言えるほどに。
これだけ広範囲に探索できるなら何らかの果物は見つかるだろ。
高台からなら探しやすいかと思って、周囲が見渡せる崖の上まで登って来た。切り立った崖の上でクーンがいなきゃ登る気にはならかなった場所だ。
下を見るとクラクラきそうな高さだけど、今なら20メートルやそこら転がり落ちても平気な自信があるので特に怖さは感じない。
「いい眺めだなー」
クーンに乗ったまま眼科に広がる緑を見渡す。遠くに小指ほどの大きさで虹が見えた。
豆粒のように見える木々の中から果物の成ったものを発見することは通常不可能だ。
もちろん、望遠鏡なんて高価なものは持ち合わせていない。だがしかし、俺にはクーンによって本来の力を発揮できるようになった付与術がある。
「発動。イーグルアイ」
カシャカシャカシャとカメラのズーム機能を動かすように視界が拡大縮小できるようになった。
さきほどまで豆粒ほどに見えた木々の葉まで見ることができる。
ん、お。
あれってオレンジじゃないかな。
野生のオレンジとは珍しい。他にはよく見る野イチゴなども発見できた。
「見つけたよ。ん」
オレンジの位置はしっかり記憶したのだが、空をかける鳥の群れが目に映る。
弓、あれ、弓がないぞ。まさか持ってくるのを忘れたとは、なんたることだ……。
狩の基本は弓だってのに。本職のアーチャーに比べればしょっぱい腕前だけど、鳥を射るくらいならできる。
投げナイフなら緊急用に持っている……というか常に腰ベルトに装着しているので忘れることがない。
あ、そうだ。
腰に巻いたロープと投げナイフがあればいけるはず。俺のそのままの身体能力じゃ無理だけど、付与術があればきっと。
イーグルアイの効果で空を飛ぶ鳥の位置も正確に把握できる。
「発動。ハイ・ストレングス」
筋力強化系のストレングスは三段階種類があるんだ。ストレングス、ハイ・ストレングス、そしてお馴染みのアルティメット・ストレングスになる。
アルティメット・ストレングスにしなかったのは力加減が難しいと思ったんだよね。昨日のアルティメットの性能からして全力で投げて鳥が粉々になると困る。
高台の上を悠々と飛翔する鳥の群れ。
今の俺には鳥の動きがコマ送りのように見える。
狙いをつけ、ロープを結んだナイフを力いっぱい投げた。
シュン。
風を切る音がし、普段の俺ではとてもじゃないが届かない上空にいる鳥の一羽へナイフが突き刺さる。
当たったと喜ぶのはまだ早い。釣り竿を引っ張るように投げナイフに結んだロープを引っ張った。
「うお」
ナイフが突き刺さった鳥ごとあらぬ方向へ飛んでいく。
あわれナイフと鳥は崖下に落ちていってしまった。さすがにこれだけ振り回したら突き刺さった鳥はもはや無事ではないだろう。
崖を下ろうとしたクーンの首をぽんぽんして彼の動きを止める。
「もう一回挑戦すればいいだけだから。鳥は他の何かがおいしく頂くからね」
弱肉強食の大自然で新鮮な肉が転がっていたら、すぐさま何かが食べるだろうからね。
ん、ロープを引っ張ったら抵抗が。
ハイ・ストレングス状態の俺にとってこの程度の引っ張りなんのことはねえぜ!
ふんぬ、と力を込めると問題なくロープを引くことができた。ここでしまったと思ったがもう遅い。
岩か何かに引っかかっていた場合、力任せに引っ張るとロープが切れ、ナイフとお別れになってしまうじゃないか。
しかし、既に引っ張ってしまった。
ロープと共にドシンと目の前に落ちてきたのは牙の生えたイノシシっぽい動物だったのだ。
「ビックリした。こいつキラーボアじゃないか」
キラーボアは動物じゃなくて魔物の一種に数えられる。イノシシより一回りくらい大きく、イノシシとの違いは鋭い牙と額から生えた角だ。
何でも貪欲に食べる食いしん坊な魔物で、人間だろうが芋だろうが見つけたら食べる。常に腹をすかしているようで、遭遇したら必ず襲ってきたな……。
肉はおいしい。
鳥を狩ろうとしたらキラーボアを狩猟した。完全なる棚からぼたもちだけど、肉をゲットしたからそれで良し。
「もう持ちきれないし、戻ろうか」
「わおん」
クーンが駆け、あっという間にハクの家の前まで戻って来た。
まだお昼前だったが、動き回ったクーンは腹ペコらしく、まずは食事の準備をすることに。
「オレンジをとってから家作りをしたいな」
「はっは」
解体用のナイフに付与術をかけ、あっという間にキラーボアを解体することができた。
肉を焼き、クーンに与えてからキラーボアの腹に野草をつめてから調理する。
クーンに与えた肉の一部(太もも部分)が無い丸焼きという豪快料理だ。野草が香草代わりになって中々の味になるんだぞ。
夜にはクーンにもこれを食べてもらうことにしよう。俺は昼も夜も食べるつもりだ。
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