第14話 苦い……
「ぐ……これはきっつい」
煎じて飲むとかそのままじゃ無理だろこれ。
飲むのじゃなく丸薬にするとかしないと、味が……きつすぎる。付与術師の座学には薬草学やら錬金術はなかった。
のだけど、冒険者をやっていくうえで薬草知識は必要だと思って多少は齧ったんだ。冒険者になってからは採集クエストなり、実物を仲間や自分に使ったりで実践的な知識を学びはした。
すり潰したり煎じたりくらいはできるけど、丸薬の作り方とかはもちろん、薬草を元にしたポーションの作り方といった錬金術分野のことはまるで分らない。
ここまで来ると専門的な知識と技術が必要になって来る。素人がおいそれと手を出せる分野ではないんだよな。
「丸薬くらいならなんとかなるんじゃね」
ぎゅっと圧縮するだけだよな? うーん、どうもそういうんじゃない気がするのだが……。
丸薬ではなく前世で風邪を引いた時に飲んだ錠剤から推測してみるか。
……。
…………。
余計分からなくなった。
待て待て。ここまで引っ張っておいてこのまま引き下がるわかにはいかぬぞ。
一体俺は何と戦ってんだ。
「わおん」
「びっくりした」
集中していたのでクーンが目と鼻の先にいることに気が付かなかった。
驚いたことでふと俺の脳裏にひらめきが走る。
そうだ。成分だよ。薬効成分を抽出して固めるんだ。
海水を鍋でぐつぐつ煮ると塩分が濃くなるように、薬効成分だけを濃縮すれば少ない量でより多くの薬効成分を摂取できる。
じゃあ、どうやって抽出するのだと聞かれても分からないのだけどね。
すっきりしたので一旦はこれで良し。
「分かったところで状況はかわらん。これじゃあ、ハクに試してもらうわけにはいかないよな」
「何?」
「うお」
「ん?」
またしても気が付かなかったぞ。俺とクーンの間にハクが立っていた。
元々俺とクーンは至近距離にいたのだけど、その間となるともはやおしくらまんじゅう直前である。
ん? と背伸びした彼女の頭を顎を引き当たらないように躱す。
すぐに元の体勢に戻った彼女は先ほど俺が味見した鍋に入った薬草を煮込んだ何かをじっと見つめる。
「それは失敗作だよ」
「ハクに?」
「そうだったんだけど、ちょ」
「ん」
煮込んでから時間がたっているから熱湯ではないので鍋に触れる分には問題ないのだが、あろうことに彼女は鍋を口につけた!
コクコクと彼女の喉が動く。そ、そんな一気に飲んだら蒸せるぞ。
ところが彼女は鍋の中にあった薬草ごと全て飲み干し、特に動じた様子がなかった。
「み、水を飲む?」
ふるふると首を左右に振る彼女。
「クレイが作ってくれた。ハクのために」
「そのつもりだったのだけど、失敗で……」
「失敗? よくわからない」
「ハクに少しでも元気になってもらおうと思って――」
唐突に抱き着かれたので言葉を飲み込む。
これまで余り感情を表にしなかった彼女が満面の笑みを浮かべているではないか。
「クレイの想い、おいしかった。少し元気が出た」
「う、うん」
俺から体を離した彼女がぐっと両手を胸の前で握りしめる。
鍋の中の液体が激マズなのは先ほど俺が試した通りだ。だけど、彼女は自分のために薬草を採集し煎じてくれたことが嬉しいと言ってくれている。
吐き出すのが当然なものを飲んで、全て飲み込み笑顔まで見せて。
これで奮い立たぬ俺ではない。
「2、3日、クーンと出かけて来るよ。明日の朝から」
俺の言葉にコクコクと彼女は頷きを返す。
明日の朝、発とう。
自給自足生活をするにあたって、まだ応急措置的な小屋しか完成していない。
クーンがいるから狩と採集だけで生きて行けるし、生活の充実は急ぐわけじゃあないよな。
それより、激マズ薬草スープを飲ませてしまったハクに今度はまともなモノを提供したい。
ならば行き先は一つだ。そう、街である。
ここで住むと決めて数日で街に行くのは早すぎるが、優先する目的があるからね。別に俺は街から追放されて出禁になっているわけでもないし。
◇◇◇
クーンと共に街に入り、一直線に冒険者ギルドへ向かう。
虹のかかる土地で暮らすために所持金の殆どを使っちゃったから、お金を稼がなきゃならんのだ。
なのでまずは冒険者ギルドで依頼を見てみようと思ってね。
ソロで依頼をこなすつもりなので、これまでの俺の「使えない付与術師」という悪評も気にしなくても良い。
今の俺なら並みの付与術師くらいの働きはできるけど、自給自足生活を送ると決めてから冒険者として何とか身を立てたいという気持ちはなくなった。
そんな俺に残った気持ちは金を稼ぐことのみである。
ソロでパパっとこなせて、報酬もそれなりの依頼ってないかなあ。
何のために金を? そうだな、それを語るに俺の考えた今回の作戦を語るとしよう。
まず目的だが、ハクに少なくとも俺が満足できる気力回復・滋養強壮効果のある丸薬なり煎じたものなりを用意したい。
そのために薬草は自分で採集するにしても、街の錬金術屋か薬師に加工を頼むか、知識を仕入れるかしなきゃいけないだろ。
誰かに何かを頼むにしろ本を読むにしろ、お金がかかる。
冒険者ギルドはいつもと変わらぬ雰囲気だった。数日間で早々変わるものでもないよな。
クーンを連れていても特に注目を受けることはなく、彼と共に受付まで足を運ぶ。
「クレイさん、今回もお一人ですか?」
「一人じゃないさ。相棒がいる」
「わおん」
冒険者ギルドの受付嬢に向けクーンが元気よく吠えた。
受付嬢は犬好きだったのか「可愛いですね」と笑顔を見せる。
彼女からソロでできる依頼を見せてもらい、どれにしようかなと内容を確認した。
やはり採集系がよいよな。街から離れた採集ポイントであればあるほど報酬も高くなる。
クーンがいるので遠くとも時間はかからない。
となれば距離のある採集クエストが良さそうだ。
「これにするよ」
「畏まりました」
選んだ一枚のクエストの書かれた用紙を彼女に見せる。
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