第15話 クエスト

 俺の選んだクエストの内容を見た彼女が念のためと確認してきた。

 

「参加者はお一人……いえ相棒さん以外にはいらっしゃらない、でよろしいですか」

「うん。他の冒険者はいないよ」

「畏まりました。本クエストはツバメ茸の採集です。実物をご覧になりますか?」

「大丈夫だよ」


 俺も彼女も慣れたものだ。採集クエストの場合はギルドに実物がある場合見せてくれることになっている。

 ツバメ茸は高級食材としても市場に並ぶが、ポーションや丸薬の原料としても使われるのだ。

 薬効のある植物の一つ……俺に馴染のある言葉だと漢方薬の材料の一種と言えばいいのかな。

 依頼元はポーションと薬草専門の錬金術屋と書いていた。お金が手に入ったら顔を出すつもりだったし、ひょっとしたら縁ができるかもって。

 徒歩で行くには遠いがクーンがいるならすぐだすぐ。距離が遠いほど報酬も良いし、俺にとっては条件が整い過ぎていて怖いくらいだった。

 クーンの黒くて丸い鼻をつんとして、「さあ行くぞ」と促したとき、受付嬢の目線に気が付く。


「相棒さんを使い魔登録いたしますか?」

「クーンは使い魔じゃないんだけど……でも使い魔登録をしておかないと困ることってあったのだっけ」

「一緒にお店に入ることができます」

「登録する」


 即答だろこんなん。俺が食事をしてクーンだけ外で待ちぼうけなんて有り得ないぜ。

 宿でも彼と一緒の部屋に泊まることができるんだよな。


「あのお」

「手続きはどうやれば?」

「どのお店でもってわけじゃありませんのでご注意くださいね」

「あ、うん」


 おっと先走りすぎたようだ。冒険者ギルドと提携している店だったらクーンを連れて入ることができるのだってさ。

 つい妄想が捗って彼女の声が聞こえていなかった。

 

「種族はワイルドウルフですか? それにしてはこの子、サイズが大きいですね」

「い、いや。ワイルドウルフじゃあないんだ」

「すごいです! ダイヤウルフなんですか!? 白銀のダイヤウルフってとても珍しいです」

「あ、まあ」

 

 ダイヤウルフから進化したクーシーということは黙っておいた方がよさそうだ。

 魔獣使いとは組んだことがなかったので、ダイヤウルフがどれほどのランクなのか全く把握していなかった。お勉強に精を出した俺だけど、毛色の違うジョブについては不勉強なもので……。

 ダイヤウルフは少なくとも初級冒険者が扱えるような魔物? 魔獣? ではない……と彼女の態度から判断できる。

 無事クーンの登録も済ませ、冒険者ギルドの紋章である二首カラスが入ったタグを受け取った。

 タグに革紐を通してクーンの首にかけておけばいいかな。


「今度こそ、行こう、クーン」

「お気をつけてください」

「ありがとう」

 

 受付嬢に向け手を上げクーンの首元をポンと叩く。

 

 ◇◇◇

 

 ツバメ茸の群生地は俺たちの住処とは別の方角で街から北側の街道を進んでから、街道を離れ山岳地帯へ向かうルートになる。

 日本と異なり街と村の距離はそれなりに離れ、街や村があるエリア以外はほぼ自然のままなのだ。

 稀にあるのは旅人用の小屋や水桶などだな。誰が整備するって決まりはないけど、定期的に商人組合か何かがメンテナンスをしている。

 そのための護衛や大工仕事のクエストもあったりするからさ。

 何が言いたいのかというとだな、街から出ると街道とその周辺以外で人工物を見かけることはなくなる。もちろん道なんてものもない。

 クーンにとっては街の石畳を歩くより、大草原を走る方が快適だ。

 ふんふん尻尾を振りながら俺を乗せ気持ち良く走ってくれている。


「この分だと暗くなる前に目的地まで行けそうだな」

「わおんー」


 大草原から起伏の激しい山岳地帯に入ってもクーンの足が鈍ることはなかった。

 そのため、更に早く目的地まで到着したんだ。

 到着した場所は切り立った崖の下。


「来るのは二回目だけど、観光名所にしてもいいくらいだよな、この崖」

「わお?」


 見事な凹型な崖で高さは推定200メートルくらいだろうか。傾斜はかなりきつく、ロッククライミング好きな人が見たらそそられると思う。

 この崖にツバメ茸は群生しているんだ。

 ツバメ茸の由来は崖で生育することから来ている。この世界にもツバメがいて、地球のツバメとよく似た修正を持っている。

 ツバメの巣は崖に作られることが多く、崖で生育するからツバメ茸と俗称がついて、いつしか正式名称となった。

 この日は街で買った干し肉とパンとリンゴを食べ、クーンの腹に頭を埋めスヤスヤと一夜を過ごす。

 モンスターの襲撃があるかもしれないけど、ソロだと交代で眠ることもできないし周囲に紐と鈴を取り付けることで最低限の警戒はした。

 寝なきゃ翌日に支障が出るのは自明のことだったから、あとは寝る度胸のみ。

 幸い、何事もなく朝を迎えることができた。起きてから気が付いたことなのだけど、聴覚を高める付与術をかけておけばよかったなと思ったが後の祭りである。

 次にソロで野営する時は付与術込みで考えることにしよう。

 

「天気は良好。風もほとんど吹いていない。クーンは下で待っていてくれるかな」

「わおん」


 本来は崖の上から命綱のロープを腰に巻き、仲間にロープを持って待機して万が一の時に支えてもらうのがセオリーだ。

 以前崖に来たことはあるものの、目的はツバメ茸の採取ではなかったので崖に挑戦するのは初である。

 今回は付与術を活用して崖を攻略しようと思っているので下から行く。

 まずは崖の状態を確かめてみようか。

 

「う、うーん。案外もろいな。自重で一部崩れたりしそうだ」

「わお?」


 俺の不安が伝わったのかクーンが首をあげ切なそうに鳴く。

 崖がもろい? 今の俺なら問題ない。全てクーンの魔力があってのものだけどさ。


「行くぜ。発動。エンチャント・アーマー」


 崖に向けて付与術を発動する。

 付与術は生き物だけじゃなく物質にも効果を及ぼすことができるのだ。

 代表的なのは武器を強化するエンチャント・ウェポンとか、エンチャント・〇〇という付与術はだいたい物質相手だと考えてもらうのが分かりやすい。

 

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