第11話 初めての家つくり

 夜になり、お楽しみのお食事タイムとなった。

 待ってましたとクーンは肉にかぶりつく。


「もういいの?」


 無言で頷くハクがフォークをお椀に置く。

 昨日もそうだったのだが、彼女は二口か三口くらいしか食べない。しかも、一日一食という、人間の常識からしたら明らかに栄養不足だ。


「俺の料理が食べられないものばかりだった? それとも人間の街風の味付けが良くなかったかな?」


 彼女はううん、とかぶりを振る。

 ちょんとお椀を指先でつっつき、そっけなく応えた。

 

「料理は好き。ずっとクレイにいて欲しいくらい」

「それは褒めすぎだって」


 表情と言葉がちぐはぐになっているぞ。眠っている時間が長いからエネルギー消費が少ないとか?

 それでも一日に8時間は起きていると思うのでエネルギーが不足すると思うのだけどなあ。

 内心悩む俺にハクが話題を変える。

 

「巣は?」

「一時的に雨風を凌げるものを、って考えているんだけど明日からかなあ」

「明日に?」

「いや、明日から作り始めようかなってさ」


 食糧は三日分ほど確保したし、クーンには悪いけど明日から家作りに集中したい。


「はっは」

「おかわりかな。俺も食べよう」

 

 暖めなおしたキラーボアの肉をかじる。

 野草と塩コショウで味付けしたキラーボアの肉は癖も少なく豚肉よりかなり淡泊な味わいで個人的には気に入った。

 マイタケと里芋のような芋、それにゴボウに近い味わいの根菜のスープをずずずとすする。

 芋やゴボウをいつ手に入れたのかって? 採集している時にさ。マイタケのあった周辺で芋もゴボウも見つけていたんだよね。

 採集生活をする予定だったから、調味料を街でしこたま買い込んでいるから味付けもバッチリだ。

 できれば味噌が欲しいところなのだが、残念ながらない。醤油もないけど、鳥ガラやらはある。

 鳥といっても鶏ではないのだけどねえ。

 街でよく使われているブイヨンとかがコンソメスープの素のように売り出されたら爆発的な売上を記録するだろうな。

 

「休む」


 俺とクーンがまだ食べていたが、ハクは先に鳥の巣のようなベッドへ潜る。

 

 ◇◇◇

 

 翌日になり、斧、枝落とし用のナタに付与術をかけ、自分をハイ・タフネスで強化した。

 タフネスは疲れ辛くする身体能力強化系の付与術で他の能力は強化しない。

 筋力とか敏捷を強化すると逆に細かい作業がやり辛くなってしまうことを懸念した。道具の方が強化されているので伐採も枝を落とすのも楽々だ。


「よいっしょっと」


 一撃で木を切り倒し、太い枝でもナタでさくっと切り離す。

 石材も軽々と切り出すことはできるのだけど、扱い易さは木の方が断然良い。簡易的な家ができた後に石材でやるか木材のどちらで作るのか考えればいいさ。

 

「地面から少しあげた所に床があった方がいいんだよな」


 地面に直置きで床となると雨が降ったらジメジメとしそうだものな。

 高床式にするのはちょっと難易度が高そうだったので、丸太を二段にして敷き詰め、その上に丸太をスライスした板を置く。仕上げはカンナでさささっと磨くことにした。


「わおん」


 できたばかりの床の上を走り回るクーン。


「クーンも気に入ったか」


 俺も床の上に乗り彼を抱きしめ首元を撫でる。

 おっと、遊んでばかりはいられないぞ。壁と屋根をどうするかだな。

 屋根は地面を掘り丸太を立てて柱とする。続いて屋根になる枠を作って、板を乗せた。安定させるために蔦できつく縛ってっと。

 漆喰も多少買い込んできたのだけど、使うとしたら壁だなあ。

 柱と柱の間に×になるように板を取り付けて、壁となるように縦に板を置いてから釘を打つ。

 

「こんなもんか」

「くーん……」

「あ、扉がないな……」


 幸い壁はまだ三か所しか取り付けてなかった。扉ってどうやって作ればいいんだろ。

 俺の出した結論は中に入れるだけのスペースを開けておくことにした、だった。

 家の中に入ったら板でスペースを塞いでおけばなんとかなるだろ。

 テントに毛が生えたような小屋であったが、これで雨風は凌ぐことができる。

 野宿よりは断然快適に過ごせるはずだ。

 

「さっそく確かめてみようか」

「わおん」


 家……小屋と言った方がいいな。小屋の大きさは中が六畳くらいで天井までの距離は2メートルといったところ。

 扉はなくて開いたスペースをくぐるようにして家の中に入る。

 ここで問題発生。

 クーンの体が通らない。

 ので、板をもう一枚取り外して、クーンの体でも通れるように改装する。

 さきほど床で遊んだが、壁があるとやっぱ違うな。

 全体的にお世辞にも綺麗とは言えない。所々、隙間があるし板の厚みも違うし、真っ直ぐに切れてない箇所も多々ある。


「よいな」


 それでも自分で作ったからか満足感と達成感が高い。

 こうして寝転がることもできる。


「まだ暗くなっていないし、ベッドも作っちゃおう」


 ベッドは事前に考えていたものがあるんだ。

 街で買った大きな袋に藁を詰めて封をするだけ。床に藁の詰まった袋を置き完了である。

 試しに寝ころんでみたら、ちゃんと柔らかく沈み込む。

 クーンも寝られるようにとダブルサイズより大きな袋にしたから家の中の多くをベッドが占めてしまった。

 

「よおっし。完成!」

「わおん!」


 えいえいおーと拳を上に突きあげたところで腹が鳴る。

 そういや朝から何も食べてなかった。クーンにも我慢させてしまって申し訳ない。

 今晩も同じキラーボアの肉がメインとなるけど、クーンに腹いっぱい食べてもらおう。

 この日もハクは食べ終わるとすぐに「休む」と言い残し鳥の巣のようなベッドに潜った。

 食事は彼女の家のダイニングテーブルで今しばらくの間お世話になることになるな。小屋は完成したので今度は我が家の建築にとりかからないと。

 なあに、時間はいくらでもある。素人の俺でも時間をかければ何とかなるだろ。付与術もあることだしね。

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