第30話 どうも探偵です
「どうも、探偵です……」
「どうしたの? クレイ?」
「気にしないでくれ……もう何がなんやら」
「そうね」
どうしてこうなった。クーンと共に街へ行きお金を稼ぐために冒険者ギルドで依頼を受けたんだよね。
そこで、先日ツバメ茸の採集を手伝ってもらったポニーテールのレンジャーのサラと再開したんだ。
依頼は街から徒歩で一日くらいのところにある村までの護衛というよく見るやつだった。距離的にも大したことはないので、報酬も安い。
村までモンスターに出会うことも滅多にないし、新米冒険者にもオススメである。
そんなわけで村への護衛依頼は新人に譲るのが常で、いくら底辺付近にいる冒険者の俺でも率先して手を上げるなんてことはしないさ。
複数の新人パーティが冒険者ギルドにいたのだけど、彼らは他の依頼を受けっちゃったんだ。
そんで誰も手をあげないところで、護衛依頼を受けたのがサラだった。彼女から村の地くに薬草類があるからと誘われ、ホイホイと彼女と共に行くことになったんだよね。
報酬額を見ると村の護衛にしては数倍のお値段だったんだよ!
彼女と二人で分けても採集クエストを受けるほどではないにしろ、それなりの収入になるし、薬草も採集できるならいいかなって。
なにより行きは一日、帰りはクーンに乗って数時間で街まで戻って来られるのが大きい。
「ええ、護衛対象不明。どうぞ」
「どうぞって言われても……」
「わおわお」
レンジャーなら、探すのもお手の物なんじゃないのか。
大袈裟に肩を竦められても困る。
なんかこう妙に報酬が高いと思ったんだよね。うまい話には裏がある。
護衛対象は猫……いや、タヌキ……のような見た目をしたペットだ。なんだったか種族名を聞いたのだが忘れた。
見た目は前述の通り、タヌキよりの猫のようであるが、大型犬ほどの大きさがある。
毛色が特徴的で目の周りと耳が黒で、体の方は白と黒のぶちになっていた。
護衛対象となるくらいなので戦闘能力は全くなく、犬猫と変わらないとのこと。
中途半端に大きいので抱きかかえて進むことができず、クーンに乗せて運ぶこともできないんだよなあ。人間のように騎乗姿勢を取れないからね。
ええと、種族名は……まあいい、猫タヌキは人間より歩く速度も走る速度も速いので楽だなあとか呑気に考えてた。
村までは土を固めただけだけど道もある。
それにサラと二人だから楽勝だぜ。
そう思っていた時期が僕にもありました。
「護衛対象不明。どうぞ」
「だから……」
「わおん」
ちょっと目を離した隙に猫タヌキが繁みの中に入っちゃってさ。慌てて繁みに飛び込んだのだが、猫タヌキが見当たらない。
賢い俺はすぐに思いついたさ。
クーンの鼻に頼ればいいんじゃないかって。しかし、猫タヌキの臭いを嗅いでもらう何かがないのでクーンにもどうしようもなかった。
そもそも、クーンが犬と同じように鼻が利くとも限らないんだよな。
「レンジャーのサラさんなら何とかしてくれる」
「人ならともかく、ラグドは無理よ」
「大きいからまだマシと思って捜すしかないな」
「早く見つけなきゃ、危険よね」
猫タヌキはラグドね、おっけおっけ。
そうなんだよな。人に慣れたペットが村や街から単独で出るとどうなるのか? 火を見るよりも明らかである。
猛獣や肉食のモンスターからしたら格好の餌だよな。警戒心がない肉ってのはよ。
「仕方ない。探偵するしかないか」
「クレイは冒険者じゃなかったっけ?」
「ま、まあ、そうだな。あ、冒険者なら冒険者ぽく捜せばいいのか」
「冒険者じゃないやり方なんてあるのかしら」
探し物を見つけるといえば探偵だろ。男の子なら探偵に憧れるものだよな?
残念ながらこの世界で探偵事務所を見たことがない。んじゃ、さがしものや事件の捜査はどうしているのかってっと、兵がやる。
街を運営する貴族が文官や衛兵を雇っているので、殺人事件なんかは彼らが捜査をするんだ。
そうはいっても全部が全部、街がやってくれるわけじゃない。当たり前のことなのだけどね。
街がやってくれないとなると、どうなるのか。そこは何でも屋の冒険者が依頼として受ける。
街がやるのが日本でいうところの警察で、冒険者がやるのが探偵……と言えなくもないか。
「クレイ?」
「あ、ごめん」
全然関係ないことを考えて止まっていたなんて言えねえ。
俺は一応まだ冒険者であるが、探偵ではない。言えなくもないかとは考えたものの、探偵と冒険者は別物だ。
推理なんてできないからね。
しかしだな、冒険者……正確には付与術師には優れた推理力をあざ笑うかのような力がある。
「発動。ハイ・センス」
お馴染み身体能力強化のハイシリーズのうち五感を強化するハイ・センスをかけた。
集中して周囲の様子を探らずともどんどん情報が耳、鼻、そして肌に伝わってくる。
ぐ……。強化された五感でラグドの気配を探ろうと思ったのだが、難しいかもしれない。
「情報量が多すぎて混乱してきた」
「付与術でラグドを見つけようとしたのよね?」
「そうなんだけど、なんというか雑音が大きくなっただけで」
「見つけるべき印がないなら当然よ。私だって一応レンジャーだから痕跡を辿れないかなと思って見ていたんだけど」
痕跡を辿るか。当然それは俺も考えたさ。
ラグドの通った跡とかあればって。しかしだ、歩いたところで足跡が残るような地面じゃあない。
臭いを辿ろうにも追うべき臭いが分からん。
「ん、何か聞こえないか?」
「草や葉が擦れる音、あとは虫かな?」
「そうじゃなくて、いや、やっぱりこれは」
「どこ行くの?」
「わおん」
人のうめき声が聞こえた気がしたんだ。人の声に集中してみると、確かに聞こえた。
ラグドを探さなきゃならないのは分かっているが、聞いてしまったからには声を放置しておくことはできないよな。
苦し気な声だったし、怪我をしているのかもしれないから。
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