第32話 それからそれから

「脛の骨が折れています。見た感じ、綺麗に折れていると思います」

「ありがとうございます」

「添木になるものを探しますね」

「何から何まで……」


 恐縮したようにペコリと頭を下げるノームの人であったが、動くとやはり痛むのか表情がこわばっていた。

 幸いというか複雑骨折じゃあなさそうだし、添木をして安静にすごせば回復が望める。

 これ以上の怪我となると回復魔法に頼るしかない。

 冒険者でも回復魔法の使い手は少ないし、冒険者以外となったら高い診療費用を取られるから幸いだった。

 木の枝をナイフで切断し、添木にする。

 包帯を巻けばとりあえずの処置は完了だ。

 ラグドのことを知っていた彼は行き先の村の人だろうから、ついでに送り届けることができる。

 

「よし、これで。村まで送ります」

「何から何まで。ピラルクに到着した後、必ずお礼をします」

 

 ピラルクというのは俺たちが向かう先の村の名前のことだな。

 いつも一番近くの村と呼んでいたので、村の名前を出されて一瞬、どこだ? となってしまったのはご愛敬である。


「お礼ならまずラグナにお願いしたいです。彼があなたを見つけてくれたので」

「もちろんです! 私は村の鍛冶師をしているジェロームといいます。親切な冒険者の方、私にできることなら何でも言ってください」


 握手を交わし、今度はこちらから名を名乗った。

 

「俺はクレイ、こっちはサラ。そして俺の相棒のクーンです」

「サラよ。よろしくね」


 ノームの鍛冶師ジェロームにはクーンの背に乗ってもらって、念のため落ちないようにロープで彼を固定する。

 タヌキのような猫のような動物ラグナはこの後ひょろっとどこかに行くことも無く、無事村へ到着したのだった。

 

 ◇◇◇

  

「確かに受け取りました」

「ジェロームを助けていただきありがとうございました」

 

 村に到着し、さっそくラグナを連れて村長の家に向い、彼からラグナ護衛の報酬と彼の印が入った書状を受け取る。

 報酬に色をつけてくれたようで、小袋がズシリと重い。サラと顔を見合わせ、貰ってもいいんだよな、と確認を込めて頷き合う。

 村長の孫の美少女なんて人もおらず、彼以外と言葉も交わすこともなく家を出る。

 用だけ済ましてとっとと外へ出たかったのもあったんだよね。村長からお茶を誘われたけど、待ち人がいるので丁重にお断りした。

 家の外で待っていたのは足を骨折したジェロームである。先に彼を家まで送ってから村長の家にと思ったのだが、彼からラグナも主人と早く会いたいだろうからってことで村長宅訪問を先にしたんだよね。

 そうなると、怪我をしたジェロームを外で待たせることになるから、なるべく急ぎで外に出てきたってわけなのだよ。

 本人は村の中は安全だからごゆっくり、と言うが、気にならないわけがない。

 

「工房はあちらです」


 クーンに乗ったままのジェロームが指さす方向へてくてくと歩くこと5分ほどで彼の工房に到着する。

 工房は村の外れにあり、平屋で石造りの簡素なたたずまいをしていた。

 こいつは頑丈そうだ。石で作る時ってレンガ作りと同じような作り方なんだよな、たぶん。

 まじまじと石造りの壁を見ていたら、いつの間にかクーンらは工房の中に入っているじゃないか。慌てて彼らのあとを追う。

 中に入ると、弟子らしきノームの少年がジェロームに肩を貸し、椅子に座らせているところだった。


「ここまでありがとうございました。この子は弟子のトッポです」

「トッポです。師匠を助けていただきありがとうございました!」


 少年も師匠と同じ種族のようだ。彼は12~13歳くらいの少年のように見えるけど、実年齢はもう少し上なんだろうな。

 見た目年齢だけだとこの前出会った鬼族の少年シュシと同じくらいに見える。

 自分が人間だからかどうしても見た目年齢を意識してしまう。なかなか改善できなくて悩んだこともあったけど、今はもう仕方ないと考え方を変えた。

 なんでも気のもちようなんだな、と実感したよ。これまで悩んでいたのが嘘みたいに楽になった。


「それじゃあ、俺たちはこれで」

「宿泊先は決っているのですか?」


 村長のところは事情があり急いだものの、ジェロームに対しても特段長居する理由もない。

 呼び止める彼に対し「いえいえ」と小さく首を左右に振る。


「街に戻ってから宿をとろうと思ってます」

「今から街へ? 夜通し歩くのですか」


 クーンの頭をポンとし、微笑む。彼に乗って帰れば街までもすぐだ。


「この子、とっても速いの。ね!」

「わおん」


 にっとし、クーンの背中を撫でるサラに対し、彼も元気よく吠える。

 せめて食事だけでも、というジェロームにどうしようかとサラと顔を見合わせた。


「食べていたら暗くなっちゃうよね」

「だよな。ジェロームさん、すいません」

「いえ、こちらこそ申し訳ありません」


 そんなわけで慌ただしく村を出て、街の冒険者ギルドで依頼達成の報告をする。

 どうなることかと思ったけど、無事依頼を達成できてよかったよ。

 サラと報酬を山分けして、解散の時を迎える。

 

「おつかれさまー。この後どうするの?」

「一杯やってからクーンも宿泊できる宿に泊まるつもりだよ」

「じゃあ、私も一緒に一杯やっていいかな?」

「もちろん、村で泊ってもよかったかもね」

「街の宿の方が落ち着くし?」

「それもそうね」


 村で一夜を明かそうとすると、村長にお願いして離れに泊めてもらうか誰かの家にお世話になるかの二択になる。

 いや、野宿を含めると三択か。

 屋根のあるところで寝泊まりできるのはよいのだが、宿屋じゃないので変に気を遣うんだよな。

 俺としては街の宿屋を利用できるのだったら、村より街の宿屋に泊まりたい。

 あの感じだとジェロームが家に泊めてくれただろうけど、またの機会でってことで。彼のところには近く訪れる予定だしね。

 彼と彼の知り合いの職人に色々聞きたいことがある。俺の自給自足生活を充実させるために。


※本作改稿いたします!結構変わると思います、、。

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