第23話 雨が降る
彼に付与術のことを説明しつつ、無事、四本の石柱を切り出すことができた。
石柱の切り出し方に工夫を凝らしているので、浅く地面を掘るだけでいけるはず。
工夫とは底部から50センチほどを徐々に太くするようにして、底部は上部の二倍以上の太さになるようにしたんだ。
これならそのまま立てても安定する。埋めれば更に。雨で土が緩んでも自立できる石柱なら問題ないと判断した。
「これで完成!」
「見事なもんでござるな」
「手伝ってくれてありがとう」
「お互い様でござるよ」
ふう、トラゴローに手伝ってもらったり相談にのってもらってりしたおかげで、昼前には作業を完了することができたぞ。
屋根は木製で支柱は石製というハイブリット構成となった。釘や紐とつかって固定はしたのだけど、暴風雨がきたら破損するかもしれない。
今のところ外れたり崩れる様子はないが、何分素人の手作りなもので安定性は保証できないのが辛いところ。
しかししかしだ。満足感と達成感が凄まじい。これが自作の醍醐味だよなあ。
この後はクーンと共に川で魚を獲って昼ごはんにした。トラゴローは猫だけになのか、魚が大好きなようでうまいうまいと何度も一人で呟いていたでござる。
食べ終わり、トラゴローの持参したお茶で一息つく。そして、いよいよ彼との別れの時がやってきた。
「付与術の神髄、しかと見せていただいたでござる」
「そんな大層なもんじゃ……お茶、ありがとう」
「近くまた、でござるよ」
「待ってるよ。もしいなくても俺の住処はここだから」
どこにしまっていたのかすげ傘をかぶり、顎紐を締めるトラゴロー。
前世日本でも見ることがなかったぞ。すげ傘なんて。
すげ傘とは頭にかぶる帽子のような傘で、山のような形をしていることから富士傘なんて呼ばれ方をすることもある。
トラゴローの持つすげ傘の材質はおそらく竹を編んだもので雨が降ったら、傘は水を弾き山でいうところの裾野から雨水が落ちていく。
鍔が広いので目に水が入らず、雨の中でも弓で狙いを付けるに支障がないだろう。
すげ傘を装着した彼は革手袋をはめ、手甲を装着する。竹笛とか取り出したりしないだろうな。
……これで準備が完了らしい。ある意味ほっとしたよ。
竹笛を吹き鳴らしながら魔物はびこる中を進むなんて自殺行為だぜ。
どこぞの虚無僧のようにピーヒャラやってたら襲ってくださいと言っているようなものだ。魔物を引き寄せて一網打尽にしようとするイケイケパーティなら話は別だけど……。
トラゴローは薬師だし、武闘派ではないだろうから。
ポンと彼の肩を叩き激励する。
「道中無事を祈るよ。次はどこへ?」
「鬼族の里へ向かうつもりでござるよ。なあに心配ござらん、吾輩には風神丸があるでござるからな」
トラゴローがトンと仕込み刀の柄を叩き白い牙を見せた。
大業物の風神丸は確かに心強い愛刀だよな。俺と違って彼なら風の刃をうまく運用するのだろう。
木を斬った時はビックリしたよ。後ろの木が風の刃でスパンといくとは。
両手を振り彼を見送る。クーンもわおんと吠え、彼の後ろ姿を見守っていた。
「あっという間だったな」
「わおわお」
クーンの首元をわしゃわしゃし、気持ち新たに日が暮れるまで何をしようかと考え始める。
……たところでハクが家から出てきた。
無表情で動きもいつも通りだったので、彼女の様子からは現在の体調を推し測ることができない。
「ハク。トラゴローさんきいて、薬をより分けておいたんだ。トラゴローさんの薬が無くなったら飲んでみて」
「飲んだ」
「トラゴローさんのは?」
「飲んだ」
「全部?」
コクコクと頷く彼女にあっけにとられた。
今回は前回のクソ不味い謎の煎じた薬草の反省から、彼女に渡したのは丸薬だけにしたんだ。
すり鉢やらも買ってきたのだけど、まだ試していない。トラゴローから軽く手ほどきを受け、薬草学の本もある。
準備はできているが、トラゴローがハクのために薬をもってきてくれたのもあって急ぐ必要もなくゆっくりとやるかあと思ってたんだよね。
ううむ。トラゴローと購入した店の情報によると、薬は全部で一ヶ月ほどの量になった。
それを僅か一日で飲んでしまったとなると彼女の体が心配だ。
「体調は……?」
「アナタとトラゴローの想い受け取った」
答えになっていない答えなのだけど、胸に手を当て目を閉じる彼女の様子から問題はないと判断した。
想いを受け取るって素敵な表現だよね。
トラゴローも俺も彼女に体調が良くなって欲しいという思いから彼女へ薬を届けた。効果があろうがなかろうが、その想いは変わらないのである。
種族が異なると薬の使い方も変わるのだが、滋養強壮系の薬は種族ごとに別れていなかった。
つまり、どの種族でも似たような効果を発揮するわけである。ただ、使用量については店でも触れてなかったよな。
ハクは俺より体が小さいのだけど、彼女の種族だと俺やトラゴローの一ヶ月分を一日で消費するほどなのかもしれない……。
う、うーん。なんだかこうしっくりこないんだよな。
俺の頭の中など露知らぬ彼女がだしぬけに思わぬことを口にした。
「離れた方がいい」
「離れる?」
「雨が降る」
「雨が降るから渓谷から退避した方がいいってこと?」
彼女の表情は変わらない。相変わらずいつもの無表情のままで、説明も短く何を言いたいのかイマイチつかみきれない。
退避した方がいい、となると結構深刻な状況を予想しているってことか。
「小屋だと雨に耐えられなさそうってことかな?」
ふるふると首を振る彼女。
ますますよく分からなくなってきた。暴風雨ってわけでもないのか……?
いずれにしろ小屋の補強はした方がよさそうだな。
屋根を作った経験を活かして雨の準備をすることにしよう。
……食糧もストックできるようにしとかなきゃいけないかもしれん。
「雨はどれくらい続くの?」
「七日」
食糧……腐らせないようにしないと……。
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