第22話 魔剣
「え、えええ……」
「凄まじい腕前でござるな」
仕込み刀を振りぬいた本人が一番驚いている。
一体全体、なにがどうなったらこうなるんだ。見えない斬撃を飛ばした? 俺にそんなスキルなんぞあるわけがなく。
「この仕込み刀は特別な力を持っているの?」
「仕込み刀の名は『風神丸』。その名の通り風の精霊の加護を秘めているでござるよ」
ひええ、振りぬいた時に良い音がしたなあと思ったが、業物の中でもほんの一握りの大業物だったのか。
俺は武器に余り詳しくはないけどこれでも一応冒険者の端くれ。基本的なことは知っている。
安価なものからいこうか。
もっともやすいものは鋳鉄製と呼ばれている剣やダガーになる。鋳鉄は素材を指す言葉ではないのだが、便宜上「鋳鉄製」と呼ばれているんだ。
鋳鉄の素材は鉄で、鋳型に鉄を流し込んで、型を取り、その後磨いて完成となる。鉄を打つ作業をしない分、工数が少なく腕も余り必要とされない。
切れ味は悪く、弾性が無いのでぽきんといきやすい。このクラスの武器をメインの得物として使う冒険者は俺の知る限りいないかな。
次は一般的に武器と想像されるものになる。素材は同じく鉄で、鍛冶師が鍛錬し剣やダガーを製造したものだ。
刃もちゃんと作られているので魔物と戦う場合でも安心して武器を振るうことができる。名工と言われる鍛冶師の武器は一般的な価格の数倍から数十倍の値で売られていることも。
名工の武器クラスでも目玉が飛び出るほど高いが、上には上があるんだよ。
素材が魔法金属と言われるもので作られていたり、ドラゴンの牙やら鱗で作られていたり、と素材自体が希少で鉄より硬く弾性もあり、といった感じだ。
そんな中、素材の効果か秘伝で精霊の力を封じ込めたりした魔剣と呼ばれる最高級品もある。
魔剣の中には振ると魔法を使ったかのように炎が飛び出てきたり、なんてこともあると聞いた。
トラゴローの風神丸もそんな最高級品の中の一つ……。
この猫、恐るべし。
「魔剣とは恐れ入ったよ」
「我が一族に代々受け継がれてきた業物で、どのようにして鋳造されたのかとんと分からぬのが残念でならぬでござる」
「振ると風の刃が出るのかな? おいそれと振るのは怖い……」
「そうでもござらん。心技体が揃い、鞘からの一振りで風神が出でるのでござる」
え。えええ。
そんな大層なことはしていないぞ。今は身体能力の強化もしていないから体は通常で、とてもじゃないが一流の冒険者クラスの身体能力ではない。
エンチャントをしたのでそのまま使ったわけじゃないが、居合の真似事をしただけなので技もないぞ。
謎であるが、こんな物騒なものを振り回すのは俺の手に余る。
エンチャントを解き、トラゴローに風神丸を返却した。
といった一幕があったが、伐採した木をスパスパと枝を落とし、板にしたりと加工を施す。
エンチャントした斧があればここまではサクサクなのは想定通り。小屋を作った時に比べれば木材の量も少ないし。
今回も小屋の時と同じで木を乾燥させるなんてことはしない。丸太を乾燥させたらどれくらいの時間を要するのか分からないし、そもそも乾燥のさせ方も分からず、木が腐ってさようならも有りうる。
ならば、生木のまま使っちまっても変わらんだろうと思ってさ。人間、割り切りは大切である。
木材は揃った。
板を張り合わせれば屋根部分はなんとかなりそう。
「支えておくでござるよ」
「ありがとう」
トラゴローに支えてもらって釘を打ち、屋根部分を作っていく。
問題はここからだ。どうやって立てるかなんだよね。支柱ってやつをよお。
穴を掘って丸太を差し込んで土を被せてみたのだけど、ぐらぐらするんだよね。
「深く掘れば安定するのではないでござるか?」
「そうなると高さが足りないかも」
「そうでござるなあ。雨でグラグラするやもしれぬ」
「あー」
穴を深くすれば解決ってわけにはいかないみたいだ。こういう時に相談相手がいるだけで助かる。
答えが出ないにしても自分の考えを整理することができるからさ。
漆喰はどうだ?
量はないが、固めるだけなら……地盤が心配かも。
「石柱ならどうかな?」
「レンガでござるか?」
「レンガの隙間って石膏で埋めるのだっけ」
「でござるな。なければ粘土を固めてもと聞いたことがあるような」
よっし。物は試しだ。
斧をおもむろに掴み、ふんふんと大きな岩の前まで歩く。なんだなんだとトラゴローもついてくる。
ここは渓谷だけに大きな岩がゴロゴロしていて石材には困らない。崖ならもっと大きな石材を切り出すことだってできるぜ。
うーん、もっと大きな岩はないかなあ。
目を付けた岩は胸の高さくらいまでだった。石材を切り出すだけならこれで十分なのだが、接着に不安が残るだろ。
廃材がところどころに転がる元村を進む。崖の近くに俺の身長より高い岩があった。長年の雨風によって苔に覆われている。
「この高さはそのままじゃ無理だな」
岩を見上げ「ふむ」と顎に手を持っていく。ここまで無言でついてきていたトラゴローから疑問の声があがる。
「斧の切れ味は先ほど見せてもらったでござるが、岩をも斬ると?」
「岩を切り出すのは問題ないのだけど、この高さだと届かないじゃないか」
「届かない?」
「うん。発動 ハイ・ストレングス、そしてハイ・アジリティ」
付与術を発動し、自分の筋力と敏捷性を強化。
アルティメットは力加減が難しいので、一段落ちるハイ系で行ってみよう。
ぐっと膝に力を入れ飛び上がってみる。
視界がぐんぐん上にあがり、岩のてっぺんを見下ろす。
よおっし、岩より高く跳躍できたぞ。
「そんじゃま、行くぜ」
再度高く跳躍し、斧を上段に構え岩の最上部へ向け振り下ろす。
ズガガガガガガ!
パカンと岩が割れ、華麗に着地する俺。
「な、なんと! 体術まで極めていたでござるか」
「あ、いや。元の俺じゃ無理だよ。この斧も体も付与術で強化したからだよ」
今度は尻尾がピーンと立って、毛が逆立つトラゴローであった。
さっきから付与術を発動させていたのだけど、彼は付与術のことは知らないのかな?
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