「女性鬼」(2008)
ヴァギナ・デンタータ。
※重要な概念です。覚えておいてください。どこかで役に立ちます。
女子高生……性の目覚め……禁欲主義……葛藤。なにかエッチなことが起こるに違いない!――そんな下世話な欲求を抱えて見に来た者たちの脳天に、空中後ろ回し蹴りをみまうかのような強烈な作品である。
そのブラックユーモアのセンスは、笑える/笑えないの境界線を行ったり来たりする。
しかし、ふざけているように見えて、本作は真っ向から性の問題に取り組んでいるのである。
ドーンは、再婚家庭に暮らす女子高生。気のいい義父のビルと優しい母親のキムと暮らしている。それから、アホでバカでろくでなしの義兄のフレッドも。
禁欲を貫く教会に所属しており、結婚するまで処女・童貞は守るべきと集会で主張し、聴衆から大いに喝采を受ける。
行き過ぎた禁欲主義は、町にも浸透していて、性教育の教科書のヴァギナ解説のページはすべてシールで見えなくされている。
バカバカしいと思う生徒が多いなか、もちろんドーンは賛意をしめす。
そんなある日、ドーンは集会で出会った美男子のトビーに一目ぼれをする。ふたりは、こっそり沼地で逢瀬をする。
距離が縮まって抱擁しあい、熱に浮かされたふたりは、ついに一線を越えようとしてしまう。
行為にいたる直前、正気にかえるドーン。一方、トビーは止まらない。嫌がるドーンの体にのしかかる。これではまるでレイプだ。
だが、次の瞬間、悲鳴を上げたのはトビーのほうだった。なぜ男のほうが悲鳴をあげたかと言うと……?
性体験の問題は十代の少年少女にとっては重要な問題のひとつだ。強く関心をもつものもいれば、激しい拒否感を抱くものもいる。
特に、作品の舞台となるアメリカでは、伝統的な宗教観も手伝って、清らかであることがひときわ重要視されるのだろう。
どちらにせよ、性体験に向かおうとするものには試練が待ち受けている。そう、「ヴァギナ・デンタータ」との戦いである。
ヒロインのドーンは歯を持っている。上にも下にも。性交すると、誰かを傷つけることになってしまう。それを知ったとき、ドーンはひどくうろたえる。
だが、そのヴァギナ・デンタータ的な不安を乗り越えたときに、ドーンは本当の意味で強くなる。スーパーヒーロー的色彩すらおびてくる。それも当然だ。ひとつの試練を乗り越えたのだから。
エロ描写もきわどく、グロ描写も容赦がない(とくに男性にとっては)。そんなセンセーショナルな作品だが、キラリと光るものを持っている。エロとグロを許容する精神のある方には、強くおすすめしたい一作だ。
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